2.砂の果実。 果実。 6-2
「……本気なのか?」
おにぎりを渡すような気軽さで約束通り果実を渡した天為に、コットスは様々な思いと戦いながら漸く、それだけを言った。天為は答える。
「うん。充分だよ。高坂も触りたがるだろうけど、天為が確認した、イキがいいと言っていたって言えば、見向きもしないと思うよ。」
「あたしは触りたい!」
ハルが子供のように言う。天為のあっさり感に感化されて、コットスはハルに果実……本当に果実なのだろうか?全てが天為の芝居の中ということは……を渡してしまった。だが、ハルも純真な気持ちだった。みんなを出し抜いて、果実を盗み出し換金しようなどという気持ちは霧散していた。
「すごい。すごいよ。熱くて冷たい。爆発しそうなのに、眠ろうとしているみたい……大胆すぎるくらいに繊細で……。」
ハルは気がついた。
コレは、世界の根幹なのだ、と。
ハルは気がついてしまった。キルクの狂気など、意味がない、と。永遠に五つの大魔術書を売り買いして覇権を争っている狂人達には解らない世界がここに在るのだと。これは世界の根幹と繋がる欠片なのだ、と。
「……要らない。」
ハルはコットスに果実を渡す。そうして、天為を睨んだ。いつもは陽気な赤く跳ねた髪の毛も、今は真面目につんとしている。
「理解出来ない。でも、感じたわ。天為。あなた達が、果実を確認出来れば良いって言ったこと。果実を見て感じた。九害に蝕まれて、崩落に沈むこのリム・リナとは別に……完全世界は生きている。そうでしょ?あなた達はそれを確認したかった。ねぇ。違う?」
天為は月色の瞳をぱちくりさせた後、にやりと笑い、大声を上げた。
「かはははははははは!!」
その声はからりと晴れて、ハルの言葉の何一つを否定しなかった。
「まぁ、そう言うことだ。詳細は、いつか機会があれば、ね。さぁ!コットス!行こうか。」
張りのあるよく通る声で天為は、言った。
「そうだな。」
コットスは同意した。信じられなかった。天為を受け入れていることを。コットスは本当の意味で天為に興味を覚えた。何だこの人間は。どこへ行こうというのだ。そこで、何を見て、何をなそうと言うのだ。早くも歩き始める天為の背を見て、そして一瞬、振り返る。長い、長い間、この隠された湖を訪れてきた。だが、一度だって、天蓋に注意を向けたことがあっただろうか?あぁ、当然ない。果実は天井に隠れその力で、水を呼び寄せていた。自身から水を湧き出させていたので在ればとっくに見つけていた。水中に佇む果実を。でも、誰も見つけられなかった。みんな、水源の無い地底湖に気を取られて、世界を見上げて未来を思いやることをしなかったから。
……でも、天為は違った。
彼は、全てを見つけて、繋ぎ合わせるのだろう。彼の前でコナゴナになった世界はどんな姿を予感させるのか……世界は、世界は何と言っているのだ?
彼らは地下道を進む。ウキハに向かって。そうだ。クレイフは今、存亡の危機にあり、決着はウキハでつけられる。善も悪も正も誤も全てはウキハに向かって流れ始めていた。彼らもまた、ウキハに向かう。全てを決する為に。そして、その彼らの背後では、果実を失った地底湖に異変が現れていた。水面が下がり始めていた。あぁ、果実は持ち出され……水源は徐々に枯渇し始めているのだ。クレイフは滅びに向かって進んでいる。渇水で滅びるのだろうか?ホードに攻め滅ぼされる?濁眼の聖騎士に?ラーダンモール?いや、崩落に沈むのか?解らない。余りにも多くの絶望がこの街を覆っている。だが、でも、いずれ、いずれにしても、クレイフは……滅ぶのだ。
何故なら、世界は既にコナゴナになってしまったのだから。




