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act.11 特務隊、初仕事

「ねぇ知ってる?特別科の一年生に『特務隊』っていうのがいるんだって」

「何それ?」

「学園で困ったことがあると相談に乗ってくれるらしいよ」

「太郎くんも入ってるんだって!」

「本当!?」

「学園のホームページの特務隊用アドレスにメールを送ると動いてくれるらしいよ」



 噂は千里をかけるというが、閉鎖的な田舎の学園ではその速度は光の如しだった。おまけに太郎や千代、蓮華はただでさえ注目を引く見た目のせいか恰好の的でもあった。

 表向きは学園の手助けが特務隊の名目である以上、活動をしないことにはどうにもならない。特別科校舎の空き教室を『特務室』として、さゆりたちはそこで過ごすことが多くなった。太郎や千代、佳澄あたりは好き勝手に自分の好きなものをおいてレイアウトしてしまっているので、中古のソファやダーツ盤まである始末だ。パソコン業務は真面目な宗光と蓮華の担当になってしまっている。

 今日も蓮華がパソコンの前で唸っている。

「どったの?蓮華ちゃん」

 佳澄がアイスを食べながら覗き込むと、蓮華がうんざりしながら振り返る。

「『弓削千代ちゃんに彼氏がいるか教えてください』『太郎くんと遊ぶ約束をつけるにはどうしたらいいですか』とか毎日そんなのばっかりですわ」

「青春だねぇ」

 さゆりがのんびり笑って椅子に座っている。その髪を千代がコテで巻いて遊んでいるのだ。蓮華が面倒くさそうにスクロールすると、ふと指が止まった。

「どうした?」

 参考書を眺めていた宗光がその動作の違いに気づいたのか、眉をひそめた。

「『学園の七不思議って知ってますか?』…ですって」

「七不思議ィ?そんなもんどうせ特別科に入ったことのねぇ普通科生徒の噂話だろ」

「特別科校舎なんて不思議だらけだもんね」

 そう会話する太郎と佳澄に蓮華は否定の意味で首を振った。宗光が一緒に覗き込む。

「…発生場所は全部普通科校舎か」

「普通科校舎には妖の行き来を防ぐ結界があるから逆に清浄なはずじゃ…」

「だがよくある怪談も多いな。音楽室のピアノ、美術室の胸像、生物室の人体模型…」

「くっだらね!やっぱただの噂じゃねぇか!」

 太郎がやる気をなくしたようにソファに横たわった。トイレに行くというさゆりに手が空いた千代が画面を覗き込んで息を呑んだ。

「…『野球部裏の藁人形』ってこれ…」

「…『人形に書いてある名前はさゆりだそうです』か…どういうことだ…」

「こっちも気になりますわね…『無くならない紙』『キューピッドさんをやった子がみんな学校に来なくなりました』挙がってる名前は在校生みたいですわ…」

「七不思議のレベル超えてんだろ…てかキューピッドさんてなんだ?」

「コックリさんの別パターンだ。やることはほとんど変わらない。コックリさんは知ってるか?」

「ヴィジャボードとかテーブルターニングみたいなもんか?」

「ああ。要は交霊術だが素人がやるので大抵は低俗な霊にからかわれて終わる」

「藁人形っていうのは何ですの?芻霊みたいなものですか?」

「そーそー。大昔の日本で流行ったわけ。藁でできた人形に相手の髪の毛入れて、名前書いた札つけて、丑の刻に五寸釘で打ち付ける。毎日続けてそれをやってる姿を誰にも見られちゃいけないの」

 ソファに寝転んでいたはずの太郎までが真剣な顔をしている。何かを感じ取ったのかもしれない。

「メールがきた時間とアドレスは?」

「夜中の…2時ですわ。個人の携帯アドレスのようです」

「…そのメールの送り主、被害者なんじゃねぇの」

「…え?」

「だってお前健全な女子高生が噂話するような時間かよ。たぶんそいつ、キューピッドさんやった本人だ。佳澄、お前はさゆり連れて寮に戻れ。ボーズとクロワッサンでその被害者探してこい。オレと千代は藁人形を探してみる」

「学校に来てるんですの?キューピッドさんの被害者は学校に来なくなったって」

「来てなかったらオレたちの噂はいつ聞いたんだよ。来なくなったのは一緒にキューピッドさんやった友達だろ」

「…確かに」

「このメールは本物だ。この2つをオレたちに解決させたくて他の噂とあわせて七不思議に仕立てた」

「じゃあ2つに関係してるってこと?」

「もしかしたらその藁人形打ち付ける犯人を見たんじゃないかとオレは思う。その姿見られたらダメだって言ってたろ。見られたらどうなんだ?」

「丑の刻参りが失敗する。元々呪い殺したいほどの殺意がある人間がそれを邪魔されると大抵見た人間を逆恨みするな」

「じゃあこのキューピッドさんの生徒は…それを恐れて…」

「とにかくそのキューピッドさんの生徒を探そう」

5人はお互い頷きあってそれぞれ行動に移した。佳澄はさゆりを一緒に遊びに行こうと誘い、パタパタと手を引いて走り去っていく。残った4人はまずはキューピッドさんの話をしはじめた。

「メールの内容は?」

「『普通科の2階の空き教室にキューピッドさんの紙があり、それを使って夜中の教室でキューピッドさんをやると、本当の答えばかりを教えてくれるって噂です。でも気持ち悪い答えをしはじめてみんな怖くなってやめたらしいのですが、紙を燃やしても埋めてもまたその空き教室に紙が戻ってくるそうです。』」

「藁人形は?」

「『朝になると、野球部の部室の裏の木に藁人形が打ち付けられています。それには紙でさゆりと名前が書いてあります』」

千代が眉を寄せた。グロスが綺麗に塗られた唇がううむと尖っている。

「キューピッドさんはともかく、藁人形の噂なんて聞いたことないなぁ」

「キューピッドさんはあるんですの?」

「ちらほらね。やったことのあるグループは何組かあるはずだけど。学校に来なくなったってのは初耳」

 千代は特務隊になってから頻繁に普通科校舎に出入りするようになった。特務権限で妖である千代も佳澄も自由に普通科に行ってよいことになったからだ。そこで噂話や流行のものを聞きつけてくるのが得意だったのだ。

「メールの送り主が丑の刻参りを見たというのが俄然真実味おびてきたな」

「藁人形は野球部に聞いてみるか。あと『さゆり』が学園に何人いるか調べとけよ」

考えはまとまった。宗光が特務権限でアクセスした学園のデータから、欠席者のリストをプリントアウトする。太郎は立ち上がると千代に行くぞと合図して特務室を出ていった。



「藁人形?ああ、あのイタズラのやつか」

「最後に見つけたのはいつですか?」

「昨日の朝だ。毎朝なもんでさすがに警備会社に連絡しようと思ってるが…」

 野球部の顧問である普通科の体育教師が苦い顔で、太郎と千代を出迎えた。体育教官室の床に無造作に置かれた段ボールに、藁人形が5体入っている。

「お前らが特務隊ってやつか。黒鉄先生に聞いてるからな、好きに持っていけ」

「ありがとうございまーす」

「なるほどな、こういう問題を解決するわけか」

「…ま、生徒が起こした噂なんで」

 太郎はそう答えると、段ボールを抱えてさっさとそこを後にした。このまま話に付き合っていたらいずれは太郎や千代の服装や髪型の話に発展しかねない。早々に立ち去るのが賢明だろう。段ボールを持ったまま、その藁人形が打ち付けられていた木の場所まで移動した。

「…ここか」

「どうでもいいけどこの人形臭くない?鼻が曲がりそうなんだけど」

 藁人形を鼻先に近づけて、千代は大仰に顔をしかめた。太郎はそれを受け取ってよくよく眺めてみる。『さゆり』と名前が書いてある紙を剥がしてそれに鼻を近づけた。白い和紙に赤黒い文字で書かれているそれは、5体全てにつけられている。

「…臭いのはこの文字だな。なんだこれ…血で書いてあるのか?」

「そうみたい…でも人間の血じゃなさそう。獣の血かな」

「んで…中に入ってるのは…髪の毛ってこれか?」

「…そう……これ…さゆりの髪の毛じゃないよね?」

 太郎がつまんでいるのは和紙にくるまれた髪の毛だった。黒い長い髪の毛が一本入っている。

「さあな…学園にさゆりが何人いるかにもよるだろ」

「もし…さゆりが一人しかいなかったらその犯人はさゆりの髪の毛を手に入れられる場所にいるってことじゃない」

「…そうだな」

 太郎は機嫌の悪そうな顔で、周囲を見渡している。千代は藁人形を段ボールに戻すと、太郎に倣って周囲を見渡してみる。

「どうしたの?」

「…なんでこの場所なんだろうな。丑の刻参りってやつはどこでやってもいいのか?」

「え?いや…たぶんダメだと思う。ご神木とか神社の木とかそういう霊的な木にやらないと」

「他にルールは?」

「えーと…毎日やって、七日目に相手が死ぬけど…他人に見られちゃダメで」

「それは聞いた。そんで逆恨みするんだろ?」

「それがアタシの知ってる話と違うんだよね。アタシが知ってるのは見られたら呪いかけてた本人に呪いが返る。それを防ぐには見た人間を殺さないとならないの。だから『見~た~な~』ってなるわけで」

「…最後に落ちてたのが昨日の朝…じゃあ一昨日の夜が最後なわけだが、数も足りないとこみると成功したわけじゃないだろうな」

「じゃあキューピッドさんのグループがそれを見たのは一昨日の夜?」

「さて…キューピッドさんのせいで学校に来なくなったのか、丑の刻参りを見たから来なくなったのか」

 太郎は藁人形から取り出した髪の毛を丁寧にポケットにしまってから、藁人形を段ボールの中にに乱暴に投げ込んだ。

「じゃあ…この木じゃないとダメな理由はコレだろうな」

 太郎が服の中からロザリオを取り出した。千代はなんのことかわからず首を傾げている。太郎は懐から長い金属の棒を何本か取り出し、その木の周囲に突き立てた。ゴニョゴニョと唱える呪文に呼応するかのように、棒は光はじめている。しばらく光ったあと、その棒を結ぶように鎖が現れた。

「なにこれ」

「檻みたいなもんだよ。完全に消してもいいが犯人をおびき寄せられなくなるからな」

「おびき…寄せるの?」

「そ。さー今夜はここで待ち伏せだからな。今のうちに昼寝しておこうぜ」

 太郎は腕を上げて伸びをしながら、寮へと向かったのであった。



続く

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