2.砂の果実。 開幕。 2
良く乾いた洞穴だった。通常、地下にある洞穴は狭く湿り気を帯びて、息が詰まるような圧迫感を感じるものだ。だが、ここでは違った。砂漠の熱く乾いた空気が奥深くまで吹き込むのか、何処までも乾いた洞穴が続いていた。乾いて清潔なこの洞穴は、自然に出来たものを装ってはいるが、確かに人工的な建造物だった。所々に隠し損ねたノミの後や不自然に均された地面が見受けられた。
月光の術で作り出された光の球を掲げる高坂が先頭に立って洞穴を進む。その後をハル、天為と続く。
「何、ってゆう目的が無いみたいよ。この洞穴には。」
ハルは、自身の調査結果を彼らに報告していた。月光の術にアーモンド型の瞳と白い肌がキラキラと輝いていた。
「無数に分岐する洞穴は全て地底湖か、世界樹の根に行き着いて終わってるらしいの。でも、地下道は人工物。どこにも隠し扉はなく、ただ行き止まりの地下道があるだけだって。」
銀色の跳ね上がった髪とお揃いの銀色の瞳を月そのもののように輝かせながら、天為は口を挟む。」
「地下道は人工物。地底湖か世界樹の根で地下道が終わる。この2つは事実だろうね。怪しいのは、行き止まりっていう判断だね。」
「どういうこと?」
「ま、行ってみないとなんとも、ね。」
うーん、と唸りながらハルは汗を拭った。先頭を進む高坂も先ほどから、しきりに汗を拭いている。
暑い。
普通は地下を進めば、涼しくなるものだ。だが、ここは違う。火山や温泉が在れば話は通じるのだが、このクレイフにはそんなものはない。では、何故?唐突に高坂が振り返る。真顔でハルに聞いた。
「今……オナラしたか?」
「は?はぁああ!!?」
ハルは真っ赤になって、汗だくで怒った。
「えーー!ナニソレ!ちょっ、ちょっと、酷くない?えーー!ちょっと!天為!高坂が失礼なんですけどー!!」
振り返るハルに天為が追い討ちをかける。
「でも、確かにクサイぞ。オナラじゃなければ、実を……
ハルは天為に頭突きした。天為は意味不明の叫びを上げる。ハルは興奮のし過ぎで眩暈がした。
「何であたしがオナラするのよ!しかもこんなにクサイ……オナラ……を。」
言いながら、ハルの言葉は尻すぼみになる。そう。確かにクサイ。そして、眩暈も酷い。あれ?何だろこれ?砂風邪?確かにここは暑すぎるし、熱中症にかかってもおかしくないかも……とのハルの心の言葉に天為が答えるかのように問いかける。
「いや、そもそも、地下でこんなに暑いのは異常だ。この悪臭も。」
一番、身体の大きい高坂が気づいた。
「まった。変だ。洞穴が縮んでないか?」
あっ、と3人が気づくのと、洞穴が大きく縮小するのが同時に起こった。周囲の壁が収縮し、3人は一塊にされた。岩肌に見えた周囲の壁は、弾力のある生暖かい何かで出来ていた。絡まりながら彼らは口々に叫ぶ。
「なんだこれ?」
「やー!変なとこ触らないで!」
「フカコウリョクデス。」
「これはイワムだな。巨大なミミズだ。体内が岩の見た目の巨大なミミズだ。ちょうどこんな感じで、地下道で口を開けて馬鹿な獲物が向こうから口の中に飛び込んできてくれるのを待つという気の長い狩りを行う巨大地竜“オオミミズ”だ。」
「ほー。でその馬鹿な獲物って誰?」
「今の場合、お前だな。天為。かなりの馬鹿だ。」
「いや、お前が先頭だったっつーの。」
「てか、自慢の刀でこんな虫なんて切り裂いてよ!」
「そうだな。早くしてくれ。このミミズは体内の有毒ガスと強力な消化液で獲物を仕留める。時間がないぞ。天為。」
成る程、と天為は行動を起こそうとするが、収縮したワームの体が古刀を鞘ごと押さえつけており、向き抜くことができなかった。
「ごめん。鞘から出せないよ。」
「はぁ?どうするのよこれ!あっ!」
ハルの動揺で月光の術が解けて、光が消える。暗闇がこんがらがった彼らを包む。
「まずいな。気持ち悪くなってきた。」
「うむ。ワームの体内ガスのせいだな。」
「ねぇ、何だか身体が濡れるんですけど。」
「うむ。消化液だ。強力だぞ。」
「落ち着いてないで、何とかしてよ!」
「かと言って慌てた所で、ねぇ……。」
「はぁ?何でそんなに落ち着いていられるのよ!死んじゃうわよみんな!」
「つか、身体の自由が利かないんじゃどうしようも……。」
「わかりました。私が何とかしましょう。」
「お、いいねぇ。」
「うむ。頼む。」
「何とかできるんなら、早くしてくれればいいのに!もぉ!」
ん?
「いや、ちょっと待て。落ち着け皆。なんか変じゃね?一回点呼とるよ。はい、イチ!」
「ニだ。」
「サン!」
「ヨンです。」
増えてんじゃん……。何だよ、ドウスンノコレ。何がピンチなのかわかんなくなってきたよ、もう。
という、半泣き天為の弱音でお仕舞いなのです、今週は。




