【35】午前五時のドミノ爆破。〜神様のギフトを守る新たな爆弾犯〜
そして、翌朝、午前五時。
ジュリアン・クロフォードのマイアミに17ヶ所ある副業のオフィス兼店舗は、全て爆弾で吹き飛ばされた。
午前五時にクロフォードの自宅の一番近い店舗から、まるでドミノ倒しのように17ヶ所が順番に爆発したのだ。
従業員は出勤前、もしくは終業後だったお陰で死傷者はゼロ。
そして、被害を受けたのはクロフォードのオフィス兼店舗だけ。
近隣へ被害は、爆風で飛ばされた埃が舞った程度だった。
マイアミではあちこちに規制線が張られ、マイアミ警察とATFの職員で街中がごった返し、どの道路も渋滞を起こしていた。
ギャレットはオーラ支局で集合するよりも、ホテルでチームを集合させた方が早いと判断し、午前八時、自室にクロウ捜査官、ヴォーン捜査官、アッシュ捜査官を集合させた。
パソコン画面には、ノラとホイットモア渉外官も映っている。
ギャレットが口火を切る。
「ノラ、爆弾の情報は?」
ノラが勢い良く答える。
「マイアミ警察とATFが捜索中!
まだ詳細は何も分かっていません!
但し、ジュリアン・クロフォードは保護され、自宅から爆弾が発見されています!
今はクロフォードの投資ビジネスのオフィスを、爆弾処理班が捜索中です!」
その瞬間、クロウ捜査官が掠れた声で言った。
「クロフォードの自宅にも爆弾があったのか……!」
ノラが即答する。
「実は……今夜の午前零時に爆発する予定だったようです!」
すると、ヴォーン捜査官が怪訝そうに話し出した。
「つまり、この爆弾を仕掛けた犯人は、まず、クロフォードの副業を全て破壊し、クロフォードが絶望したところで、本人も爆弾で殺害するつもりだったと言うことになりますよね?
しかし、17件も爆発させていたら、クロフォードの自宅も投資ビジネスのオフィスも、爆弾処理班に調べられるのは当然です。
現に、クロフォードの自宅から、爆弾が見つかっている。
クロフォードの自宅の爆弾は、ダミーではないでしょうか?」
ノラが即座に反論する。
「ダミー!?
本物ですよ!!
私が弁護士を付ける覚悟で掘った情報です!!」
ヴォーン捜査官が苦笑する。
「君の情報が間違っているということではなくて、クロフォードが保護されることを前提に置いたのでは?と言うことだよ」
ギャレットの鋭い声が響く。
「つまり、犯人は保護先で、クロフォードを狙うつもりと言うことか?
爆弾ではなく、直接殺害したい、と。
良く練られた脚本だが、そうなるとマイアミ警察かATFに内通者がいることになる。
だが、17個もの爆弾を仕掛け、副業を吹き飛ばすなら、クロフォードの本業のオフィスのビルを一つ吹き飛ばした方が、遥かに簡単で、クロフォードには致命傷になるだろう。
この犯人は馬鹿じゃない。
近隣に被害を与えない爆弾を作るのは、容易いことではないからだ。
しかも、副業の方には、警備会社ではなくクロフォードが雇った"警備員"たちが、うじゃうじゃいる。
そんな中で、精密な爆弾を仕掛けた犯人が、なぜ遠回りをする?
つまり――」
ギャレットのスティールブルーの瞳がギラリと光る。
「この17店舗の内の一つを爆破したかったが、それでは自分の"真の目的"が悟られる。
だから、全てを破壊した」
アッシュ捜査官が頷く。
「木の葉を隠すなら森の中――その逆をいったのね!」
「その通りだ」とギャレット。
クロウ捜査官が腕組みをして、大きく頷くと言った。
「クロフォードの副業で、恨みを買いそうなのは――
あの透明ボックスの店だな!
彼女たちに寄生して稼いでいたヤツら、ギャングの売春の元締め……みんな敵に回している!」
「だが、なぜ、今なのか?」
ギャレットの厳しい声に、三人がギャレットを見た。
ギャレットは厳しい声で続ける。
「あの透明ボックスの店は、開業して何年も順調だった。
クロフォードはヤツらに、何らかの"見返り"をしてやっていたに違いない。
ギャングが満足する、"何か"だ。
その金づるのクロフォードの店を、なぜ爆破する?
それに、爆弾はギャングの復讐には合わない。
ヤツらは、クロフォードに復讐したいのなら、クロフォードの頭を撃つだろう。
それに、こんな緻密な作戦をギャングが立てられるだろうか?
答えは、NOだ」
その時、アッシュ捜査官がスマホを手にして声を上げた。
「エリーからのメッセージよ……!
なんてこと!
この爆弾騒ぎを受けて、エレナは父親の命令で、自家用ジェットで避難させられたわ!
行き先は――モナコ!
エリーも、今日の午前中にも祖父母と避難するらしいわ!」
瞬時にギャレットの声が飛ぶ。
「行き先は!?」
アッシュ捜査官がスマホを操作しながら答える。
「……待って……!
イギリスだわ!
イギリスの祖父母の別荘に行かされるって……!
でも、この使い捨てのスマホは持っていくと言ってるけど……!
アメリカの使い捨てのスマホじゃ、国外では使用出来ないわ!」
「ノラ!」
ギャレットの声に、ノラが即座に答える。
「ハイッ!
エリオに渡した使い捨てのスマホですね!
追えます!
……スマホに入りました!
国際通話出来るように、設定し直しました!
それと、今、アッシュ捜査官の持っているスマホから情報が漏れないように、設定を強化しておきました!
その代わり、エリオが違うスマホからアッシュ捜査官の持つスマホに掛けても、連絡は取れません!」
「アッシュ!
エリーに絶対にそのスマホを無くさないように伝えろ!
『トランスの情報は、その使い捨てのスマホでしか伝えられない』とメッセージを打て!」
ギャレットの言葉に、アッシュ捜査官が素早くメッセージを打つ。
「了解!
エリーから返事が来たわ!
『OK!待ってる!』よ!」
一拍の間の後、ギャレットが言った。
「よろしい。
では、ここで整理しよう。
もう、エレナからリアムの事は聞けない。
エリーからも、スマホ越しではエレナとリアムの関係を、詳細に聞き取ることは難しい。
トランスの身柄を我々が保護出来たのなら、話は別だが、トランス――ジャコビー――は死亡しているからな。
そこで、この爆弾事件で得をしたのは誰だ?
そう――エレナだ。
エレナはリアムの死を知らずに済む。
そして、この爆弾事件が解決するまで、エレナはマイアミに戻っては来ないだろう。
もしかすると、安全面を考えて、大使が数年はマイアミに来る事を禁じることもあり得る。
だが、エレナはもちろん爆弾犯じゃない。
エレナを守った人物がいる」
「だがなあ……」と、クロウ捜査官が空中を見つめて言った。
「エレナの"保護者"ウェルズ特別捜査官は、リアムの死以来、バージニアで"休暇中"だ。
他に誰がいる?
エリーも爆弾犯じゃないよな?
エリーはリアムを通じてエレナと知り合ったんだし、彼のような人物が爆弾を使って"仲良し"のクロフォードの店を17店も襲撃するとは到底思えん!
プロファイルにも合わん!」
「だが―― エリーを守る為に死んだ者は、爆弾魔ジャコビーだった」
ギャレットの静かな声に、ホテルの一室を沈黙が支配する。
「エリーに"人生を変えて貰った人物"がまだいる。
その人物は、ジャコビーより先にエリーと知り合っていて、エリーが心配でジャコビーに接触していたとしたら?
ジャコビーはその人物に、託したのかも知れない。
自分が消えた後に、エリーを守る為の術を。
エリーは今、何をした?
そう、我々オーラと接触した。
その人物は、エリーが知らなかったとは言え、ジャコビーを匿っていたから、我々が捜査に来たと勘違いをした。
その人物にとって、リアムの死よりも、エリーの人生に染み一つ付けたくないとしたら?
そう、爆弾魔ジャコビーは、爆弾作りの技術をエリーを守る為に誰かに教えていた。
神様のギフトを貰った誰かに」
そして、ギャレットは三人を見渡すと、冷徹な声音で続けた。
「それに、なぜ、エリーは我々が聞いてもいないエレナの"避難"を、自分の"避難"よりも先に伝えたのか、だ」
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