2.砂の果実。 混戦。 4
「何者だ。」
ガンウェルは問う。彼の胸当てにはストクフの突き出した薙刀が突き刺さっている。ガンウェルはゆっくりと薙刀の柄を掴んだ。
「我が名はストクフ。フィンドア第三旅団落日の旅団長だ。この戦いを仕切っている。」
言い終えると共に、ストクフは全力で薙刀を押し込んだ。どれほどの怪力で在ろうとも、高々、人間如きがゴートに力で勝つことは出来ない。ストクフは薙刀を押し切り、目の前の無力な人間を差し貫……けない。ストクフは、素早く薙刀を引き抜こうとして、それが一ミリも動かない事を悟った。ストクフの表情が強張る。
「何者だ。」
先程の質問を返す。
「俺はガンウェル。この街の守備隊の長だ。貴様等は全員殺す。禍根はこの街に残させねぇ。」
ガンウェルは薙刀を掴んだまま、大段平を振る……魔炎が燃え上がる。ストクフの吐き出した魔炎だ。これまでの吹けば飛ぶような、弱々しい炎ではなかった。
……強い。
ガンウェルは、薙刀を離し、飛び退いた。お互い体制を立て直す。巨体を誇る二人の武人が対峙した。混戦の喧騒は、二人には届かない。彼らの頭上には、膿んだ砂漠の月がゆらりと煙っている。
ガンウェルは兜を脱いだ。岩を荒く削って作ったような力強く、彫りの深い顔だ。ストクフは思わずにやりと笑った。ガンウェルの表情に有る覇気と冷酷さを気に入ったのだ。ガンウェルもまたにやりと笑う。街人を巻き込んだ大混戦は、彼が忌み嫌う、世界を蝕む悪行であった、が、これは、違った。今、この瞬間の一騎打ちは違った。彼が愛しているケンカだった。ガンウェルは、甲冑の留め具を外し始めた。胸当てを難無く貫くような剣筋の持ち主に対して、甲冑など意味を為さない。ストクフはただ見ている。ガンウェルは両の籠手と、ブーツと一体に成っている脛当て以外は全て取り払った。大きく息を吸い、気を入れ直した。ミシミシと彼の筋肉が、音を立てて膨らむ。ガンウェルのマイトが更に大きく強く成る。ストクフがゆっくりと腰を落とす。彼もまた、マイトを練り上げる。薙刀を中段に構えた。大段平を上段に構える。
ぴったり、と周囲の空気が固まった。彼らのマイトが及ぶ範囲で動く物はなかった。この停滞が破られる時、この決闘は始まり、同時に終わるのだ。全ては一瞬だ。二人は何も語らない。ただ、きっかけを待っていた。大段平を振り下ろすきっかけを。薙刀を突き出す合図を。それは、その致命的な瞬間は自分で作りだすものではなかった。致死の時は、向こうからやってくるものなのだ。
……焦り、仕掛けた方が、死ぬ。




