カメオの行方②
◇◇◇
「──此処か」
「そうよ」
大きなお屋敷の前に場違いな男と女学生が二人並んで立っている。不自然且つアンバランスな組み合わせだ。「君も本当にお人好しだねぇ」と笑っていた相馬は此処にはいない。彼に絡んでも、のらりくらりとかわされるだけなので、「お前が言うな!」という言葉は心の内にしまって置く事にした。
──成る程な……。
長谷川はうんざりしながらもこの屋敷を見上げ、一人納得する。
この屋敷は旧家の一つ「清川家」の屋敷である。歴史も古く旧家の中でもそこそこ名の知れた家柄である為、世事に疎い長谷川でも知っている。しかし、最近事業の失敗が続いており、雲行きが怪しいとの事だ。
──そこに来ての豪商の子息と娘の婚約。家の立て直しが目的の政略結婚だろう。今回の婚約の証であるカメオ盗難事件は人様に知られたい話題では無かったろう。芳乃の言う通り下手をすると破談になりかねないな。
「ところで、君はどうしてカメオの盗難を知った?」
まず、引っ掛かったのはそこだ。この様子だと警察に連絡したかも怪しい。
「偶々、居合わせてしまったのよ。それで私は藤子さんの力になりたくて、悩んでいたら相馬様が口が固くて頼りになる方をご紹介してくださるって」
「…………」
長谷川は口を何とも形容し難い顔をして黙り込んだ。言いたい事は山程あるが、取り敢えず全部解決してから──解決するかどうか怪しいが──だろう。
「そのご令嬢には会えるのか? 当事者に聞くのが一番早い」
「そうね。少し待っていて、呼んでくるわ」
「逃げないでよね!」と芳乃は長谷川に言い置くと屋敷へと走って行った。暫くすると、門が開き、芳乃と一緒に淑やかな少女が現れた。彼女がその当人清川家の令嬢藤子だ。
「当人に会いたい」と言ったものの、当人自らのいきなりの登場に長谷川は驚きつつ屋敷の中へと通された。
「──此処が私の部屋です」
そして更に驚いたのが、最初に通されたのが藤子の私室だ。長谷川は唖然として部屋の前で立ち尽くす。
「あの? 現場もご覧になりたいと仰っていたのでは?」
藤子が不思議そうに長谷川を見る。その為に態々自ら自室に案内してくれたようだ。
「ええ、まぁ、そうですが。お家の方は? 流石に見ず知らずの男をいきなり部屋に招くのは如何なものかと」
──名家のご令嬢にしては無防備過ぎやしないか!?
内心戦々恐々としながら、長谷川はすました顔で言うと、藤子は顔を俯かせた。恐らく、これは藤子の独断なのだろう。
「ちょっと!」
その様子に芳乃はキッと眦を上げた。「いいのよ、芳乃さん」と藤子が嗜めるが芳乃の方は長谷川を睨んでいる。
長谷川は咳払いをすると、話題を変える事にした。
「仕方ありませんね。では、盗まれた時の状況を知りたいので、教えてくれませんか?」
「はい、あれは──」
藤子の話によれば、藤子が女学院から帰宅すると既に部屋は荒らされていたらしい。引き出しにしまっていたカメオを真っ先に確認したところ、失くなっていたとの事だ。
「──他に盗まれた物は? 他の部屋は荒らされていはいなかったのですか?」
藤子は首を左右に振った。
「はい、盗まれた物はカメオだけです。他の部屋は荒らされておらず、私の部屋にだけ入ったようでした」
「お嬢様の部屋だけ?」
長谷川は目を丸くした。
──それは、まるで最初からそのカメオを狙っていたようではないか?
そう思ったものの、直ぐに長谷川は別の可能性を考えた。
「そのカメオはもしや、とても高価なものなのでは?」
「いえ、特別に高価なものでは無かったかと。カメオの女性の横顔が私に似ていて気に入って購入したそうです」
──高価なものでは無い? カメオ自体が目的という訳ではないのか? もしや、盗みに入ってお嬢様に遭遇して逃げただけか……。
「逃げていく人影などは見なかったのですか?」
「ええ、何も見ませんでしたわ」
藤子の返答に長谷川は首を捻りつつ、ふと窓の外を見た。きちんと手入れをされた庭木が見えた。彼女の部屋は屋敷の奥にあり、外には高い塀がある。
──簡単に入り込めそうには無いんだが?
様々な可能性を思考しながら、藤子を振り向くと彼女はぼうっと棚を見ている。彼女の視線の先を辿るとそこには可愛らしい小瓶が並べられていた。玻璃の小瓶もあり、中々高そうだ。
「藤子さ……」
長谷川がある事に気付き、藤子に声を掛けようとしたところ扉が激しい音を立てて開いた。
「──お嬢様!! これは一体何事ですか!?」
「婆や!」
部屋に入り込んで来たのはお仕着せを着た老女だ。しかし、歳の割に腰は曲がっておらず、背筋はピンと伸びている。
彼女は部屋に入って来るなり、激しい剣幕では長谷川を糾弾すると、そのまま年嵩の使用人達に命じて長谷川を外に引き摺り出してしまった。
「お嬢様! もし、何か話したい事がありましたら、研究所にいらしてください!!」
長谷川は屋敷から引き摺り出される最中、藤子にそう言い置くのが精一杯だった。
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