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A.U.R.A.《オーラ》高度犯罪分析局 ――たった一人の死を追う逆算プロファイル  作者: 久茉莉himari


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【15】『For L』その名はリアム。〜ギャレット・ローク、見知らぬ世界へ〜

ギャレットは一度奥歯をぎゅっと噛むと言った。


「おかしくはありません。

では、私に聞きたいことをどうぞ」


「僕は、後悔しているのかもしれません……」


そう言うと、ヴェイル博士はテーブルにマグカップを置き、両膝を両腕で包むように抱いた。


その声は、か細い。


ギャレットは「何をです?」と静かに促す。


だが、ギャレットは"自分の声"に違和感を感じた。


この暖かさが溢れている家に、そして、ヴェイル博士を心配そうに見上げているロドンに――


自分の声は"静か"ではなく、冷たすぎる、と。


ヴェイル博士が小さく話し出す。


「僕が、もっと早く捜査に加わっていれば、あの犯人を早期に逮捕出来たかもしれないと。


八年よりも短く済んだ筈だから……。


あなたは、主任捜査分析官として、どう思いますか?」


「あの犯人逮捕のパーティの犯人のことですか?」


ギャレットは、出来る限りの柔らかな声音で言った。


ヴェイル博士は、「ええ、そう」とだけ言うと――

膝にポトッと涙を零し、両手で顔を覆った。


ヴェイル博士は、か細い声で続けた。


「マーカスは……ローウェル課長は僕は悪くないと言ってくれました。


僕は教授としてちゃんと勤めていたし、今回だって自分が強引に捜査に僕を引き込んだんだ、と。


あの殺人鬼を捕まえたかったのは俺だって言って……。


そして『お前を利用した。責めるなら俺を責めろ。これ以上お前が嫌なことをする必要は無い』と。


でも……」


そこまで言うと、ヴェイル博士は一度、黙り、再び口を開いた。


「僕は、また僕の力が必要になった時、直ぐに捜査に加われるように準備をしておきたいと思った。


だけど……クララ……モリス博士は上層部に、僕を捜査現場に出すなと進言してしまうし……」


しばしの沈黙。


ヴェイル博士のすすり泣く声だけが響く。


ギャレットは柔らかく言った。


「博士、もしかして責任を感じているんですか?」


ヴェイル博士が消え入るような声で答える。


「……ええ……。


あなたが上司なら、オーラの精神科医から心配される捜査官をどう思うか……お聞きしたくて」


「私なら、離しません」


ギャレットの言葉に、ヴェイル博士が顔を上げる。


ヴェイル博士の顔は涙でぐちゃぐちゃで、目も鼻も唇も真っ赤になっていたが、彼の持つ"美しさ"に変わりはなかった。


ギャレットはやさしく告げる。


「ローウェル課長と同じです。


私もあなた程の能力の持ち主の部下がいたら、離さない。


守って、いつでも捜査官として仕事をしてもらえるようにしておきます。


そして、責めを負うのはあなたじゃない。

私が責めを負います」


ヴェイル博士が微笑もうとして、果たせず、嗚咽する。


ロドンが心配そうに、ヴェイル博士の身体に身を寄せる。


ギャレットは――

ただ、静かに、ヴェイル博士が泣き止むのを待っていた。





ヴェイル博士は泣き止むと、「ちょっと失礼します」と言って立ち上がり、部屋の奥へと駆けて行った。


ロドンも、もちろんヴェイル博士を追いかけて行く。


ギャレットは冷えたエスプレッソを飲んで待っていた。


エスプレッソは冷えていたが、美味しかった。


5分もせずに、ヴェイル博士が「すみません」と言いながら、走って戻って来る。


泣き顔を、とりあえず水で洗って来たのだろう。


アッシュブロンドの髪まで濡れていた。


ヴェイル博士は手にしていたタオルを持つと、タオルで顔を隠して、ソファにぽすんと座って呟いた。


「……恥ずかしい……」


ロドンが博士を慰めるように、博士の膝に前足を掛ける。


ギャレットはフッと笑って言った。


「why?」

なぜ?


ヴェイル博士がタオルから、淡いヴァイオレットグレーの瞳だけを出すと、言う。


「For G」

Gのために。


ギャレットが目を見開く。


ヴェイル博士がにこりと微笑む。


「話を聞いてくれてありがとうございます。

僕からもあなたにお礼をしないと。


まず、夕食にしませんか?


ロドンもごはんの時間だし。


僕は料理が苦手だから、ピザでも良いですか?

中華とか?」


ギャレットはやさしく言った。


「ヴェイル博士はピザや中華のデリバリーがお好きなんですか?」


「……余り……」


「マーカスはこちらで料理をしたりするんですか?」


ヴェイル博士が嬉しそうに答える。


「あ!

ええ……!


料理は苦手なのに……たまに」


ギャレットがスッと立ち上がる。


「では、今夜は泊まらせて頂くお礼に、私が夕食を作ります。


良いですか?」


ヴェイル博士がキョトンとして、ギャレットを見上げる。


「……ローク主任捜査分析官……お料理出来るんですか?」


「ええ。

必要なことは一通り」


ヴェイル博士が花の咲いたような笑顔になる。


「ロドン!

聞いた?


ローク主任捜査分析官はお料理も出来るんだよ!?」


ロドンも嬉しそうに小さく「ワン!」と答える。


ヴェイル博士が立ち上がる。


「どうぞ。

ローク主任捜査分析官。

キッチンにご案内します」





ギャレットは冷蔵庫の中身とキッチン用具が充実していたお陰で、ラザニアとサラダを作った。


ヴェイル博士はギャレットに赤ワインを勧めたが、本人はお酒は好きじゃないらしく、体調も悪いせいか、ミネラルウォーターで良いと言うので、ギャレットも同じにした。


二人でワイングラスに入ったミネラルウォーターで乾杯をする。


ロドンはきちんと躾られていて、自分の定位置で、食事をしていた。


ヴェイル博士は、子供のように「美味しいです!」を繰り返し、ギャレットも会話は少なくとも、食事を楽しんだ。


ヴェイル博士は半分も食べられなかったが、ギャレットが「密封容器に入れておきます。明日にでも温めて食べれば大丈夫です」と言うと、ホッとしたように笑顔になった。


そして、ヴェイル博士は言った。


「後片付けくらい、僕でも出来ますから。


ローク主任捜査分析官は、お部屋でシャワーでも浴びてくつろいでいて下さい」と。


そして、客間にギャレットを案内してくれた。


客間も――

ヴェイル博士の家らしく、暖かな雰囲気の部屋だった。


使っていない部屋にも、花が飾られている。


ギャレットは出張バッグだけでバージニアに来たので、ザッとシャワーを浴び、黒いTシャツとスエットパンツに着替えた。


そして、リビングに戻ると、ヴェイル博士が待ち構えていたように、リビングに走り戻って来る。


その手には――

氷がいっぱい入ったグラスが握られていた。


レモンスライスとミントの葉が浮かんでいる。


ヴェイル博士が「どうぞ」とギャレットにグラスを差し出す。


ギャレットはしっかりとグラスを掴むと、口に運んだ。


微かな、だが、確かに甘い味がした。


ヴェイル博士が微笑む。


「そのレモン……ハチミツ漬けなんです。


僕が作ったものなんですけど……お口に合いましたか?」


ギャレットがグラスの氷水を一気に飲み干し、答える。


「美味しいです。

とても」


ヴェイル博士が嬉しそうに笑う。


ロドンも、ヴェイル博士とギャレットの周りをぐるぐると歩いている。


ヴェイル博士が静かに口を開く。


「For L……本名かは知りません。


彼の名前はリアムです」


そして一拍の間の後に、囁くように言った。


「――ギャビー」


ギャビー。

それは、ギャレットという名を、誰かが親しげに崩して呼ぶ時の響きだった。


そして、その甘ったるい声は、プロファイルを確実に進ませ、鋼の男、ギャレット・ロークを見知らぬ世界へと連れて行くのに十分な強さを持っていた。

こまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

次回も読んで下さると嬉しいです☆


毎日17時更新☆


Xはこちら→ https://x.com/himari61290


自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪


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