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act.12 特務隊、初仕事2

 宗光と蓮華は欠席者がいる普通科2年の教室に来ていた。二人に上級生を畏怖することはありえない。腕力でも上級生より自分たちの方が勝っていることをわかっているからだ。休んでいる生徒が3人いるクラスに行き、特務隊だと名乗ると一人の女子がこちらに来た。

「…休んでる生徒と仲がいいのは君か?」

「私たち特務隊は例の噂について調査しています。協力してください」

「…ここじゃ目立つんで…」

 彼女はそう言うとそそくさと宗光たちと空き教室に誘導した。入った瞬間、宗光も蓮華もぴくりと眉を上げた。彼女は振り返ると不安そうに二人を見ている。

「あの…」

「ここにあるんですのね?キューピッドさんの紙」

「えっ…」

「2年の空き教室にある、とメールに書いていたな。ここのことだろう?君がメールの送り主だな」

 蓮華と宗光に言い当てられ、彼女・中山美咲は観念したかのように頷いた。

 話の概要はこうだった。1年の女子がキューピッドさんをやったという噂を聞き、仲のいい4人でやろうということになった。学校に忍び込んで噂の紙を見つけ、やってみると本当に答えてくれる。はじめは他愛もない質問を繰り返していたのだが、キューピッドさんが突然質問もしていないのに話しかけてきた。

《モウスグアブナイコトガオキル》

 それが何なのか聞いてみると、地震でも火事でもないという。怖くなったので帰ってくださいとお願いしても

《ココニイル ゼンイン シヌ》

 それを何度も繰り返す。怖くなって美咲が指を離すと全員が弾かれたように指を離した。終わった紙を燃やそうと校舎を出て、部室棟の方へ行って燃やしていると、カーンカーンと音がする。4人がおそるおそる見に行くと一人の女が木に何かを金槌で打ち付けていた。先ほどのキューピッドさんの恐怖も手伝って誰からともなく悲鳴を上げた。その時の女の顔が忘れられないという。

 何とか逃げてそれぞれ家に帰ったが、翌日美咲以外の3人は登校して来なかった。3人とも熱が出たのだという。美咲も体調はよくなかったが、どうしてもあの光景が現実のものだったかを確かめたかった。

「…どうして君は体調が回復したんだろうか」

「わかりません…」

「昨日、学校にきてから変わったことは?」

「……昨日の朝、特別科の3年生に会いました。おまじないだって…おでこをぐりぐりと指さされて」

「…3年?どんな生徒だった?」

「背がひょろっと高くて…目がちょっと細くて…カーディガンを着てて」

「寮長か」

「刑部先輩のおまじないが丑の刻参りの逆恨みをはね返したということですの?」

「だろうな…」

 美咲はそこまで話すと、ぶるぶると震えはじめた。

「あの…みんなは死ぬんですか!?あの藁人形の呪いなんですか!?それともキューピッドさんの…」

 宗光は思いやるように美咲の肩に手を置くと、美咲の肩がほんのり温かくなったように感じる。

「他に気づいたことはあるか?聞いた噂でもなんでもいい」

「…藁人形の人…私の友達がテニス部の後輩だって…言ってました」

「テニス部の1年ということだな。他には?」

「あと…私の話を聞いた隣のクラスの子たちが…今夜キューピッドさんをやるって…」

「なんですって…?」

「だから私、あなたたちをここに連れて来て紙を没収してもらおうって…」

「紙はどこだ」

「そこの後ろの黒板とロッカーの間の隙間…」

 美咲の細い指が震えながら指すそこに、蓮華が飛びつくように覗き込んだ。木のロッカーと黒板の間に古ぼけた和紙が挟まれている。蓮華がつまみだすと、美咲から悲鳴が漏れる。

「…今はただの紙、ですわね」

「…交霊しなければただの紙だということか…時間と、場所と、コインがなければダメなのかもしれないな」

「妖気は…感じられるんですけど」

「今夜、俺たちが交霊してみよう」

「ほ、本気ですの?」

「普通科の生徒にやらせるよりはずっと安全だ。…中山さんと言ったか、今日やると言っていたグループに、今夜は特務隊が見回りにくるからやめておくように伝えてくれるか」

「は、はい…」

 逃げるように空き教室を後にする美咲を見送る蓮華が振り返ると、宗光はキューピッドさんの紙を見つめて難しい顔をしていた。

「…どうしました?」

「……中山さんたちの前にキューピッドさんをやったのは1年の女子と言ったな」

「ええ。…あら?藁人形の女も確か1年の女子でしたわね」

「……1年のキューピッドさんをやったグループを探そう」

 宗光は丁寧に短い数珠を巻き付けて、キューピッドさんの紙を胸元にしまった。蓮華が千代に電話をしている。顔の広い千代がいた方が聞き出すのが早いと思ったらしい。千代と太郎の調査はちょうど終わっていたので、千代はわりとすぐに普通科の校舎に来た。

「キューピッドさんをやった子?」

「ああ…、テニス部の3人でしょ」

「でもみゆきは今日と昨日、休んでるよね?」

 その言葉に宗光と千代は顔を見合わせた。千代がさらに聞くと、みゆきという生徒以外の2人にすぐにたどり着く。2人は最初警戒していたようだが、みゆきの名前を出すとさっと顔色を変えた。

「10日ぐらい前にキューピッドさんをやってみたんです。最初は色んな質問をしていたんだけど、みゆきが突然…その、楠くんの好きな子は誰かって聞いたの」

 千代と蓮華が驚いて宗光を振り返ると、宗光は到底信じられないといったような顔で口を引き結んでいた。この手の話は太郎の専売特許だと思っていたのだが、宗光も人気があるらしい。まだ驚いている千代を尻目に、蓮華が質問を続ける。

「それでどうなったんですの?」

「楠くんの好きな子が『さゆり』だってキューピッドさんが答えたら、みゆきが急に変わっちゃって…すごい怖い顔でキューピッドさんにさゆりちゃんのことを質問ばかりしてて。私たち怖くなって帰ろうって言っても全然帰ろうとしなくて…」

「私たち、だんだん頭にきて…みゆきを置いて帰ってきたんです。みゆきは一晩中キューピッドさんをやってたみたいで、次の日に会ったら…楠くんと幸せになれる方法を見つけたって…」

「それからしばらくは学校にも来てたんですけど…どんどんやつれて顔が怖くなってきて…」

 事情を聞くだけ聞いて、宗光たちは特務室に戻ることにした。大体の筋道は見えてきたのだが、何かちぐはぐな感じがする。特務室ではお気に入りのソファで昼寝をする太郎が見えた。さゆりは佳澄と一緒に裏山に行くことになったらしい。黒板のそれぞれの予定表にそう書き込まれている。

 わかったことを一つ一つ黒板に書いていく。


10日前   曽根みゆきたち1年がキューピッドさんをやる。

 7日前   丑の刻参りがはじまる。

 2日前   中山美咲たちがキューピッドさんをやる。丑の刻参りを目撃。

 1日前   丑の刻参りを見たものが高熱で欠席しはじめる。


「まあ妥当なセンとしてはキューピッドさんに丑の刻参りのやり方を聞いた、とかじゃない?」

「それならみゆきの言っていた『楠くんと幸せになる方法を見つけた』っていうのも納得できますわね」

「藁人形の方はどうだった?」

 宗光が話を振ると太郎は面倒くさそうに起き上がり、耳の裏あたりをぽりぽりと掻きながら答える。こんなものぐさそうな仕草もそれなりに見えるから恐ろしいと、千代は内心で毒気づいた。

「…一応、呪いの原動力になってる木は封じ込めておいたから、欠席してる生徒もじきによくなると思うぜ。封じたことにきづいた曽根みゆきが現れるのを待つだけ。…そっちは?問題の紙はみつかったのか?」

「ああ、俺が持ってる。今夜、交霊してみて正体を見極めてから、完全に消すつもりだ」

「んじゃ今夜行動開始な」

 それぞれ頷きあってその場は解散となった。


「ねぇ、佳澄」

「んん~?」

「なんかみんな忙しそうなんだけど…何かあったの?」

「…知らない」

 佳澄がふたたび裏山の原っぱに横になった。ここは佳澄の好きな場所らしく、木や花が美しく生い茂っている。鳥や小さな動物が佳澄に甘えるように集まっていた。

「今日の夕飯何かな~」

「佳澄は好き嫌いないの?」

「ないよ!なんでも食べる」

 佳澄の言葉にさゆりが笑っていた。その笑顔に佳澄がほっとする。なぜ白雪はみんなにあんな話をしたのだろう。みんながさゆりのために毎日細心の注意を払って生活する羽目になってしまった。

 それでもさゆりのためになんとかしたいと思ってしまう。これが魔に愛されるということなのだろうか。

「そろそろ戻ろ」

「うん」

 いつまでもそばにいて守りたい。そう毎日祈るように思っていた。


続く



  




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