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世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第二章 砂の果実。
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2.砂の果実。 混戦。 1


 それは城壁を伴った城と言って差し支えなかった。但し、動く城、だ。フルプレートメイルを装着したガンウェルは城そのものだった。矢も刃も跳ね返し、攻め落とすには、大勢で取り付きよじ登り、崩し倒すしかない。ガンウェルは、一切の防御をとらずにゴートの群に突っ込み、大段平を振るう。長さ3メートル、幅1メートルの大段平だ。それはガンウェルが振るう度に、ごぼっと空気をこそげ取り、何もかもを打ち潰し、破砕した。周囲の民家ごと、フィンドアの魔人をなぎ倒していく。魔人達は魔性の炎を吐きかけるが、破格のマイトを誇り、気として発するガンウェルを焼く事は出来なかった。そこには、いつもの悪態を叫びながら戦うガンウェルはいなかった。本当の激昂が彼を無口にしていた。ただ、殺戮を繰り返すだけだった。魔人達は殺され、砂漠の乾いた大地に投げ出される。ガンウェルは淡々と殺戮を積み上げていった。圧倒的なガンウェルとは異なり、衛兵達は班毎にゴートを取り囲み決死の戦いを挑んでいた。衛兵が勝つ事もあればゴートが勝つ事もあった。両者は拮抗していた。巻き込まれて命を落とす街人も多数いた。街人達は必死にこの恐ろしい戦いから脱出を試みていた。運良く街から出ることができた街人は、夜の中を転がるようにウキハに向かった。脱出者の背後では終わらない悲鳴が鳴り響いている。



 「面白いな。フィンドアの魔人か。」


 クレイフの地下で無限に増殖している地下道の一つで、ボウモアは呟いた。目の前には、遠写しの術で作られた魔法の鏡がある。混乱のクレイフが写っている。ボウモアは地下道にアグラをかき、闇色のフードを落とし、小さく美しい顔を露わにしていた。白銀色の髪と透けそうな白い肌の中にある漆黒の大きな瞳が、目を引いた。額に新しい傷。愉快そうに笑う。


 「死ね。亡国の死神共め。ゴートがいようがいまいが、この街は滅ぶ。崩壊をゴショモウされているんだよ。ざまぁみろだ。」


 クスクス笑いながら街の惨劇を眺める魔術師ボウモアは地下道で胡座をかいている。彼女の背後には地下洞窟が広がっていた。そこには彼女の忠実な兵士達が待機していた。その数、3000。それは、クレイフ守備隊の総数より、多い。



 ……どうだ?」


 コットスはすっかり着替えて、さっぱりとしたスーツ姿に戻っていた。カツリ、と音を立てて立ち止まる。


 「駄目だ。意識が戻らない。」


 高坂は答えた。彼の座る椅子の前にはベッドがあり、天為が寝ていた。痣の男の登場以降、意識が戻らないのだ。呼吸は安定している。外傷等も無く、解毒も済んでいる。


 「やはり、痣の男の死と関係が在るのでしょうか。」


 心配そうに天為の事を見つめていたタマウがコットスに振り返った。コットスは肩をすくめる。痣の男のことなど、コットスに解る筈もない。彼らはクレイフに帰還した。長い地下道を抜けて。それはコットス達、ギルド月雲がウキハに行く為の秘密の通路だ。彼等が帰還したのは開戦直後だったが、地下道のおかげで、戦いに巻き込まれずに済んだのだ。まともに地上を通って来ていたら、無事では済まなかっただろう。ここは、コットスの隠れ家だ。天為の事を一旦は見捨てようとしたコットスだったが、彼等二人の事が余りにも興味深く、またタマウの言葉もあり、彼等を助ける事にしたのだ。


 「で、だ。部下にならないか?優遇するぞ。どの支部を任せてもいい。」


 「意外としつこいな。世間では、死神を引き入れると国が滅ぶと噂になっているんだがな。」


 無駄と承知していたが、コットスは事ある毎に勧誘してしまう。彼等は強い。国に何人もいない別格のドラフだ。彼等が仲間に加われば、色々と楽しい事が出来るだろう。


 「そうか。残念だな。」


 コットスは諦めてはいなかったが形状、引き下がった。控え目だが、上質な家具が置かれている品の良い部屋だった。重く厚いドアがすっと開いた。しなやかな長身のホランだ。後ろにはハルとセツナが続いている。


 「消耗戦です。クレイフ守備隊2000とホード500の戦いです。一般兵は互角、どちらの主戦力が先に潰れるかで決着します。」


 コットスはホランの報告と判断を鵜呑みにした。彼の想定と同じであったからだ。ホランは付け加える。


 「ギルドには応戦せずに待機するよう、指示を出しました。」


 コットスは頷いた。


 「天為は?」


 ホランの後ろから抜け出たハルは心配そうに囁いた。高坂は首を振る。そっか、とハルは気を落とした。セツナは複雑な表情だ。


 「……セツナ?あなたなら天為を助けられるんじゃない?賦活と癒やしに於いて、翼を持つ小さき者を超える種族は居ないと聞くわ。ねぇ?」


 ハルはセツナを真っすぐ見据えたが、セツナは目を逸らした。


 「……天為くんは死にはしません。あの嫌らしい痣の男も死んだわけではありません。マイトの一部を引きちぎられ、衰弱しているだけです。放っておけば、いずれ回復します。」


 「ねぇ、あなたが癒やしてくれたら、すぐ回復するでしょ?天為の事を助けて欲しいの。」


 セツナは答えない。彼女には天為を癒やす事は出来なかった。相反する存在を受け入れる訳には行かないのだ。でも、ああ、でも……


 私は本当に相反しているのでしょうか?今でも?


 「こちらは構わない。彼が治るまでここで寝ていればいい。それに少しでも恩義を感じて仲間に加われば尚、良いな。」


 コットスは真顔で続ける。


 「まぁ、気がつく頃にはこのごたごたが全て終わっているだろうな。高坂、お前達の目的がただの観光であれば、何も問題はない。治るまで寝ていればいい。ただ、やるべき事があるのなら、戦いに紛れて、と言うことも在るだろう。……因みに、ウキハで何をしていた?」


 「他の観光客と同じだ。砂の果実を探していた。」


 コットスとタマウの表情が一瞬固くなるのを高坂は見逃さなかった。変だな。クレイフ滞在理由としてはかなり模範的な回答である筈なのだが?何に警戒しているのだ?との、高坂の心の動きをコットスは見逃さなかった。


 「まぁ、いい。正直に言おう。我々は砂の果実を必要としているのだ。それも早急に。だから、ライバルは少ないほうが助かると考えている。特に有能なドラフは願い下げだな。」


 「天為は何か、見つけましたか?」


 タマウが口を挟んだ。部屋の空気が急激に険悪になり始めていたからだ。高坂はにやりと笑い答える。実直なタイプの男だが、ひねくれ者と旅を共にしていると素直さは浸食されてひねて行く。


 「ああ。見つけた。天為は果実のありかについて確信を持っている。」


 コットスは笑う。嘘か本当か解らない。判断も付かない。だが、そう言われてしまっては本人に確認するしかない。貴重な可能性だ。これで、高坂達とコットスの目的は重なった。


 「本当に面白い。亡国の死神か。ホラン!」


 コットスはホランに命じた。ホランも答える。


 「ククルカ!入れ。」


 ホランの言葉に従い。月雲のブブーサを着た痩せた老人が入室した。コットスは感心する。待たせていたのか。まあ、さすがホランだ。本当に誇らしいな。と、そこまで想って、苦笑した。いや、裏家業には不要な感傷だ。

 ククルカと呼ばれた老人は天為に近づきルーンを切り式を結ぶ。


 ……塵は灰に。灰は血に。血は肉と骨に……


 上向きに寝ている天為の額の上に黄金色の光が集まる。マイトの結晶だ。それは老人の指先に集まる。老人の指は天為の額に触れ、そこから、光の全てが染み込んで言った。


 「まあ、なんだ。この月雲にも癒やし手がいるのだ。世界で一番とはいかないがな。」


 セツナを見ながらコットスは笑い……セツナな当然不服そうだ……そして、一瞬の間をおいて、天為は瞼を開いた。彼は遠くに戦乱の音を聞く。

 今、この夜、静かなのはこの隠れ家だけだった。外では、クレイフの街は砂漠の夜の底で、極限の混戦に陥り……ああ、沢山、死んでいた。




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