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長谷川植物研究所日誌  作者: 空色
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カメオの行方④

 

「──で、どうなった?」


 3人が帰った後、見計らった様に研究所にやって来た相馬が事の成り行きを訊ねた。その瞳はキラキラと輝いており、好奇心旺盛な少年の様である。


「訪ねてきて、真っ先に言う事はそれか?」

「他に何があるんだい?」


 長谷川がげんなりとした顔で睨むと相馬はこてんと首を傾げた。そんな些細な仕草も様になるのだから、見目が良いというのは羨ましい事この上ない。

 彼の言動を見る限りでは本当に分かっていない様なので長谷川は溜息を吐いた。


 ──俺に労いの言葉をかけるとか、感謝の言葉を述べるとかあるだろ!


 内心では文句を言いつつも、長谷川は彼に応接用の椅子に座る様に言い、自身も彼の対面に座った。

 一応彼の持ちかけた案件だ。彼もあらましを知る必要があるだろうと判断した為である。


「──という事だ」


 今回の事件のあらましを説明してやるとお気に召さなかったのか相馬からは「ふーん?」と気のない返事が返って来た。イラッとして長谷川が席を立とうとすると相馬に引き止められた。


「分からない事がある」


 気のない返事はどうやら彼なりに分からないところを整理していた為の様で、話がつまらなかった訳ではないらしい。


「何が分からない?」

「君は何故、カメオがお嬢様の部屋の小瓶の中だと分かった?」


「ああ」と、長谷川は肝心な部分を説明していなかった事に気が付いた。


「お嬢様が小瓶をずっと見ていたのが気になった」

「それだけ?」

「いや、それだけじゃない。色々と引っ掛かる事が多かった」


「例えば?」と相馬は長谷川を促す。


「まず、俺を簡単に部屋に招いた事。名家のお嬢様、それも結婚前の娘だというのにかなり無用心だろう?」

「それは芳乃嬢も一緒だったからでは?」


 長谷川だってその線は考えた。しかし、家人に何も言わずに見知らぬ男をいきなり部屋に招き入れるものだろうか。

 あの婆やとて、長谷川にはかなり厳しい態度ではあったものの、事情を話せば理解してくれる様な気がする。事実、藤子が研究所を訪れる際はしっかりと付いてきていたではないか。


「そこで、彼女は積極的ではないものの()()()()()()()()()()()()()()()と考えたんだ」

「婚約が破談になる事をかい?」

「いや、当初は俺もそうかもしれないと思ったんだが、彼女の行動に矛盾が出てくる。だから、きっと彼女もそこまで望んでいた訳ではないのだろう。寧ろ、そうなると困るのは彼女自身だ」


 藤子はその事をよく理解していた。事件自体も杜撰で計画的では無かったし、恐らく突発的なものだったのではないかと長谷川は思っている。


「カメオが盗まれれば、縁談が延期になると? 確かに杜撰かもね」


 長谷川は首を左右に振った。


「いいや、彼女が欲しかったんのは、()()()()だろう」

「何故そう思うんだい?」


 相馬は目を瞬かせた。


「彼女はカメオ探しに協力した。結婚を破談にしたいなら、見つからない方が都合が良かったろう。其れに彼女には芳乃嬢を口止めする事も俺の強力も断る事も出来た筈だ」


 芳乃嬢はお転婆で正義感が強いが藤子が困る事はきっとしない。藤子が「黙っていて欲しい」と言えばそうしただろう。長谷川を断るのはもっと簡単に出来だろう。


「それに、カメオが盗まれてから日が経っている。俺をこっそり部屋に招き入れられたのだから、カメオを人知れず処分する事も出来ただろう」


 そう言うと「ああ!」と納得した様だった。


「でも、藤子嬢が犯人だと決めつけるのは早かったのではないかい? 他に犯人がいる可能性だってあったんだ」

「最初は空き巣の仕業だと思っていたさ」

「ならどうして? ああ、カメオしか盗まれなかったからか」

「そう。空き巣ならきっと目に入る高価なものを盗むだろう。藤子の部屋にはカメオ以外に、それも目に付く場所に高価なものがあったというのに、それには手が付けられてなかった」

「つまり、最初からカメオしか狙っていなかったと」


「そうだ」と長谷川は頷いた。これが長谷川が彼女の部屋に入って直ぐに引っ掛かったポイントだ。


「それだと、お嬢様に懸想する輩、例えば使用人が破談になる事を狙ってなんて線もあったろう?」

「勿論、それも考えた」

「違うと? 何故だい」

「若い使用人が見当たらなかった」


「……ん?」と相馬は首を捻る。「それだけ?」という顔だ。


「清川家に案内された時、俺は使用人に一人も会わなかった。流石に一人くらいあってもおかしくはないだろう? あとは俺が清川家から引きずり出した使用人は皆年嵩だった。そこで俺は、業績の悪化で使用人を削ったんじゃないかと思ったんだ」

「年嵩の使用人を残し、若い使用人から解雇したと」

「若い奴の方が直ぐに仕事が見つかるからな。ましてや、名家の使用人だったんだ。欲しがる家は多いだろ?」


「なるほどね」と相馬は頷いた。何となくだが、言いたい事は伝わったらしい。


「外部から忍び込んだとは思えなかったからな」


 藤子の部屋の窓は閉まっていた。空き巣だとすれば

 玄関から堂々と入ったという事になるが、藤子の部屋は屋敷の奥まった場所にある。藤子の部屋を狙うよりも他の場所で金品を漁るにも逃げるにも効率的だ。

 また、使用人ならば藤子部屋まで簡単に行けるだろうが、持ち場にいない事がバレれば直ぐに犯人だと分かってしまう。

 婆やが呼べ直ぐに部屋にやって来れる距離にいたのだ。盗まれた当日も特に変わった事は無かったと言う。


「それで、お嬢様の自作自演だと」

「ああ」


 正直、お嬢様が自白しなければ証拠も無かった。長谷川としてはお嬢様が白を切り通すか、外れてくれていた方が良かったが。


「成る程ねぇ」


 ようやく納得したのか、相馬はお茶を一口啜った。


「お嬢様はどうなるだろうな」


 上手く纏まる事を願う。


「お嬢様の事は分からないけど、近々清川家のご当主様はいらっしゃるだろうね」


 にっこりと微笑まれ、長谷川はこてんと首を傾げた。


「何処にだ?」


 相馬が指で軽く机を叩くと、長谷川は目を大きく見開き絶叫した。







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