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A.U.R.A.《オーラ》高度犯罪分析局 ――たった一人の死を追う逆算プロファイル  作者: 久茉莉himari


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22/36

【22】やさしい嘘は罪じゃない。〜プロファイルされなかった主任は、白いソファに崩れ落ちる〜

約三時間のフライトを終えて、ギャレットは空港からヴェイル博士の自宅にタクシーで直行した。


1キロ手前でタクシーを降り、タクシーが視界から完全に消え去るのを待って、ヴェイル博士の一軒家に向かう。


ヴェイル博士の家は、ギャレットが去った時から何ら変わらずに見えた。


しかし、ガレージのシャッターは閉まっていた。


FBIの職員がヴェイル博士の入院中にタイヤを変えて、整えて行ったのだろう。


ギャレットは作戦通りだと、確認する。


そうして、ギャレットがインターフォンを押すと、「今、開けます」と柔らかな声がして、ギャレットは手土産すら買って来ていないことに気づく。


思わず舌打ちしそうになったその時、玄関のドアが開いた。


ギャレットの目に入ったのは、まず、光。


そして、その光が、ヴェイル博士の輪郭そのものだと気づく。


ヴェイル博士がアッシュブロンドのストレートの髪をサラリと揺らし、淡いヴァイオレットグレーの瞳がギャレットを見上げる。


「どうぞ。

お呼び立てして申し訳ありません」


その声はやさしい。


そして、博士の足元のロドンが尻尾を振って、お座りしている。


ヴェイル博士がロドンに向かってにこりと微笑む。


「ローク主任捜査分析官が来てくれたよ!


ロドン!

お昼ごはんにしようか?」


そう言ってキッチンに向かうヴェイル博士の後ろを、ロドンが付いて行く。


すると、ヴェイル博士が楽しげに言った。


「ローク主任捜査分析官、どうぞ、ソファに座って待ってて下さい」


ギャレットは真っ白なソファに座りながら、FAXが撤去されていることを確認する。


これも作戦通り。


だが、ギャレットはそれを確認すると――


なぜだかヴェイル博士の家の中の“暖かさ”から目を離せなくなった。


上品で可愛らしい家具。


そこかしこにある瑞々しい観葉植物と、飾られた美しい花々たち。


網代編みの持ち手付きの丸いカゴに入った、ロドンのおもちゃ。


リビングから見える、色とりどりの花に囲まれた裏庭の芝生の色までも。


NYの自分の部屋の寒々しさがギャレットの胸を刺す。


すると、ヴェイル博士が戻って来た。


博士はギャレットとその対面の位置に、ロイヤルミルクティーを置くと、再びキッチンに戻り、皿を並べると、言った。


「エスプレッソマシーンが壊れてしまって。


ローク主任捜査分析官は、ロイヤルミルクティーはお好きですか?」


ギャレットがやさしく「ええ」と答えると、ヴェイル博士は嬉しそうに笑った。


「良かった!


それとクロワッサンのローストビーフサンドを作ったので、よろしければどうぞ」


ギャレットもフッと笑う。


「ヴェイル博士がお料理を?」


ヴェイル博士は、ちょっぴり膨れた顔をして横を向いて言った。


「だって……クロワッサンを温めて、後は切るだけだから……」


ギャレットは「頂きます」と一言言うと、ヴェイル博士が用意してくれたランチを食べ始めた。





食後、ヴェイル博士はレモングラスのハーブティーを淹れてくれた。


博士はリラックスしている様子だ。


ギャレットが柔らかく切り出す。


「私にお話と言うのは?」


ヴェイル博士が微笑む。


「マーカスは今、シアトルにいます。

ご存知でしたか?」


「ええ。

パソコンを通じてお話しました」


「何を?」


ギャレットはヴェイル博士の目を見て答える。


「それはFBIの案件です。


私は助言を頼まれただけです。


ローウェル課長に直接お聞きください」


ヴェイル博士が俯く。


真っ白な頬にアッシュブロンドの髪がサラリと落ちる。


「マーカスとは話したくなくて」


「なぜですか?」


ヴェイル博士は一度唇を噛むと、消え入るような声で言った。


「マーカスをプロファイルしたくないから」


ギャレットは黙って小さく頷く。


博士が俯いたまま、続ける。


「マイク・ジャコビーが復活したことは知っています。


ジャコビーの資料が見たい。


見せてくれますか?


それとも――

ローク主任捜査分析官のプロファイルを聞かせてもらえますか?」


ギャレットは柔らかな声音で答える。


「では、私からFBI行動分析課に資料を纏めるように伝えます。


博士のパソコンに送らせてもよろしいですか?」


「ええ」


「それでは、少し、外で話して来ます」


「裏庭を使って下さい」


俯いたままのヴェイル博士を残し、ギャレットが裏庭に出る。


美しい裏庭で、ギャレットはヴェイル博士の気持ちが痛い程分かった。


――博士は“予感”している。


マーカスの身に何かあったのかを。


FBIと接触すれば、きっと博士が知りたくなくても、博士には分かってしまう。


そうして、ギャレットは行動分析課にヴェイル博士の要望を伝えると、二つ返事で承諾された。


そして、リビングに戻ろうとして気づく。


ヴェイル博士は自分がローウェル課長と話していることを知っている……!


俺をプロファイルしたのではないのか?


なぜ、資料を欲しがる?


ギャレットが音もなくリビングに戻ると――


博士はロドンを相手に遊んでいた。


真っ白なソファの上で、白地に白い刺繍入りのふわりとしたシャツを着て、アイボリーの七分丈のパンツに裸足姿のヴェイル博士の笑顔は、カーテン越しの淡い太陽の輝きにすら、溶けてしまいそうに儚くも美しい。


ロドンの博士を見る目。


色とりどりのおもちゃ。


ギャレットは掠れた声で、小さく言った。


「ヴェイル博士……私をプロファイルしなかったんですか?」


ヴェイル博士はロドンの頭を撫でながら、ギャレットを見上げる。


「なぜ?

あなたは危険じゃない」


「しかし、私は……」


拳を握りしめるギャレットに、博士が言った。


「あなたの、嘘が、好きよ」


やさしい、甘ったるい声。


ギャレットは立ち尽くし――

ヴェイル博士の淡いヴァイオレットグレーの瞳に、自分が映っているのを見る。


その瞳は、みるみるうちに潤んでいく。


「リアムの最後の手紙を読んで、エレナはそう言っていました。


僕も同じ。


あなたはやさしい嘘をついたかもしれない。


でも、それは危険じゃない。

罪じゃない」


ヴェイル博士はそう言うと、恥ずかしそうに目元を細く白い指先で拭った。


そして、重量など感じていないかのように、ふわっと立ち上がった。


「そろそろ、FBIから資料が届くでしょう。


僕はプロファイルを行います。


あなたは、その結果を、マーカスに伝えてくれますか?


今はまだ――

マーカスと“接触”は出来なくて。


無理なら……」


ヴェイル博士の最後の言葉を待たずに、ギャレットがやさしく言った。


「いえ。

私からローウェル課長にお伝えします。


どうぞ、ごゆっくりプロファイルをなさって下さい。


私はここで、お待ちしています」


ヴェイル博士はにこりと微笑む。


「そんなことを言ってキッチンに立つのでしょう?


ロドン、良い子にしててね」


ロドンが小さく「ワン」と答える。


博士が廊下の向こうに消えて行く。


ギャレットは、直ぐ傍にあるソファへ崩れ落ちるように座った。


胸ポケットを掴みながら。


そして、ギャレットは知ることになる。


ヴェイル博士のプロファイルの凄まじさと、『週末の爆弾魔』マイク・ジャコビーとリアムとの接点を――

こまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

次回も読んで下さると嬉しいです☆


毎日17時更新☆


Xはこちら→ https://x.com/himari61290


自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪

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