2.砂の果実。 混戦。 2
「はえ?マジで?」
高坂は間抜けな声を出した。天為が砂の果実の在処が解ったと言ったからだ。高坂は天為を癒やしてもらうために、天為がその在処に気づいているような事を言った。でも、本当に気づいていたとは。天為はさらりと言う。
「正確には、どこに在るのかまでは分かっていないけど、どんなところにあるのかについては、把握した。」
「いや、オマエ、ちょっと。普通はそう言う情報は胸の内にしまっておいて、確実に果実が手に入るように全体をコントロールするもんじゃないの?」
自分達以外全員を出し抜いて、果実を手に入れようとしていたハルは、呆れかえって天為の事をオマエ呼ばわりしてしまった。天為は全く気にしていない。
「コットス。地下水路の全貌が知りたい。ざっくりとしたものでいいんだ。」
天為は気さくに問いかけた。
「答えると思うか?もう少し賢いと思ったんだがな。」
コットスは天為に失望した。そうだ。あのハルという女ドラフが正しい。誰かが砂の果実に関する重要な情報を持っているのなら、奪うまでだ。部下に欲しかったが、果実程ではない。果実を諦める訳には行かないのだ。崩落から街を救うには果実が必要なのだ。
「まあ、はっきり言おう。私は果実を必要としているのだ。余所者のドラフに渡す訳には行かない。貴様が情報を持っているのなら、何としても引き出してみせる。全ての脅しと、拷問が手段となる。」
「コットス!止めて下さい。彼は数少ないトマの生き残りなのです!」
「では、あなたが、彼を止めればいい。私は果実が手に入ればそれでいいのです。」
ハルは素早くマイトを練り上げ、術に備える。ハルのマイトの動きを感じて、ホランが長身をしならせ、セツナは何か致命的な行動を起こそうと瞳を見開き……
「果実は要らないよ。」
天為は言った。しれっと。ハルは意味がわからなかった。数多のドラフが探し求めて手にすることの出来なかった砂の果実。創国の宝殊とまで言われる宝だ。まさしく国が買えるような値段がつくハズだ。それを、要ら、ない?
「俺達は確認したいだけだ。」
天為の言葉を高坂が引き継ぐのを聞いて、ハルは益々、混乱した。見るだけ?そんな事のために今朝から命を懸けて、ウキハを這いずり回ってたって訳?
「はぁ?」
ハルは納得が行かない。驚きは過ぎて、怒りが膨らんできた。彼女は金が必要なのだ。キルクの呪いを解く為に。怒りを言葉に変えて、天為に投げつけようとしたハルより早く、コットスが言う。
「何とでも言える。言葉は意味を為さない。貴様の目的が果実である事に変わりはない。私は確実に果実を手にする手段を取る。」
コットスは笑わない。先ほどまでの打ち解けた雰囲気は消えた。地底湖で出会った瞬間のコットスに戻っていた。天為はかははと、笑った。
「水路の概略が解れば、果実の在処が判明する。と、俺は考えている。証拠は無いが確信している。そして、俺は果実を見に行く。ついて来たければそうすればいい。ここは、お前の庭、お前の世界だ。俺を信じれないのなら、好きにすればいい。俺は戦って此処を出て、水路を調べる。」
成る程、とコットスは納得した。例えば、此処で天為を倒し、拷問にかけて情報を手にしたところで天為の読みが間違っていたり、嘘をつかれていたら、まさしく骨折り損だ。例えば、天為と仲良く手を取り合って果実を探しに行ったとして、空振りなら振り出しに戻るだけ。時間以外の損失は無い。でも、本当に果実があったら?天為が果実を欲しがったら?そうだ。その時こそ、天為を殺せばいい。今、戦う必要は無い。コットスは決断した。
「ホラン!用意しろ!」
言い終わらない内にホランは部屋を抜けていた。まあ、とにかく仕事が速い。
「ご理解頂けたようで。」
ベッドで胡座をかき、天為はにやりと笑う。軽い彼の笑いとは裏腹に、皆、薄氷を踏んでいた。迂闊に動けば、氷が割れて落ちて死ぬ。微妙なバランスで成り立っている。果実そのものが欲しいコットス。果実を必要としているが、悪には成れないタマウ。果実がもたらす金が必要なハル。土地ごと果実を奪おうとするゴート。果実と無関係?なセツナ。そして、「確認」出来れば良いという天為と高坂。皆の利害を天為と高坂が微妙に繋げている。結んでいるのだ。誰かがその糸を強く引けばそれは、千切れてバランスを崩し……全てが失われる。
それでも天為は軽く笑う。外では底の見えない混戦が続いていた。腫れぼったい月と砂漠の風が冷酷に混戦を包んでいる。そう、世界はコナゴナに砕けて、死はとても近くに在るのだ。




