【8】高級アパートメントの隣にある罠。〜現場へ向かうオーラの三人と、引き返せない合図〜
ギャレットが一言言う。
「では、流せ」
ノラが「了解!」と勢い良く答えると――
街角の防犯カメラから、銀行のATMカメラ、店舗の防犯カメラを繋げた、青年の"タクシーに乗るまで"の動画がパソコンに流れ出す。
まず、青年は30階建ての高級アパートメントの右脇を歩いている。
そして、30秒程歩くと、左側に行って、一旦映像は途切れた。
そして、5分もしない内に、また画面に現れる。
リュックで腹部を隠しながら大通りまで行き、流しのタクシーに手を挙げる。
タクシーを停めると、走り去った。
ノラが話し出す。
「この、青年が歩いている右側の建物が、送った高級アパートメントです!
このアパートメントは、軍事産業を手がけている企業が警備を固めています!
もちろん住人は富裕層!
最低家賃でも、1万ドル近いです。
アパートメントの前の道路は、アパートメントの私道で、防犯カメラは警備会社でしか見られません!
但し、彼の歩いている道路は、アパートメントから出て来ないと、歩けない場所になります。
そのアパートメントの前は、アパートメント自体の私道になっていて、アパートメントからの眺望を良くする為か、アパートメントの前に、公園や商業施設などもありません」
「つまり、突き当たりに建ってるんだな?このアパートメントは?」とギャレット。
ノラが再び勢い良く答える。
「そうです!」
ヴォーン捜査官がノラに訊く。
「彼は左側に逸れて消えている。
左側には何がある?」
「それが〜……工事現場!
というか、資金繰りが上手く行かなかったらしくて、工事が止まっちゃってる何も無いところです」
「持ち主は?」とヴォーン捜査官が続けて訊く。
「それが〜……もうね!
大変だったらしくて!
まず、この土地の持ち主は不動産業者に正規で売ってます。
そして、不動産業者から、その土地を買い取った人物もちゃんといる!
そこまでは良いけど、その後に工事を請け負った会社が給与未払いで、その人物を訴えようとしたら……自己破産して行方をくらました。
その人物は、その後の納税記録も何もナシ!
何の為に買ったの?って感じです!
問題は、ここで!
この土地の持ち主は自己破産はしてるけど、その前に違う人物にこの土地を売っていたんです。
その人物は投資目的の外国人。
だから、計画的な自己破産じゃないかと、噂されているけれど、その外国人は土地を放置しているので、誰も触れない状態で、工事途中のままになっています」
クロウ捜査官が頷く。
「青年が刺されたのは、その場所で間違いないな!
ノラ、彼以外にその場所に入って行った人物は?」
ノラがため息をつく。
「それが……いません!
私も、たぶん"何処からか”は入ったと思って、探したけど、巧みに防犯カメラを避けています。
因みに、その工事途中の土地にも、防犯カメラは一台あるけど、誰も映っていません」
すると、クロウ捜査官が舌打ちした。
「犯行現場に決まりだが、その刺したヤツは、防犯カメラの死角を狙って、彼とそこで話をしたのか……!」
「やはり、刺した犯人は"手慣れて"いる。
こういうことに、慣れているんでしょう」とヴォーン捜査官が付け加える。
アッシュ捜査官が口を開く。
「そうなると、この青年はその"手慣れた人物"と、やはり知り合いってことになるわよね?
そんな危険な人間に呼ばれて、ノコノコ付いて行ったのは、なぜ?」
ギャレットが静かに言った。
「――"公園"だ。
刺した犯人が"公園"を餌に、青年を呼んだ。
しかも、それはただの"餌"じゃない。
事実だったんだ。
刺した犯人は、青年がどうしても隠したかった、エレナに危険が迫る"公園"の場所を正確に言った。
だから、青年は死を選んだ。
ノラ。
その日、その周辺で他殺、不審死、救急車出動は無いか?」
ノラが「お待ちを!」と答えて、約1分後に再び話し出す。
「他殺、不審死はありません!
救急車は出動していますが、病気や普通の怪我ですね!
家庭内で転んだ、店舗内で怪我をしたなど。
特に不審な点はありません。
全員、救急車で運ばれ、病院で手当てを受けています!」
ギャレットが「ご苦労」と言って通話を切る。
すると、クロウ捜査官が立ち上がった。
「主任!
俺はその現場を見てみたい!
行っても良いか?」
ヴォーン捜査官も続ける。
「俺も一度、見てみたいです。
刺した犯人のプロファイルもするなら、現場を見るのが一番だ。
今は刺した犯人しか、青年に繋がる手掛かりはない」
すると、アッシュ捜査官がにこりと微笑んで言った。
「今、主任はFBIに呼ばれない限り、クワンティコ周辺では動けないわよね?
私も行くわ。
彼の心理を生身で感じてみたいの。
ただ――」
アッシュ捜査官が言い淀んだ瞬間、ギャレットが言った。
「証拠を見つけたら、だろ?」
クロウ捜査官が大きく頷く。
「そうだ!
彼の刺された場所は、まだFBIも特定していない。
それに、証拠を見つけてFBIに提出したら、それで終わる可能性も高い!
特命大使の娘と、海軍大将の息子と、唯一無二の天才博士を守る為にな!」
「そちらはお任せ下さい」と静かな声がする。
ホイットモア渉外官だ。
「鑑識はオーラの人間をお連れ下さい。
ただ、目立たぬように五人程度で。
FBIに捜査の邪魔はさせません」
ギャレットがフッと息を吐く。
「よろしい。
では、全員、フォギー・ボトムに向かえ。
ホイットモアの手筈が整い次第、な。
ホイットモア、明後日の午前中にチームが戻れるように、用意を頼む」
ホイットモアが「了解しました」と一言答えて、会議室を出て行く。
ギャレットは三人を見ると言った。
「いいか。
そのアパートメントの住人に、捜査だと絶対に悟られるな。
警備会社にもだ。
現場は幸い放置されている工事中の場所だ。
後は逐一報告を」
三人が「了解です!」と声を揃えた。
そうして、クロウ捜査官、ヴォーン捜査官、アッシュ捜査官は、一時間後にはオーラを後にした。
その報告にギャレットのオフィスに来たホイットモア渉外官は、ギャレットに静かに告げた。
「FBI行動分析課、マーカス・ローウェル課長の承認を得ました」
「彼に何と?」
そう問うギャレットに、ホイットモアは眉一つ動かさずに答える。
「エレナ・ウィンスロウ氏に、青年が自分の為に、自ら命を絶ったことを知られるまでに、素早く青年の最後の行動と証言の矛盾を突き止める必要がある。
そこで、FBI近辺をオーラのプロファイラー達が見たがっていると、ローウェル課長に申し上げました。
オーラのチームに先入観を持たせない為にも、FBIとは接触しない方がよろしいでしょうとも。
課長は二つ返事で承認してくれました」
「成る程。ありがとう」
ギャレットの言葉に、ホイットモアは少し微笑んで頷くと、ギャレットのオフィスを出て行く。
ギャレットはパソコンに向かい、今までの資料を再編する。
自分もプロファイルし直す為に。
そうして、昼食も忘れ、青年の動きを何十回と脳内で再生していた時だった。
ギャレットのスマホが鳴った。
ギャレットが素早くスマホを掴む。
だが、ワンコールで切れた。
相手は非通知。
ギャレットは電話を掛ける。
そして、ワンコールで切った。
それが引き返せない合図とも知らずに――
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