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超醒の救世者  作者: ミライ
一章
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新たなステージへ

「蒼井誠志(せいじ)……以上を、今回の試験の合格者とする」


 時間は少し進んで、全ての試験はこの瞬間をもって終了した。あの戦いの後、実技試験の合格発表があり、昨日はそこでいったん解散。そして今日、面接試験を終えて、無事合格した者たちが今この会場にいるというわけだ。

 そのため、第五区画支部以外に知り合いのいない誠志は一人、会場の隅でこれからのことを考えていた。

 この世界に来てからの大きな目標を達成した今、次に何をするべきなのか。最終的には、自分がここに来た理由を知って、帰るすべを見つけられたらと思ってはいるが、この生活を続けていけばここに残りたいと考えるようになるかもしれない。

 結局、これといった明確な答えが出るわけでもなく、今は学生治安維持委員会(S M C)として、未来都市に関わりながら過ごしていくのが、一番だという結論に至った。と同時に、誠志に近づく一つの人影が見えた。


「あんた、こんなところで何やってるの?」

 

 声をかけてきたのは、実技試験で誠志たちの前に立ちはだかった、狛猫漣李(れんり)だった。


「狛猫さ……」

「漣李でいいわ。それで、どうして一人でいるの?まさか……あんた、ぼっちなの?」


 少し間を置いて、誠志は小さくうなずいた。この世界に来てから友人と呼べるような存在は何人かできてはいるが、この会場においてはそうでもない。実技試験を共にした三人も、別々の場所でそれぞれの友達と一緒にいる。実技試験のチームで集まっているところもあるようだが、面接試験をパスしている誠志と三人では合格の達成感が違うと思い、自ら声をかけようとはしなかった。


「まぁ、いいわ。暇なら、私とおしゃべりしましょ」


 そう言うと、漣李は通りかかったホールスタッフに声をかけて、ドリンクの入ったグラスを二つ受け取ると、一つを誠志に差し出した。


「これは?」

「あんたの合格祝いよ。一人ぼっちでかわいそうだから、乾杯くらいはしてあげるわ。ほらっ」


 カン……という音が、かすかに誠志の耳の奥に響いた気がした。周囲の音にかき消されはしたが、今この瞬間、会場内に二人だけの空間を作り出すことはできただろう。その雰囲気に浸って、誠志はグラスに口をつけた。

 関係の深くない人と話すことがそこまで得意ではない誠志は、漣李と何を話せばいいのかわからない。自分から話すべきだと思ってはいるが、いい話題が見つからずに口を開けなかった。

 その様子を見ていた漣李は、ドリンクを少し飲んだ後に誠志に話しかけた目的を果たそうと、二人の間に流れていた沈黙を破った。


「あんた、どうやってあの子に私のバッジを取らせたの?」


 漣李の言うあの子とは、瑞樹(みずき)のことだろう。

 確かに、先の戦闘では瑞樹は主にサポートで、前線には出てこなかった。もしかしたら、瑞樹の超能力についても事前に知っていたかもしれない。そうであれば、なおのことなぜ前線に出てきたか理由が分からないことだろう。


「漣李さんは隙がなかったので、意表を突くのがベストだと思ったからです」

「意表……ね。確かに考えもしなかったわ。でも、あの子はかなり離れた位置にいたはず。近づいてきたなら、流石に私も気が付くわよ?」

「そこは、チームワークで対処しました」

「チームワーク?」


 漣李は首をかしげてそう言った。即席でつくられたチームで、互いの能力を活かし合うのは難しい。気になるのは至極当然のことだ。もとより、漣李は誠志にそのことを聞きに来ていた。

 誠志は、昨日の状況を思い出しながら思いついた作戦について話し始めた。


「あのとき、俺は瑞樹の存在を漣李さんから完全に消す方法を考えていました。でも、漣李さんは全力を出していないにもかかわらず、隙が全く無く…」

「当たり前でしょ?手加減しているとはいえ、気を抜くようなことはしないわ」

「はい。それで、どうすればいいか考えていた時に、試しに瑞樹の超能力を解除してみたんです」

「あんたが、あの子の方に触ったときね」

「やっぱり……俺の超能力、知ってたんですね」

「もちろん。全受験生の超能力は、頭に叩き込んであるわ」


 狛猫漣李は勤勉だ。最年少で本部に所属した実力は伊達ではない。本部に入った後も、その地位に見合った実力を身に着けるため日々研鑽を積んでいた。

 時期から見ても、本部に入ったばかりで試験官に任命されている。それは、彼女の日々の努力が周囲に認められているという確固たる証拠だった。

 正直ここも誠志にとっては賭けだった。漣李がこのことを知らなければ、氷塊の分配が違ったかもしれない。そうであった場合、誠志の作戦が水の泡になるところだった。


「それであのとき、(あきら)堰葉(どうば)が漣李さんの氷塊を打ち破ったことで、この作戦を思いついたんです。自分という異分子を投入して、漣李さんの作る氷塊を操作できるのではないかと」

「氷塊を操作?」

「はい。昌と堰葉の攻撃を防ぐために作った氷塊で、瑞樹の姿を見えなくしました。そして、自分が必死にバッジを取ろうとすることで、瑞樹の存在を完全に消したというわけです」

「なるほどね。理屈は分かったけど、どうやってあの子を一瞬で私の近くまで移動させたの?」

「まぁ、そこは本当に瑞樹頼りだったんですけど…」


 あのとき、瑞樹が賭けと言ったのは、最後のここが完全に瑞樹頼りだったためだ。

 誠志は、瑞樹の超能力が摩擦係数を操るものだったため、自分の靴の摩擦係数を下げてスケートのように移動できないか考えた。そこに関しては、自分の超能力の理解を深めるために、瑞樹がスケートなどをしていなければいけなかったが、誠志の読みはどうやら当たっていたらしい。

 そして、瑞樹はしっかりと役目を果たしてくれたというわけだ。


「なるほどね……あんた、本部(うち)に来ない?私にその権限はないけど、口利きくらいならしてあげられるわよ」

「え?」


 思いがけない漣李の言葉に、誠志は素っ頓狂な声を発してしまった。本部に来ないかという漣李の誘い。それは、いわゆる昇進を意味するもので、まだ正式に学生治安維持委員会(S M C)に入っていない誠志にとってはあり得ないことだった。

 この世界で、後ろ盾が何もない誠志にとってはありがたいことだろう。しかし、誠志にこの誘いを受けるつもりはなかった。


「……ごめんなさい。俺には、恩返しをしたい人たちがいるんです。そのためにも、漣李さんの誘いを受けるわけにはいきません」

「そう……振られちゃったわ。結構自信あったんだけれどね」


 漣李は肩をくすめて、そう言った。もちろん、冗談の可能性もあったが、そうでないことは分かっていた。


「ま、いいわ。あんたの、活躍楽しみにしてるから」


 漣李は、手を振りながら誠志の元から去っていった。 

 そして、なんやかんやありつつも、合格祝いのパーティーは終わりを告げた。瑞樹、昌、堰葉に挨拶をした後、誠志は一人バスに乗り込み、第五区画への帰路についた。

 現在時刻は十七時半。第五区画支部に着くころには十八時を回っているので、みんなはもう帰っている頃かもしれない。昨日の時点で合格は決まっていたが、まだみんなには話していない。とはいえ合格者は、近くにあるホテルを使うことが決まっていたために、なんとなく察してはいるのだろう。しかし、まだ誰からも連絡は来ていない。第五区画支部のみんなは、今日のパーティーの後に祝うつもりでいた。

 

「帰ってきた」


 昨日はホテルに泊まったため、みんなと会うのは一日ぶりだ。

 心臓の鼓動が速くなっていく。それに伴い、息が荒くなっていくのを感じた。しかし、そんな姿をさらすわけにもいかず……いったん落ち着くために、深呼吸を数度行った。そのおかげで、呼吸も安定し、心臓も平常を取り戻した。

 そして、裏口のドアノブに手をかけ、扉を開く。


「おかえり、誠志」

「おかえりなさい、誠志さん」

「誠志、お疲れ様だぞ」


 迎えてくれたのは、愛月(まなつ)莉穂(りほ)瑠真(るま)の三人だった。少ないようで、誠志と最も親交の深い三人だ。

 三人の顔が見れて、言いたいことが溢れてきて、そして……。


「……ただいまです!」


 今この瞬間、誠志は本当の意味で学生治安維持委員会(S M C)第五区画支部に入ることができたのだった。

 

これにて一章完結です。低い投稿頻度ではありますが、まだまだ物語は続いていきます

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