異世界で森スタートは厳しくないですか?
「まじかよ……」
俺はもう一度呟く。周りを見回すも、どこもかしこも草木ばかりである。どうやらあの気まぐれランダム神は俺を森の中に転移させたらしい。幸い靴を転移時に履かせてくれたようだが、もう少しこう、ましな場所に飛ばせなかったのかと嘆きたくなる。
しかしそうも言っていられない。なにせここはもう異世界である。日本では熊やら猪やら毒蛇やらが危険な存在だったが、この世界ではそれに加えモンスターも出てくる。さらに武器を持っている可能性がある。極めつけはここが森の中ということだ。
もうお分かりだろう、早く自分の能力を理解しなければ、待っているのは死あるのみだ。現になにかのうめき声が聞こえてきて……
「……うめき声?」
俺は警戒して、目を凝らして辺りを見回すと、木の影からこちらを見ているなにかがいた。それも3匹。
こちらが存在を認識したのを察知したのか、ゆっくりとこちらに向かって来る。その正体は……
「ヤバい、ゴブリンだ……」
緑色の体表、小柄な身体、鋭い目、やけに大きい鼻、耳、口。そしてボロ布を大雑把に纏っているその姿は、ゲー厶やアニメで見たゴブリンそのものだった。
一瞬感動したが、すぐさま考えを改める。なにせ手には棍棒を持っているのだから。つまり、今の俺はピンチなのだ。
相手は3匹、武器持ち。こちらは一人、丸腰。逃げようにも、森の中では思うように走れない。走った先で他のモンスターに出くわしたら本末転倒だ。かなりまずい。
と、何か手は無いか相手を見ながら考えているうちに、ゴブリンの1匹が棍棒を振り上げ走り出してきた。どうやら向こうの品定めは終わったらしい。俺の肉付きでは、いいとこ3時のおやつだろう、
クソッ、異世界来て初っ端から死亡エンドとか、冗談じゃない! 能力もまだよく分かってないのに! とりあえず盾だ、盾が欲しい!攻撃を防げて、あわよくばその攻撃をそっくりそのまま相手に返す盾が!
そんな思いも虚しくゴブリンが目の前で跳躍、右手に持った棍棒が頭に振り下ろされようとしていた。頭へのダメージを少しでも避けようと、両腕を頭の上で重ねて、目を瞑る。
そうしてやってきたのは、鈍い打撃音と、痛み――ではなく、軽い衝撃とゴブリンの悲鳴だった。恐る恐る目を開けてみると、左腕にさっきまで無かった丸い板のようなものが付いている。
「これは……盾? いつの間に……」
なんだかよく分からないがとりあえず痛い目に遭わずに済んだんだなと、腕を下ろして前を見ると、さっき攻撃しようとしてきたゴブリンが地面に伸びている。他の2匹が何やら慌てているように見えるが、こちらをさっきよりも鋭く見つめている気がする。
そしたらすぐさま残りの2匹もこちらに向かって走ってきた。また攻撃してくるらしい。俺は左腕の盾を構える。
今度は2匹同時に跳んでくる、狙いはやはり頭だ。盾を上に持ってくる。さっきよりも少し強い衝撃。そしてさっきよりも大きい悲鳴。盾から顔を覗かせてみると、2匹とも吹っ飛んでいた。どうやら相手の攻撃をそのまま跳ね返しているようだ。
だが、1匹はそのまま地面に落ちていったが、もう1匹は身体回転させ、両脚と左手を地面に着地させた。すごい身のこなしだ。多分リーダーなのだろうか。
その推定リーダーゴブリンは、棍棒が通じないと見るや、左手を上に掲げた。何をするんだと思った瞬間、左手の掌が揺らめきはじめ、なんと火の玉が形成された!
「ウギャギャー!」という声とともにゴブリンが左腕を振ると、その火の玉がこちらに飛んでくる。くらったらまずいと思いそのまま盾を構え続ける。すぐに、ボンッという音ともに軽い衝撃が来る。どうやら防げるようだ。
ゴブリンはそれでも策があるのか、矢継ぎ早に火球を放ってくる。俺に攻撃手段がないことも分かっているのだろう、徐々に距離を詰めてくる。
そうした防戦一方な状況から一瞬、攻撃が止んだ。チラっと見ると前にいて火球を放っていたゴブリンがいない。そう思った瞬間、鈍い風切り音が聞こえた。さっきの間に右側に回り込んでいたらしい。ご丁寧に棍棒を左手に持ち替えて、横薙ぎに振るのが見えた。
駄目だ、やられる! そう思った時、突然盾が光り出し、なんと右手側に大きな火球を出した!
これには俺も、ゴブリンも驚き、攻撃の途中だったゴブリンは大火球に直撃、そのまま吹っ飛び、木に激突。その後ゴブリンが燃え始めた。
木に激突したときに気絶したのかは分からないが、鳴き声も上げずにそのまま燃え尽きた。正直、目を逸らしたかったが、この世界で生きていくとなると、こういうのは茶飯事だろうから、慣れるために――とも違う気がするが、ともかくそれまで見続けた。
燃え尽きるのを見届けた後、まだ残ってるゴブリンの確認をしようと前を向くと、2匹ともいなくなっていた。どうやら気絶から覚めた後、リーダーゴブリンがやられたのを見て撤退したようだ。呑気に見てる場合ではなかったが、攻撃が来なかったので結果オーライだ。
それにしても疲れた。これが夢ならばいい笑い話になっただろうが、左腕の盾の重量感、攻撃を受けた時の衝撃がこれが現実であると認識させる。
それに呆然としているわけにもいかない。逃げ帰ったゴブリン達がまた仲間を連れて襲って来るかもしれない。まずは安全地帯の確保と、自分の能力の把握が必要だ。
しかし安全地帯の確保は上手くは行かないだろう。なにせここは森の中、前後左右似たような木しか生えていない。適当に歩き回っても迷子に拍車がかかるだけだ。
それに俺は悲しいかなサバイバル知識のない一般人だ。キャンプ動画やサバイバル動画はたまに見るが、実際にやったことは一度もない。ましてや異世界の食べられる植物など知る由もないのだ。
そんな前途多難な異世界生活が待ち受けているこの状況に、俺は途方に暮れながら呟く。
「こんなことなら【サバイバル】の能力でも貰えば良かったな……あ〜あ、冷暖房完備の、フカフカベッドのある家でもねぇかな〜」
かなり矛盾してる発言だったが、そのどちらかでも良いから今すぐにでも欲しいと思って口に出ていた。
すると突然、立っていた地面が光り始めた。かなり範囲が広い。敵の攻撃か!? と思うも、咄嗟のことで逃げる判断が出来なかった。
もうこれまでか、意外と短い異世界人生だったな……! そう考えながらも最後のあがきとして両腕を頭の上に重ねて目を瞑る。
しかし、10秒かそれ以上か待っていたが、何かが起こった気配がない。本日数度目の恐る恐る目を開ける。そして辺りを見ると……
なんということでしょう、先程まで木々が生えていた土地が一部整地され、その中央にはモダンな小さい家が目の前に建っているではありませんか!
その突然の光景に、俺は開いた口が塞がらなかった。




