【7】見落としていた最初の関係〜花屋のゴミ箱に捨てた青年と、非通知のワンコール〜
「まず、今ある証拠だけでプロファイルしてみよう。
クロウ、君は?」
ギャレットの言葉に、クロウ捜査官が腕組みをして、うーんと唸ると口を開く。
「まず、全体像はちぐはぐとしか言えないな!
この青年は顔立ちも良い。
服装だって、整っている。
スタイルも良いよな?
リュックだって安物じゃない。
外見や、タクシー運転手に対する態度からしても、フォギー・ボトムに住んでいたとしても、おかしくはない好青年だ。
じゃあ、エレナ・ウィンスロウと並べるかと言われると、答えはNOだ。
エレナを"何から"守ったのかは、まだ分からんし、この好青年がギャングの情報を持っていたのか、それすら疑わしい。
それなのに、しなくてもいい、自殺をした。
しかもFBI特別捜査官と、天才博士の前で!」
「そうなんですよね」とヴォーン捜査官。
「彼からは、犯罪の匂いはしない。今はね。
それに、彼を刺した人物も、最初は彼を刺そうとは思っていなかったんじゃないでしょうか?」
ギャレットが「続けろ」と一言。
ヴォーン捜査官が皆を見渡して話し出す。
「この青年を刺した犯人は"手慣れて"いる。
つまり、この青年の口を本気で塞ぐ気なら、見られない場所で"本気"で刺せばいい。
もしくは銃でも良いでしょう。
でも、中途半端なナイフだった。
時間帯も20時前は早すぎる。
深夜だって良い筈だ。
たぶん、この青年が自分の話を受け入れる前提で話をしている内に、刺さざるを得ない状況になったとしか言えません」
「成る程。アッシュ?」とギャレット。
「そうね。
一番引っ掛かるのは、この青年は社会保障番号のカードすら持っていなかったこと。
危険を感じていたのに、なぜ、FBIの二人の前に行った時に、使い捨てのスマホしか持っていないの?
それでも使い捨てスマホはまだ分かるわ。
現金払いもね。
追われていたなら、身を隠す術という理由になる。
でもあのリュックに多少の私物が入っていたなら、タクシーの中でリュックで刺し傷を隠してるのだから、そのまま持って行けば良い」
その瞬間――
ギャレットのスティールブルーの瞳が金属のようにギラリと光った。
「――花屋だ。
花屋からは大量のゴミが出る。
彼はきっと、花屋のゴミ箱に私物を捨てた。
彼はそこまで計算して、あの場所を選んだ」
クロウ捜査官が、立っているギャレットをジロッと見上げる。
「なぜ、捨てる?
これからFBIに出頭するのに?
死ぬ気でいたことは分かる。
だが、バッグを捨てなくても、FBIの二人は彼のことを知っている。
いずれ身元は分かる。
捨てる必要性は?」
ギャレットが静かに答える。
「エレナ・ウィンスロウを"完璧"に守る為だ。
彼は――
刺した犯人に一番知られたくなかった、"公園を知られた"のだから」
明日、ノラにフォギー・ボトムの住人で、青年に関係ありそうな人物を探り出してもらうことにして、今日の仕事は終わりになった。
ギャレットはオフィスで一人、書類仕事をしていた。
そして、二時間半が過ぎると――
ギャレットはスマホを取り出した。
着信履歴を見る。
そこには、会議室で一度だけ鳴った着信の履歴がある。
電話番号が表示される筈なのに、『非通知』になっていた。
昨日のビデオ通話が蘇る。
『課長が用意してくれた、この使い捨てのスマホを使うことも、あなたとお話しすることも、もうないでしょう。』
彼はわざと"使い捨てのスマホ"と言った……
言わなくて良い情報だ。
彼ほどの天才が、高熱があったとしても、そんなミスは決してしないだろう。
俺に知らせて来たんだ。
あのスマホの通信は、誰にも追えないことを。
だから、俺はモリス博士が帰った後に、ワンコールして切った。
彼の反応を見る必要があったからだ。
そして彼は、あの使い捨てのスマホを、破棄してはいなかった。
そして、俺にワンコールする前に、ご丁寧にも、『非通知』設定にして、ワンコールして切った。
だが、彼は知っている。
俺が彼の番号を知っていることを。
これは合図か?
――もう、自分に関わるなという。
それとも承諾か?
――まだ、話す余地があるという。
ギャレットは音もなく立ち上がると、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。
グラスに注いで、一口飲む。
氷は無かったが、水は十分に冷えていた。
翌日。
オーラでは、ノラに、青年がタクシーに乗った場所から半径5キロ圏内の防犯カメラにアクセスし、青年の顔認証を掛けて、青年がタクシーに乗る前の足取りを追ってもらうことになった。
会議室のボードには――
亡くなった青年の写真、エレナ・ウィンスロウの写真、その下にネイサン・ウェルズFBI特別捜査官の写真と、セオドア・ヴェイル博士の写真が並んでいる。
そして一番下には『?』の付いた影だけのイラスト。
青年を刺した犯人だ。
ギャレットはクロウ捜査官が貼った写真を見ながら思った。
この写真は必要なのか?
と本気で。
そして、視線をウェルズ特別捜査官に移し、上にあるエレナの写真を見て、視線が止まった。
即座にパソコンを叩く。
そんなギャレットを皆が凝視している。
数分も掛からず、ギャレットが静かに告げる。
「――やはり。
俺たちは、最初の関係性を見落としていた。
接点はエレナとウェルズ特別捜査官にある。
二人の実家は、近所どころじゃない。
隣同士だ。
昔ながらの土地という特性と、お互いの敷地、そして、周囲の家の敷地も広すぎて、入り組んでる為に住所が少しずれているだけだ。
まず、この二人が親しかった。
それに、ウェルズ特別捜査官の今の自宅も、同じエリアにある。
捜査官の父親のウェルズ海軍大将は、元々名家の生まれだ」
すると、アッシュ捜査官が即座に口を開いた。
「これじゃあ……あの青年は一体何者なの?
特命大使の娘と海軍大将の息子と親しかったことになる!
でも、プロファイルでは、彼は上流階級の人間じゃないわ!」
その時、スピーカーからノラの勢いの良い声が響いた。
「フォギー・ボトムに、死亡した青年に繋がる高級アパートメントが割り出せました!
今、送ります!」
皆のパソコンに表示される建物の衛星写真と、住所と建物名。
しかし、それは謎が深まるだけの"事実"だった――
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