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act.10 魔女

 さゆりが寮の前で戸惑っていたその頃、さゆり以外の全員は白雪の前に座ったままであった。まばゆい光が収まり、目を開けるとさゆりだけが消えていたのである。

 白雪は先ほどまでとは打って変わって真剣な表情で、彼らを見ていた。


「さて、特務隊の皆さんにもう一つお話があります」

「さゆりには聞かせられない話ってことですの?」

「ええ。そのさゆりさんについてです」

 太郎はけだるそうに立てていた膝をおろし、ほんの少し身を乗り出した。

「私がこの国に張った大きな結界が綻びはじめました。そして妖たちの統制が効かなくなった。それは私の命が終わる前触れだと、私は思っています」

「雪!」

「もちろん、黒鉄をはじめとする私の守護妖・五妖の全員が打開策を探していますが、まだ見つかっていません」

「白雪さまが…死ぬ…?」

 千代は信じられないという顔をしている。佳澄も同様で、心配そうに白雪を見つめている。


「その時、この国を救ってくれるのはさゆりさんかもしれません」


 全員が衝撃を受けたような顔になった。妖についても最近学びはじめたような、あのさゆりがこの国を救うなどにわかには信じられない。だが冗談を言っているわけではないその表情に、声もあげずに聞き入っていた。

「彼女は魔女です」

「魔女?なにそれ?妖?」

「太郎くん、魔女って…」

 佳澄が言うと、眉間を思い切りしかめた太郎が口を開く。

「…『神に愛され魔を隷属させる存在』『神と魔の調和をもたらすもの』」

「『神を降ろし、魔を食らう』『魔を宿し、神を滅ぼす』」

 太郎に続いていったのは宗光だった。宗光もそれが何かわかっているらしい。太郎に代わって説明をしてくれた。

「元々、魔女はどこにもいた。神の言葉を聞いたり、悪魔の知恵を借りて、人々に人知ならざる業を施すもの。日本でも、巫女などに多かった。西洋ではそれを邪悪とし、魔女狩りなどが行われたんだ。現在の解釈では魔女は神にも魔にも染まらず、その両方に愛される人間の少女だといわれている。だがそれ故に生きるのが難しく、魔に落ちるものも珍しくない」

「妖になっちゃう…ってこと?」

「そうだ。さっき俺や弓削が出会ったアリシアとかいう少女もおそらくその一人だと思う」

「あの女も…」

「…そこのグレースもな」

 太郎が吐き捨てるように言うと、グレースは歯牙にもかけず白雪に寄り添っていた。グレースの正体を太郎は知っているらしかったが、今はそれを追及している場合ではない。

「かくいう私もそうでした。神の恩恵を受け、五妖たちに愛され守られていた。しかし私ももう人間ではないものに落ち、魔女とは言えません」

 白雪の言葉に黒鉄が咎めるような表情をした。そんな黒鉄の頬をひと撫でし、話を続ける。

「皆さんに頼みたいのは…彼女を護ってほしいということ。彼女はこの国の希望になるかもしれない。どうか、護ってあげてほしいのです」

 白雪の言葉は真剣だった。しかし事は思っていたよりずっと深刻だ。もし本当にさゆりが白雪の代わりになる存在だとしたら、色んな妖に狙われるということになる。日本でもっとも強い妖であるらしい五妖たちが命を懸けて千年護ってきたようなことが自分たちにできるだろうかと。

 黒鉄一人を相手にして全員でかかっても勝てないのに、さゆりを護りきれるのか。


「でもさ、護らなかったら終わりでしょ?」


「…佳澄?」

「護れるかどうかじゃなくて…護らなきゃならないんだよ。どっちにしろ」

「ま、そういうことだな」

「…仕方ないか」

「アタシは最初から迷ってもないけどね」

 そして一同の視線はグレースと蓮華に注がれた。元々日本人ではない。この国の行く末など、背負わせるべきではないのかもしれない。

「…あたしはやる」

「グレース」

「ママがそう望むなら」

「ありがとう」

 ママと呼ばれた白雪が嬉しそうに微笑むと、グレースはまた白雪にしがみつく。蓮華は下唇を噛んでうんと頷いた。

「国のためじゃありませんわ!私はさゆりの友達なのですから」

「それでもいい。ありがとう」

 白雪は嬉しそうに笑うとぺこりと頭を下げた。



 寮に戻ると、食堂にいたのはさゆりと清雅だった。二人は机に置かれたオセロの盤を見つめている。先ほどの森での白雪の話のあとだったので、そのギャップに全員が肩透かしのような状態になる。

「何してんの?」

「オセロだよ。負けた方がなんでも一つ言うことを聞くんだ」

「なっ…なんでも!?」

 その条件に全員がザワついた。盤を見ると拮抗してるらしい。

「バカ!なんでそんな条件になってんのよ!」

「だって…なんか流れで…」

「寮長は何を山上にさせるんですか?」

「んん~?なんだろな~…メイド服ってのもいいねぇ」

「まるでオヤジですわね」

「オレ賛成」

「山上、俺が手助けしてやろう」

「てめ!じゃあオレは清雅を手伝うぜ」

 本人たちの預かり知らぬところで盛り上がり、肝心のさゆりはううむと眉を寄せている。そしてやがてああ、と手を叩いた。

「…さゆり?」

「ここにしよ」

 さゆりが置いたコマは二枚しか清雅をひっくり返せない。すぐに清雅が逆転したが、その次の手で一気にまたさゆりが形成を逆転させた。一気に白一色になる盤に清雅がうなる。

「…参った。手詰まりだなこりゃ」

「やった!私の勝ちですね!」

 無邪気に喜ぶさゆりに蓮華と宗光が胸をなでおろした。清雅が万が一勝っていたら何を願われていたかわからない。彼は妖だ。妖の世界で約束は時に命の賭けあいになる。それをさゆりが知るはずもない。さゆりからしたら上級生との遊びの一種なのだから。

「じゃあさゆり、僕に何してほしい?」

「ん~…じゃあ…みんなで花火がしたいです!」

「…へ?」

 あまりに簡単な願いなので拍子抜けした。もっと違うものにしろと騒ぐ太郎や千代を尻目に、さゆりはもうすぐ夏だからと笑っていた。

 そんなさゆりの笑顔を見つめ、佳澄は心で誓っていた。

 この笑顔を必ず護りぬいてみせると。



続く


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