2.砂の果実。 利害。 2
……そして、サザは果実を手にし、国へと帰った。緑豊かだった樹木の国フォートレントは見る影もなく、枯れ果てていた。森は枯れ、人々は飢えていた。動物達は姿を消して久しく、全ては目を閉じて何もかもをお終いにしようとしていた。太陽と砂だけが、樹木の国に残されていた。
サザは果実をかざし、人々を導いた。砂の果実はサザの血を認め、大船を繰り出し、王国を動かした。ララコの呪詛に取り付かれた大地を離れ、新天地へと導いた。果実は恵みをもたらし、人々は根をはり、国が生まれた。サザは国王となった。
こうして、樹木の国フォートレントは滅び、熱砂の国サザが興った。ノースラドの苦しい時代は一つの区切りを迎えたのだ。
血を以て、果実を育てよ。
果実は砂を潤し、国を生む。
血を以て、果実を育てよ。
果実は砂を守り、国を運ぶ。
我らは砂。
風に舞い、流浪する。
安寧はなく、滅びも無い。
我らは砂。
風に舞い、流浪する。
世界の隅々にまで渡り、命を繋ぐ。
日輪を愛し、砂と共に。
……この国の始祖である、サザが残した言葉です。彼は勇気のある偉大な王でしたが、文才はありませんでした。今残るこの言葉達……自叙伝と詩の一節……が、どの様な意味を込められたものなのか読み取る事が出来ません。」
到底、スラム街の最奥にあるとは信じられない豪華な居室の優雅なソファに腰掛けたタマウに、コットスは伝えた。タマウは真っ直ぐコットスを見つめている。コットスは続ける。
「今この国は、再び滅びの危機にあります。かの大魔法使いに狙われている訳ではありません。コナゴナになった世界と共に国が死のうとしているのです。崩落に呑まれて。」
タマウは何も言わない。
「私はそれを許すつもりは有りません。例え神が定めたことだとしても。」
心地よい風が室内を抜けた。それをきっかけにタマウは語り始めた。何故か、微笑んでいた。
「私の国は滅びました。ファゴサイトに呑まれたのだと言うものがいます。でも、私は彼に滅ぼされたのだと、知っています。今、国は何もない荒れ地となり、薄汚れた盗人達に占拠されています。私は取り戻したいのです。奇跡的に天の業火に焼かれずに生き残りながらも、ヌーギドの奴隷として生かされている私達の家族を。水と風に包まれたあの大地を取り戻したいのです。」
細い身体から発せられる、か細い声。しかし、それには芯が通っていた。曲がることはあっても、折れることのない強さを持った声だった。コットスは大きな部屋をゆっくりと歩きながら、彼女の言葉に重ねた。
「私はこの国を失いたくない。貴女は失った国を取り戻したい……方法はあります。共通の方法が。私達の利害は一致しています。」
「ですが、私を貴男の計画に組み入れる必要性はあるのですか?利害、と言いましたね?コットス。害は一致しています。貴男の計画に加わることについて、私には、利が在ります。でも、貴男の利は?聞かせてください。行動を共にするからには、それを理解したいのです。そうする必要があるのです。」
ふふふ、とコットスは笑みをこぼした。部下が見れば……いや、見ても信じないだろう。こんなに穏やかに微笑むなどと。
「利は在りません。だが、私の計画には、いずれ、貴女が必要となるのです。そう感じました。理屈ではありません。これは、そう……直感です。」
タマウは覚悟を決めた。そうだ。さっき、コットスと出会った時に感じたもの。そう。私も直感したんだ。この人と行動を共にしようと。
「よろしく。事務屋さん。」
「こちらこそ。姫。」
ふふふ、とふたりは穏やかに笑った。砂漠の午後は穏やかに過ぎ……なかった。この部屋にも、崩落の状況が伝えられたのだ。しかも、2つ。一つはクレイフ近郊。もう一つは、王都サザの外周部。先程までの暖かい気持ちを思い出すことさえ出来ずにコットスは、邪悪の接近を感じていた。優しく穏やかに流れるかに思えた時間は、一瞬で黒く硬くなり、ギスギスと進む。何かが良い方向に進んでいるとのタマウの感覚は、消えてしまい、いつも通りの不安と不明が世界を覆って行った。崩落のきっかけはラクコン?いや、いずれにしても状況は変わらない。大まかな流れ?神の意志?逆らいがたいそれを運命と呼ぶのならそうなのだろう。それは、誰の望みも汲み取らず進む。そう。
……砂漠の日は、いつも、一瞬で沈む。




