結局異世界に転移することになりました
「びっくりした? すごくびっくりしてたよね? アハハハハ!」
少年は笑いながら俺にそう聞いてくる。どこから入ってきたんだとかお前は誰なんだとか思ったが、少年の容姿を見てそれを口に出せなかった。
その少年の髪の色が……すごく変わっていたからだ。変な色とかの意味ではなく、変化しているのだ。
明るい赤になったかと思えば、急に紫になったり、輝くような金色になったり、全て飲み込みそうな黒色になったり、めちゃくちゃランダムに数ミリ秒で色が変化している。ゲーミングパソコンでも発光パターンはある程度決まっていると思ったくらいだ。
あまりに俺の目に悪いのでその少年に文句を言う。
「……とりあえず目が疲れるんで、髪の色1つにして貰えますか?」
「ああ、ごめんごめん。最初はコレで驚かそうと思ってたんだ♪」
そう言うとその髪色ランダム少年はどこからか手鏡を取り出して、その鏡を見つめ始めた。どうやら髪色を決めているらしい。意外と悩んでるようなので一応周りの確認と少年の容姿の観察をする。
軽く見回した感じ、さっき女神様といた空間と同じようだ。少年の細かい容姿は、髪と瞳の色以外、普通にどこにでもいそうな感じだった。強いて言うなら上下ともに、某インクのイカゲーよろしく色んな色をぶちまけた配色になっている半袖短パンだ。そして後光、あと素足。ちなみに瞳の色もランダムに変わっていた。
と、ようやく髪色、とついでに瞳の色も決めたようで、手鏡をどこかに収納していた。色は透き通ったような水色だ。
「お待たせ~、ボクの身体をじっくり見てどうだった? ヘンタイさん♡」
「おちょくらないで本題入ってくださいよ」
思わず顔に手を当てながらこう返した。こういうタイプが一番面倒くさい。
「ちぇ、つまんないの。まあ、いいや、ボクはイノセリス! 気まぐれな神様だよ! よろしくね ♪」
「あー、雨田海琉です、よろしくお願いします」
とりあえず挨拶されたから返したが、ちょっと不穏な単語が聞こえたぞ? なんだ「気まぐれな神様」って、怖いんだが。
「神様って大体気まぐれなんじゃ……」
「そこはほら、キミの世界で言う『八百万の神』みたいな感じだから、気にしないで~」
色々と気になることはあるが、深掘りしたら凄く面倒くさいことになりそうなので、俺も本題に入ることにした。
「それで、イノセリス様は今日はどのようなご用件で?」
「そんな堅苦しくしないでよ、キミとボクとの仲なんだからさ?」
「初対面の人、というか神様にそんなこと言われましてもね……」
「ま、これから仲良くなれたらいいか。それで今日キミの所に来た理由だけど……」
ここでさっきまで笑顔だったイノセリス様の顔が真剣な表情になる。
「実はと〜っても大事な頼みをしに来たんだ」
それを聞いて俺も真面目な顔になる。
「その……大事な頼みとは……?」
「うん、それはね……」
イノセリス様が少しためて衝撃的なことを言った。
「キミに……異世界に行ってもらうことになりました~!」
イェーイ! ドンドンパフパフ~! と、さっきまでの神妙な面持ちはどこへやら、すごく、それはもうすっごく楽しそうにイノセリス様はそう告げた。そのせいか、俺は理解が追いつかなかった。
「……へ? い、いや、ちょ、ちょっと待ってください!?」
「うん?どうしたの?」
「い、今なんて言いました!? 俺が……異世界に行くって!?」
「うん、そうだよ~、それがどうかしたの?」
まるでさも当然かのように言う神様に、俺は非常に困惑した。同じような事が一日に二度も起こったからではない。その疑問を見透かすかのように、神様はこう答えた。
「キミが彼女、アマプルデスの頼みを断ったのは知ってるよ、キミ達が見えない所で見てたもん。だから、興味が出たんだ」
「き、興味って……なんのです……?」
つい俺はそう口に出してしまう。イノセリス様は顔を俺に近づけてこう言った。
「面倒くさがりなキミを異世界に放り込めば、すっごく面白いことをしてくれそうだ、ってね☆」
イノセリス様は左目をウインクして言った。星が飛び出ているように錯覚しながら俺は1歩離れて言う。
「お、俺以外にいるでしょうに、適任が」
「そりゃキミよりも面白そうなのはたくさんいるよ? でもそういうのは、アマプルデスの頼みを断らないからね〜」
確かにあの優しそうでスタイルがいい美人な女神様に頼まれて動かないニートはそういないだろう。つまり、俺は返答を間違えたせいでこの厄介そうな神様に目をつけられてしまったのだ。
「じゃあなんスか、俺も何かと理由を付けて断れば良かったんスか」
「そうだよ、他の人が仕事やら家族やらで断っているのにキミときたら、アッハハハハ!」
よっぽど俺の「面倒くさい」がツボだったらしく、イノセリス様は大笑いしている。だが面倒くさいと感じたのは事実だったし、個人的に世界を救うというのは照れくさかったのだ。頼みへの返答は、良く考えるべきだったが。
イノセリス様は腹を抱えてひとしきり笑ったあと、こう言う。
「っはぁ~、笑った、笑った。さて、それじゃキミが異世界で生きていけるように、特別になにか能力をあげよう」
「あ、能力は貰えるんですね。てっきり何も無いまま異世界に行くのかと」
「そんなヒドいことはしないよ。キミがすぐ死んじゃったらつまらないでしょ?」
「そうかもしれませんけど、その言い方だと俺が見世物だ、という風にしか聞こえませんよ?」
「そんなこと思ってないよ〜! ボクはただ、面白いこととちょっぴりイタズラが好きな神様だよ〜!」
失礼しちゃうな〜、と、イノセリス様は少し頬を膨らませながらムッとした顔をする。クソ、顔立ちが中性的だからか可愛く見える。イタズラという単語が不穏だということを除けば。
俺は少し目を逸らしてイノセリス様に軽く謝る。
「すみません。俺、ちょっと卑屈になりやすいタイプでして」
「ジョーダン、ジョーダン♪ そんなに気にしてないから謝んなくていいよ♪」
「そうですか……それで、俺は異世界に行ったら何すればいいんですか?」
当然の疑問だろう、一度世界を救って欲しいという頼みを断ったのに、結局異世界に行くことになったのだから。俺は、それとは別の頼み事があるのではと思いそう質問したが、イノセリス様の返答は予想とは違った。
「ううん、特にないよ。キミの好きなこと、やりたいことをやればいいさ」
「やりたいことですか……え、使命とか、そういうのは?」
「ないない♪ さっきも言ったけど、キミを異世界に送るのは、面倒くさがりがどんなことするのかっていう興味が出てきたからさ。だから気楽に行けばいいよ♪」
気楽に、か……そう言われると俺としては少しやりづらく感じてしまう。というか異世界行く理由がそれでは見世物に変わりないのでは?
そんな思いが表情に出ていたのか、イノセリス様はこう言った。
「そんな毎日ずっと見てるとかはしないよ、ボクだって忙しいからね。あー、でもすごい能力をもらったからって、急に世界を全部滅ぼすとかは止めてね、つまんないから」
「俺がそんなことを出来るたまに見えますか?」
「アハハ、ゴメンゴメン。でも、つまんないことをして欲しくないっていうのはホントだよ、それ以外なら何をしても自由さ」
「要するに節度を守れってことですよね、分かりました」
過度に環境を変えたり、破壊や消滅させたりしなければいいのだし、そもそもそんなことを出来るチート能力が貰えるとも限らない。貰えたとしても面倒くさいのでやらない。そして自由に過ごせる。
こう考えれば非常に好条件だ、異世界に行かない理由が無い。俺はそれなら行きますと承諾した。
「それじゃあキミにあげる能力を決めよう」
そう言ってイノセリス様はまたどこからか箱を取り出した。よくくじ引きで使われるあの箱だ。
「……能力ってくじ引きで決めるんスか」
「他の神はその人に合った能力を見て決めるけど、ボクはこの方が面白いと思うからね。大丈夫、ハズレは入ってないよ~」
選択肢がある方が好きだが、運に身を任せてみるのも悪くない。それに、使いづらそうな能力を直接貰うのであれば、異世界に行っても思い通りに過ごせなくなるだろうから、この場合はこれでいいのかもしれない。
俺はニッコニコの神様が差し出す箱に手を入れた。中には三角形に折られた紙が結構入っているらしい。その中から1つ取り、手を引き出す。
「くじを取ったね、それを開けばキミの異世界で使える能力が決まるよ。今なら戻して引き直してもいいけど、どうする?」
「……これを開けます」
変えた結果使いづらい能力になったら残念な気分になる。いやハズレなしとは言っていたけど。そんな訳で俺は最初に引いた紙に期待と不安を抱きつつ、折り目を開く。そこに書かれていた能力の名前は……
「想……造……?」
「今日からキミは【想造】の能力を使えるようになったよ! おめでとう!」
イノセリス様は拍手をしながら言う。言葉からして「想像」と「創造」を掛け合わせた造語だというのは理解出来るが、俺はいまいちピンと来なかった。
俺はイノセリス様に質問する。
「これはなにができる能力なんですか?」
「それは向こうに行って使ってみてからのお楽しみ♪」
使って覚えろ、ということらしい。まあ、字面的に便利そうなのは間違いないだろう。イノセリス様が手を打って話を続ける。
「さて! 能力も決まったし、もうすぐ異世界に行くけど、なにか質問とかこの世界でやり残したこととかある?」
「も、もう行くんですか?その、家族のこととか……」
「その心配はしなくていいよ、こっちで上手くやっとくからね」
「そういえば異世界ってどこに……」
「アマプルデスが言ってたマジステール大陸だよ。同じ世界の神様だからね、ボク☆」
「……そうッスか……」
とりあえずこっちでの心配事はなんとかしてくれるようだ。それは良いが、頼みを断った女神様が信仰されている所かぁ……なんとなく気まずいな。
それを察してかイノセリス様は付け加える。
「彼女にも上手く言っておくから、そんな不安そうな顔しないで、リラックスだよ♪」
「まあそれなら良いんですけどね……」
なんというか、ここまで会話してきてこの神のこと本当に信用していいのか分からなくなってきた。いやまあ、信じられているから神としてここにいるのだろうけど。
しかしチート能力も貰ったのだ、とりあえず覚悟を決めて異世界に行くことにしよう。そしてだらけよう。思う存分ダラダラ遊ぼう。俺は覚悟してイノセリス様に言う。
「よし、行きましょう、異世界に」
「そうこなくっちゃ! いっくよ~、〈転移〉!」
イノセリス様がそう言いながら上に指差す。するとそこから眩しい光が放たれた。思わず目を瞑る。
「あ、言い忘れてたけど、行き先もランダムだから。応援してるよ、カイル君♪」
「え!? は、ちょ……!」
そんな不穏な言葉を聞いた矢先、光が目を閉じていても分かるほど一瞬強烈になった後、ふっと暗くなる。恐る恐る目を開けてみると、神様の姿はそこには無く、代わりに写ったのは生い茂った木々だった。
「まじかよ……」
異世界で最初に降り立った場所は、なんと森の中だった。
元々1話として執筆していたのを分割したため、このような形になりました。
今後も前後分割で物語をあげようと思います




