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世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第二章 砂の果実。
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2.砂の果実。 利害。 5

 ……かんぱーい!!」


 ちびり、と高坂はエール酒を啜った。酔っ払いの乾杯には付き合わない。寧ろ、何回目の乾杯なのか?クレイフの街の奥深く、熱砂騎士団側の酒場で彼らは、ハルの合流を祝っていた。旅は道ずれ。これからは3人で宝珠を探すことにした。砂の果実を探すのには、人数が足りないと考えていた彼らの利害が一致したのだ。ハルからすれば、既に命を助けて貰った相手に対して、仲間に相応しいのか考える必要はなかったし、天為からしても、命を助けた相手であれば、他の誰かより裏切る心配は少なかった。だか、高坂はちょっと警戒が無さすぎると考えていた。でも、まぁ、天為には何か考えがあるようだ。

 自己紹介がてらこれまでの旅の……話せる……話をお互いにしていたのも遠い昔、今は二人の酔っ払いがお互いに向かって、言いたいほうだい言っている。所謂、言葉のドッジボールだ。


 「だから言ってやったわけ、そのカマトロはあたしに食べられたがっているって、だってさだってさ、そうでしょ?あたしが食べたいんだもの、向こうだって食べられたがっているに決まってるもん。」


 「あぁ、同感。そもそももそもそ、酒はイスイが至高だね。口に含んだときの華やかでかわいいフレーバーの下をくぐるような、切れのある味わい……いいな。飲みたい。おーい、オヤジ!イスイだイスイをもってきてー!コイツの奢りでー!」


 天為は高坂の事を指差すが、高坂は天為の指を避ける。天為の指す先に隣のテーブルの見知らぬ兵士達の集団がある。天為に奢らされてるとも知らずに宴会を続けている。酒場のオヤジはお構い無しで酒を持ってくる。


 (昔はこのパターンで良く奢らされたなぁ。)


 高坂は、しみじみと思う。天為は、酒のウンチクに飽きたのか、トッペの美味しい食べ方についての講釈を始めていた。いつのまにか馴染んでいるハルの話は、カマトロとカタニクのどちらがうまいのかに移っていた。高坂またちびり、とビールを舐めて天井をたゆたう何かの煙を見つめていた。


 (……ほんと、遠くまできたなぁ。)


 ふと、捨ててきた故郷と、助けてやることの出来なかった少女に彼の想いが流れた。高坂の視線は意味もなく辺りを彷徨う。遙々、本当に遙々やってきた。雪に埋もれる山々から、廃都を抜けて……今は砂漠。信じられるか?喧騒の中で、旅を振り返る彼が今いるのは、ランプの灯りに照らし出された比較的まともな酒場だ。綺麗に並べられた木製のテーブルが広い酒場を埋め尽くしている。満席だ。活気があり、陽気な音楽家達が誰も聞いていないにもかかわらず、満面の笑みで演奏していた。地方都市にしては、破格の賑わいだ。このクレイフが栄えているのは、異常な数の兵士が駐屯していることと、多数のドラフ……漂白者や冒険者と呼ばれる流れの者……達のお陰だ。


 「……皆、砂の果実を探しにきたんだろうな。」


 高坂の呟きに反応して、二人は投げっぱなしの会話という、新しいコミュニケーションを一時中断した。


 「そうだった。忘れてた。」


 「あ、思い出した。」


 どうやら、二人は、なかなかに気が合うようだ。二人とも、ブブーサのフードを半被りにして、変装しているつもりになっているところなんて、十年来の親友のようだ。ちびり、と高坂はビールを煽る。彼はポテトフライのマッシュドポテト添えをうまそうに食べた。租借して飲み込んで、話しを始める。


 「で、どうする?」


 高坂はいつも聞き役だ。訳の分からないプランを捻り出すのは、天為の役目だ。くぃっ、と天為はイスイを煽り、たん、と猪口をテーブルに置いた。


 「探りやすそうな地下道を幾つか当たってみた。どれも水脈にぶつかって終わる。果実は水の中だろうね。」


 「何で?あたしは、街の誰かが隠し持っているに一票!」


 「それはあるかも。でも、俺は水の中に一票。国を作り、国を動かす宝珠を隠し持つ「だけ」なんて意味が無いよ。誰であれ、果実を手にしたのなら、売るか、使うかする。保管の選択肢は無いよ。」


 うーん。確かに、とハルは呟き天井を見やる。緩やかな胸のラインが愛らしい。天為は続ける。


 「もう一つ、深い位置にある地下道は、整備されていた。地下道として整備されていた。」


 「つまり?」


 「つまり、水没した地下道の先には、設計された何かが……恐らくは、わざわざ地下深くに作るだけの価値のある部屋……が、在るはずだ。お金をかけるのには必ず意味が在るんだよ。」


 「了解。納得した。」


 高坂は大体の場合、直ぐに納得する。話途中でも、納得する。彼は天為の話し方だけに注意しているのだ。底に自信が在るのか?それがあれば後は彼のプラン通りに動くだけだ。


 「でもさ、その大事な部屋を誰が水没させた訳?大事なら、大事にすればいいのに。特にそれが創国の宝珠と呼ばれる様なものの保管場所なら……あー……


 言いながら、ハルは間抜けな声を出した。両手で赤色の髪をわしゃわしゃした。天為はふふふ、と笑った。


 「そっか、果実を守るために水没させたんだ。」


 ぴっ、と天為はハルの眉間を指差した。すらりと伸びた繊細な指だった。


 「それが、俺の結論だ。」


 ハルは、可能性を見た。この二人が砂の果実を発見する可能性を。天為は自信あり気に笑っている。砂の果実の在り方については、3つの噂があった。一つは、街の地下に広がる迷宮の中。一つは、地上に広がるスラム街の廃墟のどこか。最後の一つは、街を見下ろす高台にある不思議な洞穴。これまで、数多くのドラフが様々な思いで、これらの場所を探索してきたが、果実は発見されていない。迷宮や廃墟や洞穴はそれぞれ広大で、まだその全貌は把握されていない。これらの作りかけの地図はドラフ達の間で非常な高値で取引されている。天為は、これまで探索がなされなかった地下水道に焦点を絞ったのだ。ハルは、その決断に可能性を見た。天為は、確信しているようだ。そう、これまでの百万の探索とこれから自分達で行う、次の一回は全く異なるのだと。これまで、誰一人成し遂げられなかったのは、不可能だからではなく、やり方の問題だと。彼は自分が砂の果実を発見することを……確信していた。


 「あ、いや……でも。どうやって?どうやって、水没した地下道を探索するの?」


 「単純に行くよ。」


 天為はヘラヘラ笑う。よそ見している隣りテーブルの酔っ払いから、自然な様子でお酒を横取りした。一気に飲み干して、告げる。


 「地下に流れ込む水を止める。」


 「おい、そんなことをしたら、街の人々が……


 「ま、それは彼等の問題じゃね?俺達は、俺達の問題を片付けるだけだよ。」


 「ヒドイ話だけど、悪くはないかも。で、貯まってる水はどうするの?自然に抜けるのを待ってたら、すごく時間がかかるとおもうんだけど。」


 「……と、言うわけでここで新しい旅の仲間が登場して、俺達の問題を解決してくれるんだ。」


 「え、誰?」


 ハルは、突然の展開で慌てて周りを見渡した。てっきり天為と高坂の二人だけだと思っていたが、他にも仲間がいるようだ。だが、周りを見渡しても、底抜けの酔っ払いばかりで、とても天為や高坂に釣り合うドラフは居ないように思えた。一体この中の誰が新しい仲間なのか、彼らに聞こうとハルは短い髪を揺らして振り返った。

 そのハルの様子を見て、天為と高坂はぽかんとした。一瞬お互いを見やってから彼らは、爆笑した。


 「ちょっ、なによ、なに?なんなの??」


 天為と高坂が指差す。ハルを。


 「ハル、君だよ。君が全てを解決してくれるんだ。」


 漸く状況を理解して、真っ赤になって変な汗をかくハルの事を二人は好ましく思った。天為がまた、他人の奢りで酒をオーダーし、高坂はエール酒をちびりとすする。何だか落ち着かないハルは、高坂の大事なポテトフライのマッシュドポテト添えを横取りする。じゃぁ、俺もと、天為は他人の肉料理をくすねるが、見つかってしまい、騒ぎが起こる。喧嘩っ早い無関係のドラフが仲裁をする振りをして、喧嘩を大きくした。それは、酒場全体を巻き込む大騒ぎに発展して……怒鳴り声や、笑い声が……そうやって、新しいパーティーの初めての夜は少しずつ、少しずつ過ぎていった。


 砂漠の夜は暖かく優しく、漂泊者達を包んでくれた……今は、まだ。




 

 


 


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