2.砂の果実。 混戦。 3
街は混乱し、恐怖が渦を巻いていた。本来であれば、街が戦いの場に成る事は無い。必要以上に多い駐屯兵が敵を排除するからだ。通常であれば、だ。だが、ゴート達は通常ではなかった。光を捉える人の目から、完全に姿を消すことができる隠れ蓑を全員が持っていた。加えて、人より遥かに身体能力の高い彼らは隊列を必要とせず、個別に街に侵入する事を可能とした。大通りを、民家の屋根上を、裏道も何もかも、あらゆる場所から彼らは侵入した。クレイフ守備隊にも二人の術者がおり、彼らはゴートの侵入を見抜いた。だが、500体ものゴートが同時に個別に街に侵入するのを防ぐ事は出来なかった。ゴートは姿を隠したまま、砂漠の砂に乗り街に浸透し、一斉に守備隊を襲った。衛兵達は組織として対処できずに混乱したまま、戦いが始まった。ガンウェルの指示があり、組織としての指示を仰ぐことはなく班毎に判断を行っていた為、軍隊としての混乱は最小限だった。だがそれは暴徒と暴徒の争いにほかならなかった。そしてそれは、今も続いている。時刻は夜半を過ぎていた。
ごぼっ!
重い音を立てて、ガンウェルの大段平が夜の大気とゴートの命を奪った。死体は大地に打ちつけられ、彼に踏みつぶされる。ガンウェルは許すつもりはなかった。クレイフの平和を奪ったゴート達を、日々を誠実に過ごしてきた街人対する仕打ちを、子供たちに絶望の悲鳴を挙げさせる行為を許すつもりはなかった、と、言えるのなら話は美しいのかもしれない。実際は違った。ガンウェルが許さないのは、自身が大好きだった街を滅茶苦茶にしたことが許せなかったのだ。誰が死のうがかまわなかった。涙などとるに足らない。彼が許せなかったのは、大好きな美女と美食と単純なけんかが失われた事だった。それらは彼に取って、水であり、空気だった。彼が存在するための必要最小条件だった。ガンウェルは怒りで青く冷たくなり、全てが解決するまで止まることのない絶望だった。死、そのものだった。
ごぼっ!
また、ガンウェルはゴートを殺した。全員殺すつもりだった、が。
きし。。。
金属が軋む音に反応し、自身の甲冑の胸当てを見た。分厚い金属の鎧を貫いていた。薙刀が。
驚くガンウェルの眼前で、ゴートが姿を表した。左の角に欠損が有る……第三旅団長のストクフ、だ。ガンウェルの胸に薙刀を突き立てる彼は戦いの転換点を感じ取り笑った。砂漠の夜の大混戦がその流れを換え始める。




