【19】リアムの証拠品とシアトルの爆弾魔。〜FBI行動分析課トップを欺く第一歩〜
鑑識室のリーダーが、リアムの証拠品を鑑識室に並べる。
「金属探知機で検査済みだな?」
ギャレットは低くそう言いながら、証拠品を右から左へと見る。
リーダーが「もちろんです」と答える。
ギャレットがそっと、一つの証拠品袋を掴む。
そして、冷徹な声で言った。
「このスコップの持ち手を分解しろ。
中には、重要な証拠品が隠されている可能性がある。
絶対に傷つけるな」
ギャレットがオフィスのフロアに戻ると、早速ヴォーン捜査官に捕まった。
ヴォーン捜査官は会議室に入るなり、言った。
「エレナの隣の部屋の借り主は、簡単に割れました。
『マリナー・キー・ホールディングス LLC』というペーパーカンパニーです。
しかも、このペーパーカンパニーの社長はジュリアン・クロフォード。
38歳。
独身。
スタンフォード大学卒。
名前を隠すことすらしていません」
「成る程。
――つまり、ジュリアン・クロフォードは単に、リアムに住む場所を提供した、ということになる。
リアムとクロフォードの接点は?」
ギャレットの問いに、ヴォーン捜査官が即座に答える。
「ジュリアン・クロフォードはマイアミでも有名な、"成功した投資家"です。
今も右肩上がりに利益を出し続けています。
SNSは趣味で描いた油絵と釣りの写真ばかり。
リアムはクロフォードの友人、もしくは仕事の手伝いをしていたのかもしれませんが……」
「釣り合わない、だろ?」
ギャレットの言葉に、ヴォーン捜査官は「ええ」と答えるとタブレットを差し出す。
そこには――
整った顔立ちに、スラッとした長身のいかにも知的な人物が、一目でハイブランドだと分かる洋服を着こなし、趣味を満喫している画像の数々が映っていた。
ギャレットが静かに言う。
「クロフォードの"副業"を洗え。
クロフォードの助手ならば、リアムはエレナに仕事を偽る必要はない。
だが、偽った。
クロフォードはただの"成功した投資家"だけでない」
そして、ギャレットがオフィスに戻ると、パソコンにノラがパッと映り、その瞬間、ノラは言った。
「ローウェル課長襲撃のシアトルの事件を、突破しました!
私がFBIに告訴されたら、オーラで弁護士を雇って下さいね!」
「もちろん。
最高の弁護士を君に付けよう。
ローウェル課長は何を追っていた?」
ノラがずいっと画面に近づいて来ると、叫ぶように言った。
「主任もご存知の……いえ、私だって、アメリカ国民ならみんな知ってる、あの『週末の爆弾魔』マイク・ジャコビーが復活したんです!」
ギャレットの片眉が上がる。
「マイク・ジャコビーか。
それならローウェル課長は現場に行く。
経緯は?」
ノラが勢い良く話し出す。
「まず、ジャコビーは五年前から三年間の間、アメリカ中の州を渡り歩いて、週末に予め仕掛けた時限爆弾を爆発させていた!
地元の新聞社に、公衆電話から予告電話を掛けて、12時間ごとに!
狙うのはいつも公共施設や遊園地や水族館。
個人攻撃はしない。
だけど予告電話がある度に、その土地はパニックを起こしていました!
それが二年前突然犯行が終わって、この二年間、何も行動を起こさなかった……なのに!
先週の土曜日、再開されていたんです!
FBIは行動分析課の力を借りてローウェル課長を筆頭に、月曜日の23時までに7つの爆弾を爆発させる事無く回収していました!」
ギャレットのスティールブルーの瞳がギラリと光る。
「つまり――
ローウェル課長は、まず、マイク・ジャコビーの事件を追っていて、リアムの事件を秘密裏に我々に依頼していたんだな?」
「ハイッ!
時系列的にはそうなります!
行動分析課は常に複数の事件を抱えていますから!
ジャコビーは先週の土曜日の夜中の0時丁度に、シアトルの地元新聞社に公衆電話から電話を掛けています!
『爆弾を仕掛けた。これから12時間ごとに9個爆発させる』と。
そこで、新聞社は警察に通報して、警察からFBIのシアトル支局に連絡が行き、シアトル支局から行動分析課に要請が行きました!
ローウェル課長たちは、土曜日の午前2時にFBI専用機でシアトルに向かっています!
そして、捜査開始から5時間で最初の爆弾を図書館で発見、回収し、爆弾の構造と手口から、犯人は『週末の爆弾魔』ことマイク・ジャコビーだと断定されました!
ローウェル課長たちは、月曜日の23時までに7つの爆弾を爆発させる事無く回収しています!
しかも!
爆弾魔の癖に、精神科医に掛かっていて、その精神科医からの通報で、ローウェル課長も狙われていたことが判明しています!」
「続けろ」とギャレットが静かに言う。
ノラが憤慨しながら、話を続ける。
「マイク・ジャコビーは偽名を使っていました!
偽のIDも用意していた。
精神科医にはジェフリー・トランスと名乗って、カウンセリングを受けていました!
そして今朝、つまり火曜日の朝、ジャコビーはジェフリー・トランスとして公衆電話からその精神科医に、犯行を仄めかす電話をし、ローウェル課長を名指しして襲うと言ったんです!
そこで、精神科医は守秘義務があるのに、迷わずFBIに通報しました!
素晴らしいですよね!」
ギャレットが頷く。
「確かに。
つまり、その精神科医からの通報で、シアトル支局は囮を用意出来た。
そして、ジャコビーを完璧に欺く為に、そこにローウェル課長本人がいなければならなかった、と言うことだな?」
「その通りです!」とノラが声を上げる。
「しかも!
行動分析課では、ジャコビーは今までの行動パターンから、個人は狙わないと読んでいました!
今回、ローウェル課長の名前を出したのは、ジャコビーの虚栄心を満たす為の新たな"進化"に過ぎないと。
そして、今朝、ローウェル課長の指示の下、シアトル支局が用意した捜査用の囮のバンをジャコビーが爆破!
ですが……ここで、ジャコビーが駐車場に現れて、ローウェル課長に向かって発砲したんです!
ジャコビーはその場で射殺され、指紋が一致!
今、DNAも鑑定中です!」
「ローウェル課長の怪我は?」
ノラが即答する。
「弾丸が肩を掠めただけです!
もう残りの爆弾を回収する為に、捜査に出ています!
ですが……ローウェル課長は現場をそのまま保存させ、ジャコビーの行動パターンの変化を、ヴェイル博士にプロファイルさせたいとFBI長官に連絡を入れています!」
「ヴェイル博士がジャコビーをプロファイルした記録は?」
「ちょっとお待ちを!
――ハイッ!
ヴェイル博士は当時23歳!
ジャコビーをプロファイルで追い詰めたのは、ヴェイル博士です!
ジャコビーはヴェイル博士のプロファイルから逃げ切れなくて、犯行を止めた可能性あり、と記録されています!」
ギャレットは一度目を伏せると、直ぐさま言った。
「それならば――
ローウェル課長はヴェイル博士にプロファイルして欲しいだろう。
ジャコビーを一番"理解"しているのはヴェイル博士だからな。
よろしい。
君は今の情報をクロウ捜査官、ヴォーン捜査官、アッシュ捜査官、ホイットモア渉外官と共有しろ」
ノラが一瞬口籠ると、言いづらそうに口を開く。
「で、でも〜……。
ヴェイル博士は、今、隔離されていますよね?」
ギャレットが刺すような視線でパソコンを見る。
ノラは慌てて「ハイッ!了解です!」と答えると、ブチッと通信を切った。
ギャレットは電話に手を伸ばすと、言った。
「ホイットモア、私のオフィスへ」
それは、ヴェイル博士の保護者にして、FBI行動分析課、ローウェル課長を欺く第一歩の合図だった――
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