試験 ーその2-
「グループ?どういうことだ?」
「いつもと違うの?!」
試験官の言葉に、周囲はいまだざわついている。それもそのはずで、今回の実技試験のない今日が例年のものと全く別物になっていたからだ。
各地で似たような疑問が飛び出しているのを見た試験官の一人が、なぜこのような試験内容になったのか説明を始めた。
「昨今、超能力者と非超能力者の合格率にかなりの差が出てきていた。それは、学生治安維持委員会の業務内容的に考えても仕方のないことだと考えられていたが、非超能力者でも役立てる場面が多くなってきたことで、一度試験評価を見直すことになった。そして、新人が学生治安維持委員会に入り初めて受ける任務は、単独ではない。特に初年度こそチームワークが大切になってくる。そこで、試験でチームワークの力と個の力、両方を評価するためにこの試験内容になったのだ」
つまり、今までは基礎試験をスキップ出来て、対人戦に有利だった超能力者主義の評価基準から、学生治安維持委員会に入った後に重要視されるチームワークに視点を置いた公平な評価基準へと変化したのだ。
もちろん、この変更は事前告知されていなかったため、今この場にいる非超能力者はそこまで多くない。それでも、全員の受かる確率が大幅に変わったことは、間違いないだろう。
試験官の言葉に言い返すこともなく、会場が静まり返ったところで、まずチームメイト同士で自己紹介をするように指示があった。
「えっと……」
誠志のグループは、男子三人女子一人。全員が初対面のようで、今は誰から話すのか様子をうかがっている段階だった。
そして、まず口を開いたのは誠志の目の前にいた青年だった。
「では、まず私から。私の名前は、陸智昌。超能力は『エレメンタルアビリティ:ウォーター』で、名前の通り水を出すことができます。クラスはグレード、今年から高校一年生になりました。よろしくお願いします」
陸智昌、高校一年生。超能力で水を生み出せるということで、かなり汎用性の高いものと言えるだろう。クラスという聞きなれない単語が出てきたが、それを聞けるような雰囲気ではなかった。
次に口を開いたのは、時計回りの順番で、昌の横に立っていた女の子だ。
「私の名前は、入江瑞樹。中学二年生よ。超能力は『エレメンタルアビリティ:フリクション』触れた物体の摩擦係数を操ることができるの。クラスは秘密。よろしくね」
入江瑞樹、中学二年生。触れた物体の摩擦係数を操れる超能力は、中学生にとっては理解しがたいものだと思うが、ここにいるということはそれなりに使いこなしているはずだ。それは、少女の雰囲気からも見て取れた。
そしてついに、誠志の番がやってきた。
「俺の名前は、蒼井誠志。超能力は『スペシャルアビリティ:プランダリング』触れている超能力者の超能力を封じることができる。クラスは……秘密で。一度放たれた超能力については完全に消すことができないから、そこまで使い勝手がいいものではないけど……よろしくお願いします」
先週、裕哉と話し合った通り、誠志は自身の超能力の半分のみを開示した。名前については自分でつけられるとのことで、愛月たちと話し合って最終的にこの名前に決定した。
三人からは疑いの目で見られたが、誠志の曇りなき眼に今は一旦信じることにしたのだろう。誰もその点については、とやかくは言わなかった。
最後に、誠志の隣に立つガタイの良い青年が自己紹介を始めた。
「最後は、俺だな。俺の名前は、鰭条堰葉。超能力は『フィジカルアビリティ:パワー』俺の筋力を増加させることができる。クラスはグレートだ。力仕事には、自身があるぜ。今日は、よろしくな」
鰭条堰葉、高校一年生。自身の筋力を増加させられる超能力から見て分かる通り、彼は生粋の体育会系だ。とはいえ、考えるよりも先に手が出るようなタイプではもちろんなく、筆記試験を突破できる知識も有している。依頼によっては、一番活躍できる超能力を持っていると言えるだろう。
堰葉の自己紹介も終わり、四人の間に静寂が訪れる。数秒間続いたこの雰囲気を破ったのは、試験官の言葉だった。
「顔合わせは、終了だ。今から、依頼の内容について説明する」
空気がピリつく。今まで、がやがやとしていたこの空間が一斉にして静まった。皆、この初めての試験を前にして、不安が高まっているのが見て取れた。誠志もその一人と言えば嘘ではないが、他の受験者よりはまだましだった。
「まず始めに、制限時間と範囲を説明する。制限時間は、四時間。スタートが十四時なので、終了は十八時になる。そして、行動範囲は第二区画全域だ」
淡々と、ゆっくりとも言えないスピードで、説明が始まった。行動範囲が第二区画ということで、そもそもここの土地勘のない誠志にとっては、さらなる悲報と言えるだろう。もとより、会場が第二区画の時点で、予測できたことだが……。
そして、試験官は皆が気になっているであろう依頼の内容を話し始めた。その内容はいたって普通なのだが、とある要素によって、使うはずがないと思っていた"奪う力"を使わなければいけなくなるとは思ってもみなかった。




