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世界が生まれ変わる物語。  作者: ゆうわ
第二章 砂の果実。
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2.砂の果実。 邂逅。 5

 満面の笑みを浮かべて天為は、地上へと脱した。砂漠のきっぱりと乾いた風が、心地良い。


 「ふぁー、疲れたー。」


 石牢の出口で、まだ危険の真っ只中だというのに、天為は寛いでいた。これは危険では無いとでも言うのだろうか。地下牢からは、戦いの喧騒が漏れてくる。地上にでた彼の周囲は、砂漠の街の奇妙な貧民街だ。巧妙に偽装されている。周辺一帯が、ギルド月雲のアジトなのだろう。窓という窓、ドアというドア、路地という路地から、視線を感じる。


 あー。感じ悪。背中がちくちくするよ。


 呟きながら、天為は自分のことを観察する視線の一つを辿った。すぐそばの小さな……と言っても中はかなり広そうだ……家の窓の奥にその視線の主はいた。大きな瞳がこちらを見つめている。その瞳には警戒心は現れていない。浮かぶのは、驚き。長い黒髪に包まれた小さな痩せた顔に見開かれる大きな黒瞳。痩せて小さく汚れていたが、確かな気品を備えた、女性だった。


 ……こんな所で。


 二人は同じ時に同じ言葉を同じ気持ちで呟いた。助け合う訳ではないが、互いの無事を祈っていた。二度と会う事はなく、探す気もなかったが、世界のどこか片隅で埋もれててもいいから、人生を生きていて欲しいと願っていた。まさか、こんな所で。


 「天為!いくぞ!」


 後を追ってきた高坂が合流した。追っ手も現れる。彼女……タマウも誰かにせかされ、建物の影に潜った。彼女を追う気はなかった。ただ、そう、無事で何より。


 「行きますかー。」


 天為は再び走り出す。高坂が後に続く。細く黒ずくめで、銀色の髪を持つ天為の後をがっしりとして砂色で、黒髪の高坂が続く。二人の後を姿の見えない追っ手が続く。細い路地の奥から、ざわざわと衛兵達が湧き出して来る感覚が彼等を追い立てる。天為は追手の気配を正確に把握する。地下から湧き出し、荒ら屋の部屋を抜けて路地を押しわたり、彼等に迫る。

 だが、遅い。彼等は追っ手の一歩先を……いや、0.00001歩先で踊る。僅か僅かの先を滑り抜ける。湧き上がる下品な怒鳴り声。無様な足音。砂漠の街のスラム街が湧き上がる黒いヘドロにも見える月雲のメンバー覆い尽くされる。月雲達は二人の先に回り込み、包囲しようと地下から溢れ出してくる。


 その、波の先の先。天為と高坂は駆け続け、駆け抜けて大通りを越えて、遂に、巨大噴水の広場に到達した。


 「で?」


 「ん?」


 「あぁ。」


 二人の間で意味不明のやりとりが交わされた。ーで?どこまで逃げればいいんだ?-ん?お前が先頭走ってんだぞ?俺に聞くのか?-あぁ。確かに。

 取りあえず彼等は街の中央の大きな噴水を背に、思い切って振り返って見た。このままではいずれ取り囲まれる。一旦、敵を把握しておく必要があるのだ。どこから現れるのか。どこが手薄なのか。彼らは、追っ手の数を確認する。月雲達は、下品で不道徳なかけ声を発しながら、広場に集結する。噴水を背にする脱獄者達を、半円状に取り囲む。その距離、3メートル。朝の挨拶のような軽々しさで天為は言った。


 「多くはないみたいだね。」


 「あぁ、100人よりは多くない。」


 高坂の返しも軽い。ちらりとお互いを見やる。確かにその通り。他に選択肢は無い。かはは、ふふふと彼等は笑った。笑い、それぞれの獲物を構える。天為は大長尺の古刀を、高坂は黒塗りのナックルを抜き放ち構えた。彼等は細い路地での戦いを避けて、広場での乱闘を選択した。路地は、彼らの領域であり、ここは、公共の場だった。罠や仕掛けはなく、個々の力だけを計算すればよいのだ。


 「行きますかー。」


 「あぁ、行くか。」


 爆発するかのように高坂のマイトが圧縮され、拳に集まる。落とし穴に嵌まるように天為のマイトが消えて霧散する。二人は戦闘体制に入った。他に道は無い。戦って切り開くしかないのだ。でも、勝算は?無いかも。しかし、ここらで一旦、敵の勢いを殺しておく必要がある。自分達はただ逃げるだけのウサギではないことを判らせる必要があるのだ。それが生き残る為の必要な仕掛けなのだ。今しかない。この噴水前しかない。上手くやるしかないのだ。

 月雲達は一旦、彼等と睨み合う。リーダー格の男が、手を振り上げ突撃の指示を出す……その直前、二人は泉に飛び込んだ。高坂が信じられないような破壊力の拳で、噴水の基部を打ち砕き、盛大な水しぶきを巻き上げる。間を置かず、天為の凍てつく剣筋が周囲を覆う。高坂が撒き散らしたしぶきが凍りつく。先程の地下での数十倍の氷の破片が乱舞する。無数のナイフとなった氷片は追っ手を切り刻む。致命傷とはいかないが、十分なダメージだ。月雲は怯み二人は再び走り出す。人気の無い路地に。上半身裸の大男がいる。女性をひねりあげていた。天為は駆け上がる。大男の背中を。高坂は股の間をくぐり抜け、走り去……らなかった。蹴り上げた。股間を。大男は女を落とす。高坂の蹴りは受け止めている。大男は拳を打ち下ろす。高坂は拳で返す。大地と大地がぶつかるような重い衝撃が響く。瞬間、ガンウェルの巨体が浮かぶ。ガンウェルの中を衝撃が抜け、着地した彼の口の端に笑みが溢れる。


 「おいおいおいおいおいおい。おもしれぇなぁ、おい!」


 「同感だ。」


 高坂も笑う。強い。互いに拳で感じた。高坂は跳ね起き、腰をひねり身体を絞り込んで正拳を打ち込む。ガンウェルも岩のような拳を打つ。また、拳同士が正面からぶつかる。ごっ。短い単純な、しかし、極めて重い一撃だった。お互いの身体の中を互いの拳が突き抜けたかのような衝撃が走る。


 「ぶっ殺すぞらぁぁああああっっ!!」


 叫び声が、ガンウェルの背後であがる。ナイフや矢が飛来し、ガンウェルの背に傷を付ける。堅い筋肉と強いマイトに覆われたガンウェルの背中は一般人に取って致命的であろう凶器を弾いた。大した傷ではなかった。天為達を追ってきた月雲の衛兵達は攻撃してから、自分達が何をしたのかに気づき、固まった。


 「……が、ガンウェル。」


 誰かが呟くのと、ガンウェルが吠えるのと同時だった。そして、ガンウェルの兵隊達が潜んでいた物陰から、飛び出すのも、天為が名も知らぬその女性……ハル……と共に人混みに溶け込むのも同時だった。ギルド月雲と熱砂師団が街中で激突した。直前のささやかな鬼ごっこは、一瞬で忘れ去られた。街人達は巻き込まれまいと、必死で逃げだした。


 それは、つかの間の邂逅だった。だが、この巡り合わせがこの街の運命を大きく変えるのだ。




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