2.砂の果実。 利害。 3
「気にいらねぇんだよ。俺が今、楽しんでんのによ。」
ガンウェルは呟いた。
「はっ。お呼びでしょうか!」
すぐ側に待機していた気の利かない衛兵が答えた。
「うるせぇ!独り言に勝手に参加してくんじゃねぇぞ!」
衛兵は涙目で壁際の定位置に戻る。今日は師団長の機嫌が悪い。こんな日には運悪く命を落とす一般兵も多い。早く今日が終わりますようにと、彼は心底、神に祈った。ガンウェルは大きな身体……珍しく上品に上半身だけ、裸だ……でテーブルを覆い隠すように肉料理を貪っていた。ワインをボトルから直飲みしている。
……何が崩落だ。俺は許さねぇ。俺の許可なく世界が無くなっていくとかよ。俺は今、楽しんでんだ。じゃまする奴は、世界だろうが、神だろうが、ぶっ飛ばしてやる。俺は世界が終わることをゆるさねぇ。
苛々を噛み潰すように肉を咀嚼し骨を噛み砕く。ワインを飲み干して、空のボトルを投げ捨てる。
斥候の報告によれば、今回の崩落の規模は大きく無い。問題は街に近い事と、クレイフを支える主根の一部が落ちた事だ。
主根。
この世界の大きな街は大地に張り巡らせた世界樹の根の上に存在している。世界樹は世界に14座あり、サザのある北方大陸には第6座の「オ・オー」がある。その根が腐り始めているのだ。弱くなり、崩れて崩落を呼ぶ。主根の崩れは国の、大陸の、世界の崩壊を意味している。
飯と血と女。俺はそれだけでいい。クソ。どうする?どうすりゃいいんだ。他に移るか?いや、
彼は認めない。熱砂騎士団の最強のガンウェルは認めない。傍若無人を標榜するガンウェルは激昂していた。女がヘタクソだった時よりも。肉がウェルダンだったときよりも。そうだ、あの岩のような拳を持った戦士との戦いを邪魔された時よりも。
あぁ、そうだ。クソ。あぁ、だから何だってんだ。俺は好きだ。この世界が。誰かに殺されようと、誰を殺そうと。好きに出来るこの世界が好きだ。ゆるさねぇ。俺は許さねぇ。この世界が、終わることを。絶対に、だ。俺はまだまだ遊ぶ。
ガンウェルは歯を剥き出しにして、唸る。
で?どうすればいい?彼には解らない。彼は行動であり、思考ではないからだ。敵がわかれば殴り飛ばすこともできる。だが、だが、敵は誰だ?戦うべきは何なんだ?解らない。彼には解らない。つい、先日大地から立ち上がったあの炎の柱は、崩落に影響を与えたのだろうか?解らない。彼には解らない。彼は今、正直、泣きたかった。でも、それは出来ず……ただ、夜は更けていった。




