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黄泉送りタクシー、鹿沼の出勤簿① 【全4話完結】〜鹿沼は今日も縁分駅へ死者を送る〜  作者: 鬼喜怪快


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鹿沼は今日も縁分駅へ死者を送る③



 ノルマを達成した鹿沼は、

 月末もタクシーを走らせていた。

 

 普段は通らない夜の山道で乗客を探す。

 

 ノルマはすでに達成しているため、

 気持ちに余裕がある。


 山道を大きく左にカーブを切った、 

 その時——。



 ——キイィィ!


 

 泣いている5歳くらいの女の子の姿を見つけ、

 鹿沼は急ブレーキを踏んだ。

 

 タクシーを降り、

 その子のもとへ駆け寄る。



「こんばんは。

 逝き場所に迷っているのでしょうか?」


「ママがいないの……」


「お母様ですか?」


「うん」


「よろしければ、お名前を教えていただけますか?」


「りな……」


「上のお名前は言えますか?」


「杉山……」


「杉山……りな様!?」


「うん」


「あの。

 もしかするとお母様のお名前は

 里香さまでしょうか?」


「どうしてママを知っているの?」


「やはりそうでしたか。

 先日、お母様をお送りしたのですよ」


「ママがどこにいるのか知ってるの?」


「もちろんです。

 よろしければ、この鹿沼がご案内いたします」


「お願い。

 ママに会いたいの」



 鹿沼は、りなをタクシーに乗せた。

 

 もちろん、

 向かう先は縁分駅だ。



「りなさん。

 少しの間ですが、ゆっくりとなさってくださいね」


「うん。ママにすぐ会える?」


「えぇ。

 駅員に伝えて、

 できるだけ早くお会いできるように

 私が頼んで差し上げますよ」


「ほんと?」


「はい」


「うれしい!」


「あそこで、ずっとお母様を待っていたのですか?」


「うん。

 ゆうくんに棒で叩かれて痛いなって思ってたら、

 あそこでひとりになってたの……」


「ゆうくん?」


「一緒に暮らしてた男の人。

 ママの友達」


「その方に叩かれていたのですか?」


「うん……謝っても許してくれないの。

 ママも叩かれてたし、怖かった」


「そうですか。

 もうそのような方と会うことはありません。

 ご安心ください」


「うん!」



 縁分駅に到着すると、

 まだ文字の書けないりなの代わりに、

 鹿沼が生年月日とフルネームを入力した。

 

 プリンターから白い切符が印刷されると、

 鹿沼もタクシーを降り、

 りなを一番ホームまで案内する。


 駅員に母親のことを伝え、

 終着駅に着いたあとは、

 りなに案内係が付くよう申請をした。


 事務局で手続きをしていると、

 駅員がふたりを待合室まで来るように

 声を掛けてきた。


 鹿沼とりなは、

 不思議に思いながらついていくと——



「りな!」


「ママ!」



 そこには、

 先日送迎した女性が立っていた。

 

 りなの姿を確認するなり駆け寄って、

 強く抱きしめた。


 ふたりは再会に歓喜し、

 大粒の涙を流しながら

 何度も互いの名を呼び合った。



「まだ出発されていなかったのですか?」



 鹿沼が駅員に尋ねた。



「先日こちらに来られた際、

 天国へ着き次第お子様と会えるよう

 準備しておりました。

 しかし、お子様がまだ成仏されていないことが

 判明しまして……」


「おやおや……」

 

「そのことをお伝えしたところ、

 娘が来るまでここで待つとおっしゃったのです」



 鹿沼は安堵の息を吐く。



「……そうでしたか」


「鹿沼ドライバー、これはお手柄です。

 親子を再会させたのですから」


「偶然ですよ」


「下手をすれば、

 再会まで何年もかかったかもしれません。

 小さなお子様からすれば、あなたはヒーローですよ」


「お役に立てたなら光栄ですねぇ」



 親子が鹿沼のもとまでやって来た。

 

 母親は涙を流しながら、

 深々と頭を下げた。



「鹿沼さん。

 本当にありがとうございました。

 りなまで見つけていただけるなんて……

 感謝してもしきれません」


「いえ。

 杉山様からお子様がいると伺った時点で

 私が所在を調べるべきでした。

 気が回らず、誠に申し訳ございません」


「親子そろって、

 あなたに見つけていただいて本当に良かった。

 ありがとうございます」


「あちらでは、どうか末永くお幸せに」



 ふたりは手を繋ぎ、

 駅員に導かれて一番ホームへ向かう。

 

 途中、りなが振り返った。



「おじさん!」


「!」


「ありがとう!」



 大きく手を振る姿が見える。

 

 鹿沼は少し照れながら、

 小さく手を振り返した。


 今日は良い仕事をした。

 胸を張れる一日だった。



 仕事に戻るため、

 ロータリーへ足を向けた。



「!」


  

 タクシーまで戻る途中、

 ふと気になることが頭をよぎった。


 

 ——ゆうくん。


 

 ふたりを殺した男の名。


 タブレットで、

 杉山里香と杉山りなを検索する。

 

 死因欄には

「宮崎裕二による撲殺」と記載されている。



 宮崎裕二――ゆうくんに違いない。


 

 さらに検索すると、

 宮崎は存命だった。


 杉山家で生活を続けていることが分かった。


 

「ゆうくん……。

 どのような人間なのでしょうねぇ」


 

 鹿沼は仕事とは無関係なことに興味を持ってしまう。



 ――それが彼の悪い癖だった。



 ——————



 鹿沼はその足で、

 里香とりなが住んでいたアパートへ向かった。


 1階の部屋に宮崎はいる。

 

 中の様子を確認したいが、

 現世の物に干渉することは

 社内規程で厳しく禁じられている。


 違反すれば懲戒処分は免れない。



 ――侵入はできない。


 

 思案していると、

 アパートを見上げる30歳ほどの男が目に入った。

 

 穏やかな顔立ち。

 

 しかし、

 その姿は地縛霊だ。


 鹿沼は、その地縛霊に声を掛けた。



「もし、そこの地縛霊の方」


「……はい!?」


「その場から動けないのであれば、

 私が地縛を解き、

 あの世までお送りいたしましょうか?」


「いえ……結構です。

 僕はまだ動きたくないのです」


「なぜです?」



 男の視線は部屋へ向けられている。



「僕はあの男を……。

 道連れにでもしなければ……逝けません」



 宮崎と因縁があるようだ。


 

「彼に恨みがおありですか?」



 男が息を呑む。


 

「もしかして、

 彼に殺されたのでしょうか?」


「……あなたは、宮崎をご存じなのですか?」


「えぇ、少し」



 男は視線を鹿沼に向けると、

 宮崎との関係を語り始めた。


 共同事業の話で金を預けたこと。

 

 裏切られ、

 取り立てに向かったその日に、

 殺されたこと……。



「相手が悪かったのですね」


「僕が愚かでした。

 飲み屋で知り合った程度の人間を

 信じるだなんて……」


「……酷い話ですねぇ」


「だから何としても

 宮崎を道連れにして逝きたいのです」



 鹿沼はしばし黙って考え込む。

 

 そして、静かに口を開いた。


 

「あの……ひとつお願いがあるのですが、

 聞いていただけませんか」


 

 職務中の私事は禁止されている。


 それでも一度興味を持ってしまうと

 止まらなくなる――

 

 それも彼の悪い癖だった。



 ――今月のノルマは達成済み。

 

 始末書が1枚増えるくらい、

 誤差の範囲と言い聞かせた。



 ——————

   


 そのアパートの1室で、

 宮崎は女を呼び入れて酒盛りをしていた。


 その部屋は、

 もともと里香とりなの部屋だ。

 

 宮崎は殺した親子が住んでいた部屋を、

 微塵の罪悪感も持たずに

 我が物顔で使っていた。


 一緒にいる女は派手な容姿をしていた。

 

 飲み屋の女性を連れ込んでいるように見える。



「おい、シャワー浴びてこいよ」


「ふふっ、いいよ」



 女は立ち上がり、

 浴室へ向かった。

 

 それを横目に、

 宮崎は薄気味悪い笑みを浮かべ、

 酒を口へ流し込む。


 女が浴室へ入ってすぐのことだ――

 

 叫び声が聞こえた。



「キャア!」


「!」


「ゆうくん、来て!」


「どうした!?」


 

 宮崎は慌てて女のもとへ駆けつける。

 


「いっ、いま、血まみれの男が浴室に立っていて!」


 女が指さす先へ目を向ける。

 

 しかしそこに見えるのは、

 いつもの浴室だ。


 

「馬鹿かお前……。

 どこに血まみれの男がいるんだ?

 酔っぱらい過ぎだ」


「っ! ほんとだって!」


「まったくよぉ。

 先に俺から浴びるから、

 お前はテレビでも見てろ」



 女の顔は青ざめていた。

 

 見間違いではない――


 そう言えるほど、

 はっきりと血まみれの男を見たのだ。


 女は恐怖で呆然となり、

 全身を震わせながら逃げるように

 部屋へ戻った。


 先に宮崎がシャワーを浴びることになった。

 

 シャワーを流し、

 宮崎は頭から浴びる。

 

 鼻歌を鳴らし、機嫌がいい。


 しばらくすると、

 浴びているシャワーの水が

 赤黒い血のような色に変わって見えた。



「おいおい、なんだこりゃぁよ!」


 

 宮崎は慌ててシャワーを止めた。

 

 鏡に自らの姿を映すと、

 宮崎の全身が血まみれに見える。

 

 それに驚き、声を張り上げた。



「おい!

 マナぁ!

 大変だ、シャワーから血が――」


 

 部屋にいる女へ向けて叫ぶ。



「いやぁぁー!」



 かぶせるように、

 再び女の叫び声が部屋から響いた。

 

 その声に、

 宮崎は血まみれの姿のまま浴室を飛び出す。


 すると女は、

 泣きながら荷物をまとめ出した。



「どうした!?」


「いやだ!

 この部屋ヤバいって!

 血まみれの男がまた出て来た!

 絶対おかしいって!」


「おい、俺を見ろよ!

 シャワーから血が出て来たんだよ!」


「はぁ!?

 どこが?

 普通に全身びしょ濡れなだけじゃん!」


「へっ?」


「とりあえず無理!

 帰る!」


「待てよ!」


「無理だしっ」


「もう店行ってやらねーぞ!」


「別にいいから!」


「待てって!」



 女が慌てて部屋を出て行く。

 

 宮崎が追いかけようと一歩踏み出した瞬間、

 何かが足に絡みつき激しく転んだ。


 絡みついた物を見る。

 

 ベッドと床の隙間から血まみれの手が伸び、

 宮崎の足首をしっかりと握り締めていた。



「うわあぁぁ!」


 

 宮崎は足を大きく振り回し、

 血まみれの手を振りほどいた。

 

 恐怖で言葉にならない声を上げながら、

 シャツだけ羽織って部屋から飛び出した。



「ホラーだ!

 マジのホラーだ!」


 

 ほぼ全裸の宮崎は

 部屋から逃げ出したものの、

 その格好ではどこにも行けないことに気付いた。


 その場でうずくまり、

 悪態を吐く。



「クソが……。

 こんな格好でうろついてりゃ、

 秒でサツに捕まっちまうわ。

 部屋へ戻るわけにもいかねぇし」


 

 身動きが取れない宮崎は、

 アパートの階段に身を寄せて

 辺りを見渡した。

 

 すると偶然にも、

 タクシーが1台停まっていることに気がついた。



「ラッキーだ。

 こういう時に日ごろの行いってのが

 付いて回るんだ」


 

 宮崎はシャツを腰に巻き付け、

 タクシーまで小走りに近づいた。

 

 助手席側の窓をノックし、

 運転手へ合図を送った。


 運転手の鹿沼は後部座席の扉を開け、

 宮崎を乗車させる。



「どちらまで?」


「訳あって俺、裸でよ。

 あの部屋に俺の服があるから、

 取って来てくれねーか?」


「服を取って来るのですか?」


「あぁ。テーブルの上にスマホと財布もある。

 取って来てくれれば礼はする」


「申し訳ございません。

 弊社はそのようなサービスを

 行っておりません。

 他を当たっていただけませんか?」


「礼はするって言ってんだろが!」


「あの家がお客様の家だという

 証拠はございますか?」


「俺んちだよ!

 嘘吐くわけねーだろ!」


「もし嘘でしたら不法侵入になってしまいます。

 やはり、そのようなことは致しかねます」


「てめぇ……」


「代わりと言えばなんですが……」


「!?」


「私の会社がすぐそこにございます。

 よろしければ弊社のユニフォームを、

 一時的に貸し出しさせていただきますが、

 いかがでしょう?」


「服を貸してくれるのか?」


「えぇ。

 その格好では、

 何をするにも難しいでしょう」


「……わかったよ。

 とりあえずそれでいい……くそっ!」


「かしこまりました。

 それでは発車いたします」



 宮崎を乗せたYOタクシーは、

 現世を走るタクシーの顔をして

 走り出した。







 

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