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世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第二章 砂の果実。
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2.砂の果実。 開幕。 1


 風が凪いでいた。砂には微かに湿り気が残っている。日はまだ上らない。空は光を帯び始めている。今、砂漠の朝が始まろうとしていた。


 ……うし。行くか。」


 天為は、からりと言い放ち、薄明けの空を見上げた。どこか緊張して白い顔をしたハルが、彼の後に続く。更にその後に巨大な背嚢を背負った高坂が、続く。どしり、と重い足音が響く。昨晩、乱闘騒ぎで大はしゃぎした酒場の仲間は誰一人として起きていない。宿屋の前の道はただただ道として、彼ら旅人を受け止めた。道の先には断崖がそびえている。彼らは、クレイフを取り囲んでいる高台……ウキハと呼ばれる……に向かう。見送る者は誰も居なかった。まぁ、始まりは大抵、味気ないものだ。それが重要で在る場合は、特に。

 彼らは天為の立てた作戦を実行するべく、ウキハに向かった。天為の作戦とは、高台からクレイフの地下に流れ込む湧き水をせき止め、クレイフの地下道の水を抜き、地下道の最奥にある……ハズの……砂の果実を手に入れることだった。正しい考えだろうか?上手く行くのだろうか?わからない。だが、これまで誰も試さなかったという、この一点を考えるのであれば、これは正解で在る可能性があった。日々、数多のドラフ達によって繰り返されている、数千回も探索された地下迷宮を調べ直すよりは遥かに可能性がある。そう、より正解に近いと言えた。彼らは、断崖へと続く道を真っ直ぐに進んだ。砂漠とは言え、ウキハの影に入る地域で、背の低い草木が点在している。乾いてはいるが穏やかな道だった。その道は、断崖の直下でなくなった。そこからは、高坂が調べておいたルートを辿り、垂直に近い道を進む。

 いつもはくだらない事ばかり話す3人だったが、この時は、無言だった。気づけばウキハの頂上近くまできていた。そこで、道は2つに別れる。時刻は、朝と昼の間。


 「ここが分岐点だ。このまま崖の頂上までいくか、此処から……ウキハ内部に進むか。」


 ウキハを調査していた高坂は、二人に告げた。これまでの断崖の道とは違う、ウキハの内部に伸びる深い洞穴が現れた。通り抜ける風が、巨大生物の呼吸にも感じられる。暗黒の洞穴を覗き、漠然とした死を感じたハルは天為の顔を見る。お任せの合図だ。


 「そだな……


 天為は一瞬、思案する。ほんの一瞬。二人からすれば、悩んだとは感じられないくらいの一瞬。


 ……頂上から探索すれば見落としはない。でも、時間が掛かる。ここから探索すれば、話は早い。で?頂上からここまでの間に、水源があるのか?無いのか……。


 ちらり。


 天為が覗き込んだその先。何かがキラリと輝き、闇に沈んだ。不安を感じたハルと高坂は、天為にこのまま頂上に向かおうとの、提案を、


 「よし!中に入ろうか!」


 天為ははっきりと言い放った。満面の笑みだ。ハルは、半被りのフードの中から、アーモンド型の大きな瞳で訴える。


 「ねね、今、そこで、何か動かなかった?なにかやな予感しない?危険の匂いがしない?ねぇ、崖の上から侵入しない?」


 慌てるハルをよそに高坂は、既にウキハ内部の洞穴に向かい歩き始めていた。


 (立案者は独りでいい。チームはそうやって進むものだ。)


 彼の信条だ。が、しかし、それは、彼の父の言葉だ。高坂は苦笑いする。未だに父の教えの中で生きている自分に。でも、そして、彼は父の村の平和を祈った。


 「そう。危険が在る。だから確かめて、取り除くんだ。対処すれば危険じゃなくなるんだよ。」


 天為は時々バカみたいな正論を吐く。でも、嫌いじゃない。諦めて、斜に構えているよりは百倍マシだ。そう、暗躍が生き甲斐のキルクの連中などよりは。ハルはマイトを整え、高い位置にある果実をもぎ取るような仕草で印を切った。その手のひらに光が宿る。月光の術だ。


 「はいはい。カシコマリマシタ。てか、危険に対処出来なかったらどうするのよ。」


 意外と素直について来るハルに彼らは好感を持って、笑い声を返した。天為が答える。


 「対処出来なかったら、そこでおしまい。オシマイの先を考える意味はないよ。」


 「あー、それキベンだ、キベン!あたしのこと、煙に巻こうとしてるでしょ!」


 カハハ、と天為は愉快そうに笑いながら、月光を受け取り、奥へと進んだ。彼らの進む先は暗く何者かの気配が重く澱んでいた。

 そして、彼らが入ってきた岩壁の裂け目から見える空は青く澄んでいて、まだ砂のかからない美しい姿を保っていた。平和な砂漠の1日を予感させる穏やかな空が見えていた。ハルは最後にチラリと裂け目の向こうの美しい空と砂漠を眺めてから、洞穴に向き直った……直後。その美しい世界を何かが横切った。何かが落下していった。その一瞬で世界は輝きを失い、風景は不安に包み込まれた。3人はそれに気付かなかった。そのまま、洞穴の奥へと進んでいった。彼ら特有の歯切れのよい冒険心で、振り返らずに。もし、もし、彼らが崖を落ちていくそれを目撃したのなら、物語は大きく変わっていただろう。誰の願いも叶わずに、物語は終わっただろう。でも、そうはならなかった。運命は彼らを引き合わせなかった。いや、それぞれの決意がすれ違いという必然を呼んだのかもしれない。とにかく、天為達は洞穴に進み……濁眼の聖騎士は、崖から飛び降りて、街に向かった。


 500メールの崖から飛び下り着地して、そのまま歩き出す。細かに波打つグレーの髪が整った顔を縁取っていた。白濁した瞳が不気味で美しい。フルプレートを着込み、12本の剣を背負う彼は優雅に歩く。まるで、最高のバカンスを楽しんでいる身軽な旅行者のように。長すぎる6本の指のついた手で闇色のマントを開く。ぎいいい、っと口の端で笑う。


 ……さて、そろそろ会いたいものだな、ローランド。


 12の無刀を駆る騎士は、楽しみで仕方がなかった。欠片を集め繋いで、世界を知り、このコナゴナになってしまった世界を取り戻す……壮大なゲームだ。誰にも邪魔はさせない。


 ぎいいい、と笑う。


彼は歩く。クレイフに向かって。神と人の境界を曖昧模糊とさせる彼の周囲ではコナゴナになった世界でさえ歪む。それはまるで……世界が泣いているように見えた。

 

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