【20】ローウェル課長を欺くセッション。〜憎まれることを選んだ男〜
そして一時間後――
ギャレットとローウェル課長は対面していた。
パソコン越しに。
ローウェル課長が、口火を切る。
「ギャレット、まず、君の申し出に感謝する。
ありがとう」
ギャレットは眉一つ動かずに応える。
「いいえ。
お礼など、とんでもありません。
あの青年について進展があったものですから、あなたに連絡を取ろうとFBIの行動分析課に連絡をしましたら、なぜか長官に電話を回されまして。
お怪我の具合はどうですか?」
ローウェル課長が、肩から下げたブルーの三角巾を見せてワハハと笑う。
「弾が掠っただけだ。
問題ない。
君だってこれくらいの傷で休まないだろう?」
ギャレットが小さく頷く。
「ええ、そうですね。
それで、あのジャコビーが復活したとか?」
マーカスが珍しく舌打ちする。
「そうだ!
忌々しいことにな!
しかも、うちは今、人手不足だ!
ジャコビーを知り尽くしている捜査官が、自宅で倒れて、脳震盪を起こし、12時間安静中だ!
安静にさせる為に鎮静剤を点滴されていて、会話も出来ん!
そこで、長官に勧められた。
私の状態を君に伝えるにあたって、ジャコビーの件を伏せることは出来ないと。
それで、オーラにもプロファイルに協力して貰ってはどうか、とな!」
ギャレットが静かに告げる。
「私共は――
行動分析課以上のプロファイルが出来るとは限りませんが?」
マーカスが首を横に振る。
「いやいや。
今は謙遜しあっている場合ではない。
捜査現場を完璧に保存したかったが、今夜からシアトルは雨が降る。
新しい視点で"意見"を聞きたい。
君はジャコビーの復活をどうプロファイルする?」
ギャレットが一拍置くと、低く話し出す。
「マイク・ジャコビーは、確かに公衆電話から地元の新聞社に犯罪予告の電話をして、12時間ごとに時限爆弾を爆発させていました。
しかし、週末だけです。
つまり、爆弾は毎回4個しか爆発させていない。
ここで、第一の疑問。
なぜ犯行を再開して、突然爆弾が9個になったのか?
12時間ごとなら、最後の爆弾は明日の昼、水曜日の午後12時になる。
これでは、『週末の爆弾魔』ではなくなる。
ヤツはマスコミが名付けた『週末の爆弾魔』という呼び名を気に入っていた。
最後の一年間は、新聞社に電話を掛ける度に『週末の爆弾魔』だと名乗っていたくらいだった。
次に、第二の疑問。
4個からなぜ9個になったのか?
こういう強迫観念を持つ人間は『自分にとって』切りの良い数字を選ぶ。
9は3の倍数であり割り切れるので選ばれがちだが、ジャコビーは選ばない。
何故なら――
4個もおかしいが、ジャコビーが、週末に"12時間ごとに爆弾を爆発させること"を優先していたのなら、納得出来る。
だが、もう『週末の爆弾魔』を名乗るつもりが無いのなら、10個爆弾を用意するでしょう。
そして、第三の疑問。
なぜ、あなたがヤツの標的になるのか?
ヤツは個人攻撃は行わない。
もはや『マイク・ジャコビー』ですらなくなっている。
つまり、この潜伏していた二年間に"何かが"ジャコビーにあった。
そして、今、ヤツはヤツらしからぬ行動を取っている。
あの強迫観念と、承認欲求と防衛機制の虚栄心の固まりのジャコビーが、精神科医の元にカウンセリングに通う?
その精神科医は今、どこですか?」
マーカスが無言でじっとギャレットを見つめている。
ギャレットもマーカスの目を見ていた。
すると、マーカスがフッと息を吐いた。
「精神科医は――
オフィスにいる筈だ。
もぬけの殻かも知れんが。
手数を掛けたな、ギャレット」
「お大事に、マーカス」
そうして、二人の通信は切れた。
会議室に集まったクロウ捜査官とヴォーン捜査官とアッシュ捜査官、そしてホイットモア渉外官の全員が、ギャレットを凝視している。
ギャレットはスクリーンの前に立つと言った。
「ローウェル課長との話し合いは上手くいった。
彼はヴェイル博士が、脳震盪で倒れたと"信じて"いる」
そして、ホイットモア渉外官を見て「ご苦労だった」と付け加えた。
ホイットモア渉外官が一言応える。
「私は仕事をしただけです」
クロウ捜査官が前のめりになって口を開く。
「つまり!
ローウェル課長側から見ると、ヴェイル博士はどう見えている!?」
ギャレットが静かに語り出す。
「まず、ヴェイル博士のお宅に伺って直ぐに気づいた。
博士の家はFBIが毎日パトロールしている、と。
そこで――
車のタイヤの空気を抜いておく。
それならば、『パトロール中の捜査官が、ヴェイル博士の車のパンクを見付けて、ヴェイル博士に教えようとして自宅に行った』ことが成立する。
しかも、ネットが遮断されてしまっている最中だ。
捜査官はいつも以上に、"慎重"になっていた。
そこで、倒れている博士を見つけ、"目立つ"ので救急車では無く、医師を呼び、動かして良いことを確認すると、FBI近くの病院に運んだ。
愛犬も保護。
博士は"何らかの理由で"意識を失い、脳震盪を起こしていた。
12時間は絶対安静。
その為に鎮静剤を打たれ、意識が朦朧としていて、プロファイルどころではない」
そこで、一旦言葉を切ると、ギャレットは三人を見渡し、続けた。
「それに、俺は昨日発熱した博士を車から家まで運んだが、その後、車には"触って"いない。
今朝、出発する時に見たら、車はガレージに入っていたが、ガレージは"完全に"閉まっていなかった。
タイヤは丸見えの状態だった。
だから、SWATに空気を抜かせておいた。
万が一の為に。
そう、こういう事態に使えるように。
質問は?」
アッシュ捜査官が苦笑する。
「質問というより――
ヴェイル博士が真実を知ったら、主任を許さないのでは?
きっと博士は、ジャコビーのプロファイルをしたかった筈でしょう?
まだ見つかっていない爆弾が、一つ残っているわ。
ローウェル課長も撃たれているのだし」
ギャレットは瞬きすらせずに、答える。
「ヴェイル博士が真実を知る日は来ない。
来たとしても、俺は憎まれるだけだ。
そして、残りの爆弾はFBIが見つけるだろう。
重大指名手配犯のジャコビーをプロファイルした行動分析課と、FBIが総出で捜索しても、たった一つの爆弾を見つけられなかったのなら――
それは、ヴェイル博士のせいではない。
FBIが無能だと言うことだ」
ヴォーン捜査官がフッと息を吐くと、言った。
「主任は爆弾の在り処をプロファイルで導き出しているのでは?
FBIに助言しなくて良いんですか?」
ギャレットは素っ気なく答える。
「彼らは聞いてこなかったのでね。
それに、ローウェル課長の様子によると、市民の安全は確保されている。
それよりも、我々の仕事に戻ろう。
リアムの証拠品から、新しい証拠品が出た。
ノラ」
「ハイッ!」とノラの声がスピーカーから響く。
「指紋はヒットしたか?」
そして、そのノラの答えこそ、特命大使の娘エレナ・ウィンスロウとリアムを結ぶ“物証”が出た瞬間だった。
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