【10】青年の武器は「好青年」だった。〜『why?』それは禁断の一歩〜
翌日の午前10時には、クロウ捜査官、ヴォーン捜査官、アッシュ捜査官の三人はオーラの会議室にいた。
ギャレットはスクリーンを背にして立ち、円卓に座る三人に短く言った。
「報告を」
まず、クロウ捜査官が口火を切った。
「現場はまず、砂利だらけだが、一カ所舗装途中の場所があった。
アパートメント側から入って5メートルもしない所だ。
あの青年が防犯カメラから消えた辺りから中に入ると、まず、砂利道を歩く。
数歩で舗装された場所に到着。
そこに足跡が残されていた。
この一週間雨も降らなかったせいか、足跡はかろうじてだが、採取出来た。
二人ぶんだ。
青年以外の人間も砂利道を歩いているところから、反対側から砂利道を歩き、待ち伏せしていたんだろう。
あの放置された工事現場は、アパートメントの反対側は穴だらけだ。
どこからでも侵入出来る。
俺たちもそっちから、測量士のフリをして入ったんだ」
「成る程。
犯人像は?」
そう訊くギャレットに、ヴォーン捜査官が口を開く。
「刺した犯人は、あの高級アパートメントが”どういうアパートメント”かを知っていた。
だから、アパートメント側の道路からは待ち伏せしなかったんでしょう。
つまり、青年があそこに、あの時間に現れると知っていた。
もしくは見張っていた。
そして、青年に何らかの要求をしたが、拒否されて、ナイフで青年を殺そうとした。
しかし、青年を刺せても追えなかった。
青年はアパートメント側の道路を歩けるが、刺した犯人は歩けば、アパートメントの警備員に気付かれる。
そして、自分の血痕の付いた”反撃された証”も持ち帰らなくてはならない。
やはり、一般人の揉め事とは思えません。
刺した犯人は、こういう”仕事”に慣れています」
ギャレットが頷く。
「では、鑑識の結果次第では、その刺した犯人が分かる可能性が高いな。
きっと前歴持ちだろう。
アッシュ、君は青年をどう感じた?」
アッシュ捜査官が静かに語り出す。
「彼は見た目も良い。
普通の好青年に見える。
でも――
あの現場に立ってみたら、違和感が凄いの。
あの好青年のルックスで、訳アリの高級アパートメントに住んでいたとは思えない。
彼は好き好んであそこにいたんじゃないと思うわ。
彼にはあの日、FBIに出頭する、という明確な目的があった。
そうなると――
あのアパートメントは絶好の場所よね?
大通りに行けば、タクシーは直ぐに拾えるし、時間も10分程度しか掛からない。
しかも、ギャングだってあのアパートメントに侵入するのは不可能よ。
警察を呼んでも良いというなら別だけど。
だから、青年の協力者が、FBIに出頭する為に、一時的に住まわせてやっていたか、部屋を貸してやったんじゃないかしら?」
ギャレットのスティールブルーの瞳がギラリと光る。
そして、冷たい声で言った。
「――協力者か。
訳アリの高級アパートメントに住む、好青年が自首するまで匿ってやる協力者。
普通は身内だろうが、彼が亡くなったことを知らなくても、もう一週間も行方不明なら、三日後には警察に届けくらい出しているだろう。
そいつは、身内では無いな。
そして、彼の行方不明にも関われない」
クロウ捜査官が、がっしりとした腕を組む。
「そうなると――
誰だ?ってことになるんだよなあ……。
もし、そいつがギャングなら、ギャングの情報を持ってFBIに自首する人間は、匿いたくても匿うことは出来ない。
どんなギャングのトップでも、密告屋のレッテルを貼られたら、終わりだ」
「そうなんですよね」とヴォーン捜査官。
「つまり、青年を匿った人物は、訳アリの高級アパートメントに住むことが出来る、法的には違法なことをせずに成功している人間になる。
つまり、青年を刺した犯人が、ギャング側と繋がっている。
問題は青年を”あの場所で”刺したのに、匿った人間は無事でいるということ。
ギャングとは違う系列の裏稼業で成功もしていて、表の稼業もきちんと持っていると思われます。
ギャングでも手が出せないのでは?」
「でもねえ……」とアッシュ捜査官が話し出す。
「あの青年が、そんな”偉大な人物”と知り合いというのが、納得出来ないのよ。
彼の行動、残した言葉……不可解ではあるけれど、彼は一般人にしか見えないわ」
その時、ギャレットが静かに言った。
「それが――
彼の武器ならば?」
三人がギョッとして、ギャレットを見つめる。
「彼は遺体の写真でも、身に付けていた洋服、時計、靴に至るまで、”好青年”にしか見えない。
タトゥーひとつ無い。
それが、彼の武器ならば、どうだ?
例えばボランティア団体にいても、おかしくはない。
だが、エレナの所属するボランティア団体には入れない。
エレナと比較すると、彼は好青年かもしれないが、”平凡”過ぎる」
すると、クロウ捜査官が組んでいた片腕で、自分の片腕をポンと叩いて言った。
「そうか!
彼のルックスは隠れ蓑に持って来いだ!
犯罪者らしい犯罪者なら履いて捨てる程いるが、まさか彼が”偉大な人物”の裏稼業の仕事をしているとは、誰も思わない!」
「そう言う事だ。
だが彼の指紋は、FBIでも前歴者ではヒットしなかった。
運転免許証も持っていない」
ギャレットの言葉を受けて、ヴォーン捜査官が言った。
「良くある事です。
青年は、普段はニセの免許証を持っていたんでしょう。
もしくは、持っていても、運転は避けて生活していた」
「それはあり得るわ!」とアッシュ捜査官。
「青年は運転は避けて暮らしていた!
つまり、”何らかの”運転手のような危険な現場には出ていない。
だからこそ、あの雰囲気を保てていたのよ!
安全な下働きじゃないかしら?
もしくは彼は、”偉大な人物”の表の顔しか知らないとか、ね!」
「あり得るな!」とクロウ捜査官が言った時、厳しい声が響いた。
「だが――
FBIに出頭する程のギャングの情報は持っていた」
しんと静まり返る会議室。
ギャレットが続ける。
「後は鑑識待ちだな。
みんな昼休憩を取ってくれ」
ギャレットは自分のオフィスに戻ると、冷蔵庫からミネラルウォーターを一本取り出し、グラスに注いだ。
良く冷えたミネラルウォーターが、喉を通っていくのを感じる。
自分のスマホを見る。
会議中にマナーモードにしていた履歴を辿る。
しかし『非通知』は無かった。
これは、ルールか?
ギャレットは冷えた水を、再び飲むと考える。
お互いにコールしただけ返すという。
だが、一昨日の夜は、ワンコールに返事は無かった――
昨日の夕方、纏めて三回鳴らした――
彼は思っている。
「これで、おあいこだね」と――
そうして、次の瞬間、ギャレットは一歩踏み出してしまった。
電話番号を使ったメッセージを送ったのだ。
『why?』なぜ?と。
そして、答えは直ぐにやって来た。
こまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
次回も読んで下さると嬉しいです☆
毎日17時更新☆
Xはこちら→ https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪




