【21】物証はスコップの柄に隠された愛。〜寒すぎる部屋からプロファイルされる未来へ〜
ノラが勢い良く答える。
「チェーンもか細いし、十字架自体も華奢でしたが、十字架からはリアムの指紋がバッチリ出ました!
チェーンからは部分指紋が。
親指と人差し指ですね!
3D化してみたところ、エレナ・ウィンスロウの指紋と一致しました!」
「ご苦労。
終業時刻は過ぎている。
帰って構わない」
「ハイッ!」とノラが言って、ブチッと通信が切れる。
ギャレットがスーツのポケットから、小さな証拠品袋をテーブルに静かに置く。
その中には――
細い金の十字架が入っていた。
それは、ギャレットがヴェイル博士に貰った十字架とそっくりに見えた。
寸分たがわぬ程に。
ギャレットが淡々と告げる。
「この十字架はリアムのスコップの柄に隠されていた。
きちんとクッション材のような物で包まれて。
金属探知機に引っかからなかったのは、スコップの柄が金属だったからだ」
アッシュ捜査官がそっと証拠品袋に触れると言った。
「リアムにとって、マイアミでの幸せな思い出の象徴だったんだわ。
そしてその幸せな思い出を、砂の城の思い出と一緒に隠していたのね」
ギャレットの厳しい声が響く。
「これで――
エレナとリアムは“物証”で繋がった。
だが、隣人であった、というのがネックになる」
クロウ捜査官が大きく頷く。
「そうなんだよな!
エレナに事情聴取したくても、エレナの弁護士団は、リアムの正体をエレナは知らず、単に“無害で親切な隣人”だったと思っていたから、エレナが何らかの“お礼”にプレゼントしたと言える!」
ヴォーン捜査官も口を開く。
「それに、この十字架のネックレスは恐らく純金でしょうが、エレナなら、“無害で親切な隣人”にこの程度のネックレスをプレゼントしても不自然ではない。
なんと言っても、リアムを待つ口実に、参加費1万ドルの資金集めのチャリティパーティを開ける世界に生きているのだから」
ギャレットが三人を見渡す。
「これでクロウの仕事は終わった。
シアトルの事件はマイク・ジャコビーだと判明したからな。
ヴォーンは引き続きジュリアン・クロフォードの副業を洗い出せ。
アッシュ。
リアムの幼馴染の人物像のプロファイルは出来たか?」
アッシュ捜査官が「ええ」と答えて、タブレットを見ながら話し出す。
「この人物は、リアムとは同じ学区域で育っている。
リアムとは、同じ年の男性である可能性が高い。
リアムの親友と呼べる立ち位置。
大学卒。
仕事はホワイトカラーの株式会社の正社員。
前歴は無し。
だけど、裏社会にも詳しい。
柔軟性のある思考の持ち主であると同時に、頭の回転が早く魅力的な人物ね」
「その根拠は?」とギャレット。
「まず、この人物は、エレナに対してリアムの為に、身分を偽装してやっている。
いくら幼馴染が好きな人に自分の職業を言いづらいからと言って、さあ、身分を偽装しましょう!なんて普通の会社員は思わないわ。
会社自体がホワイトであっても、“特殊”な企業なのかも知れない。
その会社では、この人物はかなり貴重な存在ね。
そして、仮にリアムが先にエレナにこの人物と同じ会社の社員だと嘘を付いてしまって、そのことをこの人物に打ち明けた時に、「じゃあ、うちの会社員と言えば良い」と簡単に承諾して、エレナを欺けるような名刺や身分証を用意した。
この人物は、リアムがエレナ以外に身分を詐称しないことを分かっているし、自分に迷惑をかけるような行動をリアムが絶対にしないと理解している。
きっとこの人物は、人から好かれやすい。
だから、後から「恥ずかしく言えなかった」と言っても、エレナなら許してくれると考えた。
この人物は嘘を逆手に取って、魅力に変える術を知っているのよ。
それに、この人物の考え通り、エレナはリアムが真実を告白した時に、その嘘を許したでしょう」
ギャレットのスティールブルーの瞳がギラリと光る。
「つまり――
その幼馴染は、ジュリアン・クロフォードのような人物にも、物怖じせずに接することが出来るな。
リアムの為に、特命大使のお嬢様にも、平気で嘘をつくことを選択し、実行した。
しかも、悪気がない。
よろしい。
では、明日は三人でジュリアン・クロフォードの裏家業を洗い出すのはもちろん、全ての人間関係を徹底的に洗え。
クロフォードの良く行くカフェ一つ見逃すな。
では、本日は解散」
そしてギャレットは出張バッグと仕事用の鞄を持ち、自宅のアパートメントに帰宅した。
部屋に入り、灯りをつけた途端、“寒い”と感じた。
部屋の中は十分に暖かい。
しかし一昨日までは、この無駄の無い部屋に、十分満足していたと言うのに。
この機能性を自ら好んでいたのに。
だが、この寒々しさはどうだろう。
ギャレットは機械的に動き、無機質なキッチンで簡単な料理を作り、機械的に口に運ぶ。
そして、使った食器を食洗機に入れて、出張バッグの中身を入れ替える。
その時――
一枚の薄いピンク色の花びらが、畳まれた黒いTシャツの隙間から出て来た。
それは、ギャレットが泊まった客間に飾られていた花の花びらだ。
ギャレットはそっと花びらを床に置き、洗濯物を洗濯機に放り込む。
そして、花びらを書斎の引き出しに仕舞った。
その夜、ギャレットはスーツの胸ポケットから取り出した金の十字架をベッドサイドに置いて、眠りについた。
翌日。
ギャレットがオーラに出勤した途端、局長に呼び出された。
局長室に行くと、ホイットモア渉外官が既に待機していた。
「ご用は?」と訊くギャレットに、局長は緊張した面持ちで言った。
「ヴェイル博士が、今日の未明、病院で目覚めた。
博士は何も疑っていない。
博士は君のシナリオを信じている。
今は自宅で経過観察中ということにも納得して、休暇を取っている。
しかし――
FBI長官によると、誰とも会うことも、話すことすら拒否し、閉じこもってしまっている。
行動分析課、ローウェル課長の電話にすら出ない。
そして、先ほどローウェル課長のスマホにメッセージが届いた。
『オーラのギャレット・ローク主任捜査分析官と直接話がしたい』と。
だが、ヴェイル博士を隔離したのは君だ。
博士は君をプロファイルするだろう」
「問題はそれだけですか?」
ギャレットの冷徹な声音に、局長が僅かに瞳を見開く。
「私がヴェイル博士にプロファイルされるのは構いません。
博士を隔離した理由も、私は論理的に説明出来ます。
博士は“あの時”ジャコビーのプロファイルに参加すべきではなかった。
それだけです。
政治的な問題はありますか?」
局長の厳しい声が響く。
「FBIとしては、この件がきっかけで、ヴェイル博士が退職することを恐れている。
ヴェイル博士をFBIから退職させずに、君が博士を復帰に持ち込めるのなら、君がバージニアに行くことに問題はない。
雑務はホイットモア渉外官に一任してある」
ホイットモア渉外官が無言で頷く。
ギャレットは淡々と言った。
「では、私はこれからバージニアに向かいます。
チームにはホイットモアから説明を」
そして、ギャレットは局長のデスクに置いてあった飛行機のチケットを掴むと、振り返り、来た道を歩き出す。
ギャレットは一人、エレベーターに乗り込むと、スーツの胸ポケットに触れた。
ヴェイル博士から貰った金の十字架が入った、胸ポケットに。
そして、リアムが安物のスコップに、金の十字架を隠す姿がありありと目に浮かんだ。
それは――
自分の未来とそう変わらない。
ギャレットは、ただそう自覚し、空港へと車を急がせた。
こまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
次回も読んで下さると嬉しいです☆
毎日17時更新☆
Xはこちら→ https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪




