【30】点と点が線で繋がる時、博士のプロファイルは否定される〜FBIより先にエリーに接触せよ〜
それからギャレットは、自分の寝室でジャコビーのカウンセリングの内容を聞き続けた。
『エリー』は観察力も鋭く、ある日ジャコビーに言った。
「エリーがね、言ってくれたんです。
『トランス、この高級モーテル、確かに高級だよ?
でもさあ、トランスが考えごとしたりするのに、少しうるさくない?』って。
それは確かにそうで。
だが、マイアミの土地勘がない私には、ここで妥協しても良いと思っていました。
すると、エリーが軽く言ったんです。
『特に子供の声とか、夜中に平気でエンジン掛けっぱなしにしてるヤツとかいるし!』って。
でも、私は現金で一ヶ月ぶん前払いして"旅をする"のが"癖"で。
そうしたら、エリーは私の話を聞くなり、その場で一回転してパチンと指を鳴らした。
また、マイケル・ジャクソンの様にね。
私は笑ってしまった。
すると、エリーがにっこり笑って言った。
『一ヶ月ぶん前払いしてくれる上客を逃さないホテルなら、どう?
値段はこのモーテルと変わんないし、プライベートビーチもあるよ!
しかも家具付き!』と。
私は『エリーは流石に土地っ子だね。そうしよう』と答えて、エリーの会社に依頼して、その日のうちに引っ越ししました。
そこは、素晴らしいアパートメントでした。
本当に、あのモーテルと同じ家賃とは思えないくらいに。
私は本当に幸せでした。
エリーはまるで猫みたいに、フラッとやって来るんです。
仕事の場所が不規則なせいかもしれませんが。
『トランス〜!俺!』ってノックして。
必ずあの緑茶を、私のぶんまで持って来てくれて。
そのうちエリーからダンボールで届く様になって。
ビーチの"エリーの指定席"にも、エリーはフラッと来るんです。
『やっと昼休憩〜!マジ、うちの会社ホワイトなの!?』ってね。
そして二人で夕陽を見ながら、冷えた緑茶を飲む。
たまに、エリーは砂浜でムーンウォークをしたりして。
でも、ある時、エリーが一週間現れなくて。
グループメッセージにも何も来ない。
私は心配して、エリーと連絡が取りたくて、エリーの会社を検索してみました。
そうしたら……エリーは御曹司だったんです!」
おかしそうに笑うジャコビー。
「エリーが勤めている、マイアミに本社がある、全国展開している総合ファシリティマネジメントの一流企業の三男だったんです。
しかも、役員の一人。
ですが、エリーの兄と姉はエリーと年齢が10歳以上離れていた。
兄は経営陣の一人。
姉はその企業の顧問弁護士。
私はピンと来た。
エリーは野心を持っていない。
それに、現場で仕事をするのが好きで、IT部門で働くことを、親や兄姉に許されている、と。
たぶん同僚も知らないだろうと。
だが、それは"私とエリーには"関係ない。
そして、エリーは一週間後、また猫の様に現れた。
『疲れたー!トランス、お茶ある?』って。
私はあのペットボトルをいつでも飲める様に冷やしてあったら、エリーに一本渡しました。
エリーはごくごく飲むと、『うまーい!』と言ってソファにゴロンと寝転んだ。
私は正直に言いました。
エリーが一週間も現れなくて、メッセージも無くて、心配で君の勤める会社を調べたよ。
君は御曹司なんだね、と。
そうしたら……エリーはあっけらかんと『うん!そう!』と答えるし……」
苦笑するジャコビーは、それでも楽しそうだ。
「私は笑うしかなかった。
そして、エリーの向かい側のソファに座って、緑茶のペットボトルを飲んでいた。
すると、エリーが寝転んだまま、天井を見つめて言った。
『トランスはいいね。
元教師だし、知識も教養もあって、見た目も威厳があるしさ。
でも俺の幼馴染はさ……事情があって……大学どころか高校も中退してて。
俺の会社に入れって言っても聞かないし。
「俺に迷惑かける」の一点張り。
でも――
好きな人が出来てさ……。
その人はスゲー経歴の持ち主なの』
私は『そうか』とだけ言いました。
エリーは相談したいんじゃない。
ただ、話を聞いて欲しいだけだと思ったからです。
そうしたらエリーがまた話し出した。
『俺の幼馴染……その人と偶然、隣り同士に住んでるんだよね。
それでさあ……初めて挨拶した時、何て言ったと思う?
「俺なんかと握手した手を洗って下さい」だよ?
もうさ、罪は償って……というか俺からしたら罪じゃない。
もう、罪悪感の塊!』
私は思わず言っていた。
その子は、その凄い経歴の持ち主と、お隣に住めるんだろう?
仕事は成功してるんだろう?と。
だったら過去なんて関係ないよ、と。
エリーを励ましたかったんです。
エリーはいつもの軽い口調で言っていたけど、その幼馴染を心から心配しているのが伝わって来たから。
そうしたらエリーは小さく微笑んだ。
まるで子供の様に。
そして、言った。
『トランスはやさしいね。
でも……その幼馴染……リアムって言うんだけど、リアムの持ち家じゃないんだ。
会社の持ち物でさ、リアム、オーナーに気に入られてるから、そこに住まわせて貰ってるだけ』」
ギャレットはそこでテープを一時停止した。
パソコンのキーボードを素早く叩く。
『エリー』は直ぐに分かった。
フルネームはエリオ・エヴァレット。
ジャコビーの言う通り、マイアミに本社があり、全国展開している総合ファシリティマネジメントの一流企業の三男。
そして、自分でリアムの幼馴染と言っていて、プロファイルと完全に一致する。
それに――
リアムが住んでいたのは、ジュリアン・クロフォードのペーパーカンパニー『マリナー・キー・ホールディングス LLC』の持ち家。
そのジュリアンとも親しいエリオ。
点と点が、一本の線で繋がった瞬間だった。
だが、ギャレットは捜査が前進した喜びよりも、不安が募った。
FBI行動分析課も、このテープを解析しているだろう。
エリオを"ジャコビーをそそのかした人物"として。
もし、そうなってエリオを尋問しようとしても、ジャコビーのこのカウンセリングテープだけでは、エリオの弁護団は、『エリオはジャコビーとは知らなかった。トランス・ジェフリーと信じて接していた』と主張出来る。
ジャコビーのこのテープこそが、証明している。
エリオはジャコビーを"トランス"だと信じ切っていた、と。
しかも、犯行をそそのかしてなどいない。
逆にジャコビーに平穏をもたらしている。
それに、エリオもリアムの死を知らない筈だ。
もし、知っていたら、あれだけの行動力のあるエリオなら、もう動いている。
万が一、リアムの死をエリオが知ったら?
彼は何も語らなくなるだろう。
リアムの"悲惨な"過去を、幼馴染のエリオが今更話すとは思えない。
FBIよりも先に、エリオに接触しなくては……!
ギャレットはそう決意して、気づく。
それは、ヴェイル博士のプロファイルを否定する行為であることに。
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