試験 ーその5ー
誠志と瑞樹は、最後の作戦を話し合っていた。
昌と堰葉の渾身の一撃を漣李が躱してから、およそ三分が経過していた。その間も、瑞樹の超能力を突発的に解除することで、隙を作ろうとしていたが、すでに読まれてしまっていたようで、漣李には全く聞かなかった。
「これならいける」
「本当に、それでいくつもり?結構賭けよ」
心配する瑞樹を横目に、誠志は走り出していた。
二人への作戦共有は、戦闘中に行うしかない。戦いの最中、全くのド素人がそれをするのは非常に難しいため、作戦の要である昌にしっかりと伝える時間を確保したかった。そのため……。
「堰葉、一分耐えてくれ!!」
「……わかった!何か策があんだろ?」
「助かる!!」
堰葉と出会ってまだ数時間しかたっていないが、自己紹介でのことや、戦闘中に昌を気にかけていたことからも、誠志の提案を承諾してくれると信じていた。
いきなり誠志に引っ張られた昌は驚いたような顔をしていたが、誠志の目を見て状況を瞬時に理解する。そして、なるべく手短に作戦を話した。
「昌、できるか?」
「……できると言い切ることはできませんが、任せられたならやり遂げますよ」
そういって、昌は漣李に向かって走り出した。誠志も、作戦通りに行動を始める。
堰葉と戦っていた漣李は、二人の出方をうかがっていた。昌が戦線復帰してきたとしても、対応は変わらないだろう。それよりも、誠志の方が気がかりだった。愛月たちが誠志の超能力を、『触れている者の超能力を使えなくする力』と登録したため、漣李はそう認識している。そのため、誠志の接近を許せば氷塊が作れなくなり、負ける可能性が跳ね上がることも理解していた。
つまり、漣李が今ここで最も警戒すべきは誠志なのだ。
(来た!!)
誠志の読み通り、氷塊の配分を堰葉・昌に一つづつ、誠志に二つに変更してきた。
これこそが最大の計略。誠志自身を使った特大のブラフによって、漣李の隙を作り出すことに成功した。
「おいおい、よそ見すんなよ!」
相手にしていた氷塊の数が減ったことで堰葉の負担が軽減され、今まで出せなかった最大限の力を叩きこむために、漣李に向かって走り出した。
漣李は冷静に、今まで通りに対応したつもりだろう。しかし、力を溜める猶予を与えてしまったがために、漣李が作り出した氷塊は堰葉の拳に粉々に粉砕された。そして、休む暇を与えずに、堰葉の陰から水弾が漣李に迫る。
意表を突かれたとはいえ、漣李は至って冷静だ。そのため、昌が放った水弾も的確に対処してくる。実際、昌に割いていた氷塊で防げばいいので、漣李の手数が減ったわけではない。堰葉も、一撃に力を籠め過ぎたせいか、その場に硬直してしまっている。昌も、二発目の準備はしていない。誠志も手の届く範囲にはいない。つまり、追撃は不可能。
油断していないとはいえ、漣李は一瞬そう思ってしまった。瞬間、再び氷が摩擦力を失った。
「二度目は効かないわ」
「それはどうですかね?」
確かに、漣李は氷で滑ることはなかった。しかし、漣李は体勢を崩してしまった。
氷が摩擦力を失う寸前で、誠志は空中に飛び上がっていた。そのため、滑ることなく漣李に近づいていた。それを見ていたため、漣李は空中に回避する択を捨てて、滑らないように踏ん張って迎え撃つことにしたのだ。しかし、それがよくなかった。漣李は、昌が作り出した水流によって足を取られたのだ。
仰向けに倒れた漣李に向かって、誠志の手が伸びる。
「甘い!」
どれだけ体勢を崩していても、距離の目算さえ見誤らなければ、氷塊は誠志の行く手を拒む。
「本当にそうですか?」
「え?」
漣李の視線が一点に集まる。それは、自身の胸につけられたバッジ。いや、胸についていたはずのバッジ。瑞樹が手に取ったバッジに、漣李の視線が、皆の視線が集まった。
この瞬間、誠志たちの実技試験合格が確定した。




