カメオの行方①
「──話が違いますわ!!」
春も終わりに近付いた頃、植物がところ狭しと並べられた事務所内に叫び声が響いた。
この声の主は事務所内には不似合いな名門女学院の制服を着た少女──須藤芳乃のものだ。彼女の目の前にいる男は彼女の声の大きさに顔をのけぞらせている。
「だから! 最初から言っているだろう? お嬢さん、ちゃんと表札は見たのか?」
呆れた様子で男が言うので、渋々だが芳乃は事務所前に掲げてあった表札を思い出し、はっとする。
「ああ、確かに『長谷川植物研究所』って書いてあったわ!」
「そうだ。ここは警察でも、探偵事務所でもない、ただの植物研究所だ」
男──長谷川植物研究所の主・長谷川は聞き分けの悪い子供に言い聞かせる様に芳乃に言った。
「でも、私の聞いた話では、趣味で植物の研究をしている探偵だって」
拗ねた顔をする少女に長谷川はあんぐりと口を開けた。
「趣味じゃない本業だ!」
──誰がそんな事を言ったんだ!
「嘘よ!」と芳乃は再び叫び声を上げた。
「──良いじゃないか。話を聞いてあげるぐらい」
何時から居たのか、二人のいる部屋の入口に男が立っている。見目麗しいその男は口元に手を当てて微笑んでいる。
「相馬!」
「相馬様!」
その男を見た瞬間に長谷川は愕然とした表情を浮かべ、芳乃は歓喜の表情を浮かべていた。
「──ふむ、女学院の友人が婚約の証であるカメオを盗まれてしまったと」
芳乃の話に相馬は「それは大変だね」と同調する。
「聞いていたんじゃないのか?」
呆れを含んだ視線を向けると相馬は「いいや、全く」と悪びれた様子もなく答えた。
「言い難い内容のようだったし、それならと君を紹介したんだよ」
──いや、待て! そこで何故、俺を紹介する!
批難する様に睨むが、相馬はどこ吹く風だ。長谷川は諦めて芳乃の方を見た。期待の込められた視線が痛い。
「つまり、俺にそのカメオを探して欲しいと?」
「ええ!」
「無理だ」
長谷川が断ると「どうしてよ!」と目の端をきっと吊り上げて抗議の声を上げた。
「『どうしてよ!』じゃない! そういった捜査は警察の仕事だろ。被害届を出せば、警察が見つけてくれる」
長谷川は至極真っ当な事を言ったつもりだが、芳乃はそうは思わなかったらしい。不満そうにしている。しかし、盗まれたカメオもカメオを盗まれたという娘も知らない長谷川にどうやって探せというのだろうか。
「警察じゃ駄目なのよ!」
芳乃が叫んだ。その声があまりにも悲痛で長谷川と相馬は顔を見合わせる。相馬が「どうしてだい?」と尋ねると芳乃はぽつりと言った。
「だって、盗まれたなんて事がバレたら婚約が破談になってしまうじゃない!!」
漸く合点のいった長谷川はうんざりとした視線を芳乃に向けた。




