試験 ーその4ー
滑る氷に苦戦していた誠志は、なんとか氷塊で包まれた戦場を眺めていた瑞樹の元にたどり着いた。
「戦況は?」
「誠志!そうね……徐々に押されつつあるわ」
瑞樹は中央を指差しながらそう言った。その先で、昌と堰葉が漣李と激戦を繰り広げていた。
「あの人はそんなに強いのか?」
「はぁ?誠志知らないの?」
瑞樹はあきれたしぐさをするが、そんなことをしている状況でもないのですぐに緊迫した雰囲気に戻った。そして、手短に、支障をきたさない程度で誠志に説明を始めた。
「狛猫漣李。中学二年生にして最年少で学生治安維持委員会本部に入った天才中の天才。今はクラス:マスターだけど、クラス:ジニアスになるのも時間の問題だと言われてるわ」
クラスについては、誠志はまだよく分かってはいない。が、マスターやジニアスと言った言葉から察するに、かなりの超能力の使い手だということは伝わってきた。
と、それだけ聞くと今ここで彼女と戦闘するのは得策でないように思える。そんなことは、この場にいるだれもが分かっていた。しかし、一度始めてしまえば最後、彼女から逃げ切ることができないことも分かっていた。そのため、誠志たちが学生治安維持委員会に入るためには、彼女からバッジを奪い取るしかないのだ。
そのための作戦を考えるために三人の戦闘を眺めていた誠志が、おかしなところに気が付いた。
「瑞樹、何で氷の上であんな機敏に動けてるんだ?」
氷の上は、普通ならば滑って走ることも難しい。しかし、三人はそこがまるでコンクリートのように縦横無尽に走り回っていた。この世界に来て初めての戦闘を至近距離で見たため、圧巻されてしまっていたのだろう。こんな事実に気が付くのが、遅れてしまった。
「私が摩擦係数をいじってるの。だから、滑らないのよ。まぁ、狛猫漣李にも利用されちゃってるだけど……」
そう言って俯く瑞樹の隣で、誠志は頭をフル回転させていた。
戦闘と周囲の状況からして、漣李の超能力は氷を生み出すものだろう。誠志も戦力に数えて昌と堰葉、三人の超能力との相性を考えると、良いとは言い切れなかった。誠志の超能力は一度顕現した氷を消すことができず、昌が操る水弾でも氷を打ち砕けてはいなかった。唯一、堰葉の打撃のみが有効打に思えたが、それも堰葉の拳がいつまでもつかが分からない状況だ。
つまり、決めるなら短期決戦。二人の体力がまだ残っている内に、決めきらなくてはいけない。
ここでのポイントは、誠志たちの勝利条件が漣李の胸についているバッジを取るということだ。どんな些細なことでもいい。漣李の意表をついて、バッジさえとれば誠志たちの勝ちなのだ。
「二人はあとどのくらい持つと思うか?」
「そうね……よくて五分かしら」
「五分か……」
今誠志が考えているのは、自分も加勢に行くかどうかだ。事前の話し合いで、前衛が昌と堰葉、後衛が瑞樹と誠志と決まっていた。しかし、今はそんなことを言っている暇ではない。二人のうちのどちらかが欠けた瞬間、誠志たちの勝機は潰えるのだ。それなら、誠志も加勢して的を増やすのが最善手であると、誠志は考えていた。しかし、まともな戦闘経験のない誠志が入ったところで足手まといにしかならないのも目に見えている。
などと、長考している間にも、戦況は刻一刻と変わりつつあった。
昌と堰葉は、漣李の猛攻を何とか搔い潜りながら、反撃の機会をうかがっていた。
「ちっ……!!この氷硬すぎるだろ!!」
「私の水弾もまったくきいてません」
二人の攻撃にびくともしない氷塊を使って、漣李が猛スピードで迫ってくる。ここまでガチな戦闘は、流石の二人もしたことがなかったが、一つだけわかることがあった。
『狛猫漣李は本気を出していない』
それは、攻撃に回す氷塊の数が四つしかないことからも、見て取れる事実だった。
こんなアドバンテージをもってしても、防戦一方になってしまうくらいの実力差がここにはあった。それをひっくり返すためには、チームワークが大切だと。そう教えるための試験なのだ。
そして、戦闘の最中二人は個人では太刀打ちできないとわかり、連係プレーで挑もうとしていた。しかし、そのチャンスがなかなか回ってこずにいた。
「どうすれば……ッ?!」
二人が同時に後ろに飛びのいた瞬間、漣李の体勢が若干ではあるが乱れた。昌は、瑞樹の方を見て、その理由を察する。瑞樹の肩に、誠志の左手が触れていた。これによって、瑞樹の超能力が一瞬解除されて、足をついていた漣李の体勢が崩れたのだ。
その隙を二人は見逃さなかった。昌が放った水弾と堰葉の拳が漣李に迫る。漣李は、氷塊でなんとか防ごうとするが、氷塊は堰葉の拳でひびが入り、そこに昌の水弾が入り込むことで粉々に粉砕されてしまった。
ただし、昌たちが走れるということは、瑞樹の超能力が戻っているということ。そのため、漣李にはあと一歩のところで避けられてしまった。
「くっそ……ッ!!昌、大丈夫か?」
「はい。後少しなのに……」
悔しがる二人を遠目に、誠志は一つの策を思いついていた。
「これなら……いけるかもしれない」
試験は最終局面に達していた。他者のことなど考えられるはずもなく、全員が全員自分のことで精一杯になっていた。チームワークという勝機に気が付いている者以外は。




