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act.13 特務隊、初仕事3

 午前2時。いわゆる丑三つ時という時間に、太郎と宗光が寮の外に出た。程なくして千代と蓮華が外に出てくる。特務隊業務のうちなので門限や消灯時間は免除されるので、特に結界が作用することもなかった。


「…山上は?」

「寝てると思う。ねぇ、なんでさゆりに内緒なの?さゆりだって特務隊でしょ?」

「自分が呪われてるなんて知りたくねぇだろ」

「…そうですわね。自分に殺意が向けられていたなんて知りたくないでしょう」

「んで?ボーズは本当に曽根みゆきに見覚えねーのか?」

「…ないな。ひょっとしたら授業で一緒だったかもしれんが…話した記憶はとくにない」

「オレも気をつけねーとな…」

「でも太郎はうまくあしらってるじゃん」

「んー…」

 4人は他愛もない話をしながら普通科校舎に向かった。真っ暗な校舎を外から見ると、ところどころ緑色の非常灯がぼんやりと光ってる。

「…この中で…やるんですの?」

「なんだよ、怖いのか?」

「だって雰囲気が…ありすぎて…」

 蓮華が生唾飲み込んで校舎を見上げる。宗光が先頭に立って中に入り、蓮華がおずおずと後に続いた。太郎は千代と野球部部室裏へと向かう。夜の校舎は彼らをも見込むように暗く高くそびえたっていた。



「この教室でやることに意味があるかもしれない。…始めよう」

 宗光は胸元から数珠でくくった紙を出して広げた。暗闇のなかでだからだろうか、ほんのり青く光っているように見える。適当な机に紙を広げ、10円玉を乗せ、二人で同時に指を乗せようとしたとき、蓮華が少し躊躇した。

「…どうして皆こんなものをするんですの…」

「そうだな…おそらくは心のどこかで妖や霊はいないと思い込んでいるからだろう。どうせいない、いないはずだ、でももしこの10円玉が動いたら本当はいるのかもしれない、いたら自分の知りたいことを教えてくれるかもしれない、自分の望んだ答えを…といったところだろう」

「……思春期だから、ですか?」

「ああ。実のところほとんどは交霊など成功していない。思春期の集団暗示だ。だってそうだろう、たまたま降りた霊がなんでも答えられるわけがない。自分たちが望んだ答えを指を動かして答えてるだけだ」

「今回は違うと?」

「ああ。妖気は確かに存在しているし、なによりキューピッドさんが何も聞いていないのに動き出したのがその証拠だ。やっているメンバーの半数が『驚かせたい』『みんなを怖がらせたい』と思っていれば別だが、そういうわけでもなさそうだった。あれは『質問』に『答え』が返ってくるタイミングで全員の筋肉が動かなければコインをうまく誘導はできない」

 説明を聞いてみるとなるほどと思う。科学で説明できないかどうかをきちんと確かめてから宗光は取り組んでる。そんな話をしているうちに蓮華の鼓動はいつも通りに戻っていた。冷静になり、深呼吸をするとただ怖いだけの暗闇だったこの空き教室も周りが見えてきた。

「始めるぞ」

 さっき言われたときは恐怖しかなかったが、今は本当に穏やかに頷くことができた。相手が妖だとわかっていれば倒せばすむことである。宗光が小さく『キューピッドさん、キューピッドさんおいでください』と呟くとすぐにコインがクルクルと回りはじめた。

「…こういう…ものなんですの?」

「指を離していいぞ」

「え…でも本当のルールは指を離してはいけないんじゃ…」

「指を離したら霊に呪われるというやつか?俺たちがこれを始めたのは呼び出して何者か見極めるためだ。呪いなど最初から恐れてない」

 宗光に倣ってコインから指を離しても、コインは止まることなく動き続けている。

《ダレダ ダレダ ダレダ》

「それはこちらが聞きたい。お前は誰だ?」

宗光は数珠を構えると、その紙からゆらりと現れた影を見上げる。



 その頃、太郎と千代は部室棟の陰からその木を見守っていた。太郎の『檻』によって途切れた呪いに、呪いをかけた曽根みゆきが現れるのを待っている。千代はあくびをすると、自分の髪の毛の枝毛を探し始めた。

「本当に来るわけ~?」

「来るだろ。見たやつ殺さなきゃ自分が死ぬんだからな」

「……しかしさ、藁人形やるってのはともかくそこまで本格的にやるなんてすごいよね。よく知ってるわ」

「細かく教えたんだろ、キューピッドさんが」

「ふーん…」

「あの木の下、何が埋まってるか知ってるか」

「ん?なんか埋まってんの?」

「そうだよ。お前気づかなかったのかよ」

「あんま近づいてないもん。何が埋まってるわけ?」

「…多分、犬だな」

「……犬?それって…」

 千代は犬と聞いた途端、顔をしかめた。今度が太郎が不思議そうな顔をする。動物の死体を呪いの媒体にするのは欧米でも見かけるのでその類だろうと、簡単に考えていた。太郎はアメリカで生まれたが7歳から日本で育ったし、日本語にも不自由はないが、日本独特の風習や宗教・伝承には詳しくない。自分の身体のこともあったが、そういうことを学ぶためにこの学園にきたのである。

「…狗神って知ってる?」

「イヌガミ?」

「簡単に言うと地方限定の呪いって感じ。犬を飢えさせて首切って埋めて、その犬を呪いの源とするの。狗神は一族の人間に憑りついて、敵をどうにかする…ってかんじなんだけど」

「アレもそれと一緒だっていうのか?」

「そうかも…」

「倒すのに手順とかあんのか?」

「よくわかんない。でも寮長のぐりぐりで呪いが解けるぐらいなら完全な狗神じゃないのかな…」

 千代はいまいち納得していないらしく首を捻りながら唸っている。元々何かを深く考察するのが苦手なのだろう。太郎が木に視線を戻すと、ふらふらと誰かが近づいてきた。長い髪の女子生徒だがその足取りはふらふらと酔っ払いのように覚束ない。太郎が小さく来たなと呟いた。

 彼女は木のもとに歩いてくるとぺたりと座り込んだ。そしておもむろに地面を素手で掘ろうとするが弾かれたように両手を引っ込めた。

「手が痺れるだろ。オレの封印術だからな」

 太郎は彼女に歩み寄るとそう話しかけた。振り返った彼女・曽根みゆきは真っ黒なクマのできた目で太郎を睨んでいる。

「…どうして邪魔するの…?」

「特務隊だ。学園で起きたトラブルはオレらが解決する」

「…特務…隊…?」

「……可哀想だけど、アンタ、キューピッドさんに騙されたのよ」

「は…?」

 千代の言葉にみゆきは目を見開いた。信じていたものに裏切られたとでもいう表情に、太郎はその木の根元をトントンと踏みしめた。

「この下に埋めたもの、お前の飼い犬か?」

「……なんで、そ、れ…」

「キューピッドさんにそれを埋めろって言われたんだろ?でも見られたから成功しなかった。さゆりを呪い殺せなかった。しかも呪いはお前に返ってしまう。慌てたろ」

「……見られなかったら今頃…」

「でもな、コレにはさゆりを殺せなかったと思うぜ?その証拠にさゆりに一切体調の変化は見られなかった。……お前、この犬自分で殺したわけじゃないんだろ」

 太郎の言葉にずっと震わせていたみゆきの肩から力が抜けたようだった。それを肯定ととらえたらしく、警戒を若干緩める。みゆきは完全に自分を見失っていたわけではないのだ。それさえわかればまだ救いようはある。曽根みゆきだって五陵の生徒だ。太郎たちが守らなければならない五陵の生徒なのだ。

「太郎」

 校舎から来たのは蓮華と宗光だった。その手には行く時と同じように数珠に巻かれた紙を持っている。正体を見極めて消滅させるのではなかったのか。

「…ソレ、どうしたんだよ」

「ああ…コレか。コレの正体は『造られた紙』だった」

「は?」

「何者かが紙に狐の妖を封じ込めて使用者をからかう、いわば悪戯道具だな」

「なんだそれ」

「別にこれに恨みや呪いが込められてるわけじゃない。…長い期間忘れられてて多少暴走はしたようだが」

「ハタ迷惑な道具だね」

「…作った本人に返すことにした」

 宗光はそう言い放つと数珠ごと紙を胸元にしまった。太郎が再びみゆきに視線を巡らせると、みゆきは木の根元をまっすぐ見つめていた。その様子には先ほどのおかしな感じはない。瞳にも意志が宿っているように見えた。

「…さゆり…?」

 千代の声だった。全員が弾かれたように振り返ると、Tシャツにハーフパンツ姿のさゆりが裸足でフラフラと歩いてくる。

「おい、さゆり?」

 さゆりに太郎が声をかけるがそれはさゆりの耳には届いていない。あの繁華街で見た時のように、トランス状態に入っているらしい。宗光はさゆりが真横を通った時に何かに気づいたらしく、千代を振り返る。

「弓削!!山上から離れろ!!」

 千代は反射的に糸を繰り出し、校舎の壁に飛んでいた。そうせざる得ないほど、宗光の声は鬼気迫っていたのだ。さゆりの歩く地面が徐々に光り始めた。さゆりは小さく歌を歌っているかのようだった。

「……歌?」

「浄化の歌、だろうな。なんと歌っているかはわからないが、下手にそばに近づくと妖はただでは済まない」

「…魔女、か」

 太郎は感慨深げに呟いた。さゆりの歌はやがてあの木にたどり着くとますます大きさを増す。木は光を宿してその根元に現れた年老いた犬を顕現させる。犬はみゆきの手をひと舐めすると、泡のように消えていった。光が止むと、さゆりの身体がぐらりと傾く。太郎が慌てて支えると、その腕の中のさゆりは規則正しい寝息を立てていた。

「…寝てやがる」

 安全を確認したのか千代が降りて来てさゆりを覗き込む。さゆりは起きても多分何も覚えていないだろう。宗光は胸元の紙を取り出すと、紙に宿っていた妖気が消え去っているのを確認した。少し離れていたのに巻き添えのように浄化してしまったようである。さゆり自身にも制限できないであろうその力は恐ろしくもあった。


 みゆきは1週間ほど休んで復学した。友人たちに謝罪し、正に憑き物が落ちたように明るく生活しているという。特務隊はHP上で七不思議を真っ向から否定し、夜間の学校の侵入を固く禁じた。

 もうすぐ夏休みに入ることもあり、厳しく罰するという文言も添えられていた。


 そう、夏休みはすぐそこまで来ていた。


続く



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