2.砂の果実。 開幕。 7
……かつかつかつ。
いつも通り靴音を高く響かせながら、コットスは到着した。最下層だ。ウキハの。
「情報は確かなのか?ホラン。」
コットスは振り返りもせず背後の部下に確認する。長身のホランは愛想もなく告げる。
「ええ。確かです。侵入者の形跡が確認されています。恐らくは……
ホランは素早くナイフを掴んだ。そうしなければ、右耳の奥深くまで、突き刺さっていただろう……そのままナイフを投げ返す。洞穴の暗がりの奥に潜むその男はホランの一撃を軽く受け止めた。おはよう程度の気さくさで。男は、素直に影から姿を表す。ホランは、コットスに報告する。
「牢獄に現れた男です。オーダー(手配書)に載っています。高坂です。」
珍しくコットスは好奇心を掻き立てられ、振り返る。目の前にはあの時の戦士がいた。地下牢でホードと銀髪のドラフが逃げ出した騒ぎの時の戦士だ。成る程。
「ただ者ではないと直感したが、間違いではなかったようだな。高坂か。かの有名な“亡国の死神”か。」
「どうだろうな。通り名は俺が決めた訳ではない。」
彼らしい返答だ。だが、コットスは彼らの事を調べ上げていた。あの牢獄での出来事で、天為と高坂の危険性について判断するところがあり、二人の事を調べ上げたのだ。彼らは死神だった。トマを滅ぼす引き金となった最初の落魂を呼び寄せたのも、ノースラドの呪われた廃都コーマを崩落させたのも彼らだ。彼らは世界中のドラフ達から、死神と呼ばれていた。現存している国を滅ぼした事と、過去最大級に繁栄した王都を発見し、消滅させた、冒険者として。
「まぁ、我々も油断しすぎた。裏道から来るべきだったな。これまでウキハに向かう散歩で問題が発生したことがなかったものでな。だが、かの死神とご対面できた事を思えば、この馴れ合いも悪くなかったと言うことか。」
高坂は相手の言葉には惑わされない。そもそもこの様な場面では相手の話など、聞かないに限るのだ。
高坂は判断を下す。敵か味方か。
……うむ。敵だな。
判断は単純だ。思い込みで判断するだけなのだから。高坂は飛び出す。ナックルをはめた重い拳を繰り出す。コットスの心臓を狙い長く深く拳を突き出した。コットスは能力を発揮する。ホランは巻き込まれないように素早く、その範囲から逃れる。高坂の拳だけがコットスの能力の範囲に差し掛かる。高坂は一瞬で理解した。これは吸魂だ。全力でその範囲外へと逃れる。飛び退いて転がり範囲外から問う。
「術か?式を唱え印を切ったようにはみえなかったが?」
地底湖は静かに佇み、さざ波一つたてていない。冷たく大きな空間を通り抜ける空気独特の澄んで篭もる風の音だけが、そこを駆け抜けた。音もなくコットスは笑った。
「正直に言おう。私は特異点なのだ。シグラルだ。私はマイトに対するシグラルであり、間近のマイトをゼロにする事が出来る。」
「コットスさん。それを言ってしまっては……
「良い。一端私の間合いに入って逃れた者であれば、私の能力が何であるかは理解できるはずだ。それに、」
コットスは手を後ろに組んだまま、真っ直ぐの姿勢と視線で高坂に向き合った。いつの間にか地下洞穴は魔法の輝きで明るく照らし出されていた。その様な仕組みがあり、コットス達はそれを使えるのだ。彼は続ける。
「それに、解ったところで対策の打ちようがない。格闘戦では、解決出来ない。どうする、亡国の死神よ。」
にこり、とコットスは笑った。素直な高坂は頷く。
……うむ。そうだな。どうする。俺。




