428話 イケメンの有効活用とお局リーダー
「ごめんくださ~い…!」
──シ~~ン…
ついに糊麦の村にやって来た私達は、村の入り口の集会所的な建物の前に居た。
軽い身体強化を使ってまで呼び掛けるも、中からは人の気配がいつまで経ってもしないまま。
「やっぱり、手が離せねぇんじゃな。運び入れ、手伝ってくれ。」
「分かりました。」
どうやら全員出払っているらしく御者のおじさんの指示の下、鈍亀ちゃんの幌馬車に積まれていた生活用品や食料品を建物内へと運び入れる。
アエモスさんもかっちりスーツ姿のまま両手と風魔法で手伝ってくれるが、失礼眼鏡のフラットさんは素知らぬ顔で脇に突っ立っていた。実に非協力的である。
まあ、私達はやりたくやってるけど彼は護衛と言うかお目付け役だ。初めての土地で何か有るといけないし、周辺警戒も助かるっちゃ助かるけども。
「ほい、ありがとよ。それじゃ行こうかい。」
荷下ろしが終わったらおじさんに連れられ作業現場へと向かう。鈍亀ちゃんと馬車はここで待機だ。適当な草をセットした鉄台座を置いておく。
いやぁ、いよいよ異世界お米とのご対面かぁ…! わくわくするなぁ!
人が居ないか軽く確認しながら住居エリアを抜けて、「畑」へと着いた。
浅く水に浸かった状態で、緑色の草が一面に生えている。まさしく田んぼっぽい。その中を10人強の人影が動いていた。遠目には大きな池も見える。
おじさんと共に一番近い位置に居る人に近づいていく。その人がふと顔を上げた。
「こんにちは! 冒険者ギルドの方から来たテイラと──」
「こっち来んじゃないよっ!!」
大声で怒鳴り返された。ビクッと硬直する。
険しい顔をしたおばさんがバシャバシャと荒々しくこっちに来た。アエモスさんがスッ…と前に出る。
「何やってんの、ここに高魔力連れて来るなんて!」
「落ち着いてくれレモ、この嬢ちゃん達は大丈夫──」
「どこがよっ!!」
おじさんが宥めてくれるが、作業着姿のおばさんの勢いは治まらない。ファーストコンタクト、失敗か。どうしよ…。ここは1度出直し──
「──ご婦人。どうか、落ち着いて。」
聞いたこともない爽やかな声色が聞こえた。後ろの人影がスルリと進み、おばさんの手を優しく手に取る。
「ちょ、汚れちまう…、」
「お仕事で付いたものでしょう? 汚くなどないですよ、ご婦人。」スリスリ…
「ご、ごふじん…?」
「はい、大変な作業の中、急にお邪魔してすみません。」
「い、いや、良いけどね…。」ポッ…
おばさんの顔に目に見えて朱が差した。効果は抜群の様子。
甘ったるい台詞の主は、暗い金髪イケメン眼鏡なフラットさんである。
いや、どっから出てきたそのキャラ…!?
そのまま乙女ゲーキャラみたいな言動でおばさんと言葉を交わし、交渉していく。
「こっちの非常識がご婦人達の仕事を見学したいと駄々を捏ねまして。
お時間が無いところ恐縮ですが、良ければ責任者の方を呼んでいただけますか?」
「あ、んん…、そう、そうかい。ちょ、ちょっと待っておくれ。」
「はい。いくらでも待ちます。」スマイル~…
おばさんがさらに奥の方へと田んぼの畦道を小走りで進んでいった。
御者のおじさんはポカンと口を開けている。アエモスさんは硬い表情のまま沈黙している。
「…フラットさん、もしかして眼鏡の中の精霊を憑依させて、会話を肩代わりしてます…??」
「何故そこでそんな気持ち悪い発想が出てくるんだ…?」くるり…
あ、いつもの研究対象を見る目だ。
「あまりにもキャラ変し過ぎなんですもん。漫画ならボツが出るレベルですよ。」
「お前は本当に、訳の分からない表現を使うな? だから空想癖持ちと間違われるんだ。」
「大きなお世話です、『婦人誑かし男』。」
「」頬がピクピクピク…ッ!
──────────
「あたしがまとめ役やってるリゴンだよ。何の用だい?」
「フラットと言います。こちらの糊麦の生育現場を見学したいと考えています。」
かなり大柄な、貫禄を感じる人が現れた。ジ○リに出てくる肝っ玉母ちゃんタイプ。具体的に言えば、ラ○ュタに出てくるパ○ーの親方の奥さんみたいな人だ。
そして、そんな相手には外面全開なフラットさんを当てる。まあ、私は小娘な上にエルフみたいな見た目でややこしいし、アエモスさんは普通にエルフだしね。適材適所である。
強い魔法なんかが作物に悪い影響を与えるそうで、高魔力持ちは敬遠されているっぽく、私達はその点では大丈夫だが、見知らぬ余所者相手にそれを察するのも無理な話。敏感になるのも仕方ない。
「見学…ねぇ…。」怪訝な雰囲気…
「実のところを申しますと、こっちの青い髪の娘が糊麦を『食べて』みたいと言っていましてね。」
「は…?? のりむぎを、たべる…???」
「ええ。この娘は頭の作りが少々アレでして。しかし、位の高い水エルフと繋がりが有って無下にもできない厄介な存在なんです。無理強いはしませんので、できる範囲で協力をお願いしたい。」
丁寧な言葉なのにディスりが酷い。流石の失礼眼鏡だな、この野郎。まあ、的確な説明ではあるかもだが。
フラットさんがエンアスグリィサのギルドで貰った依頼の紙を取り出すが、まとめ役の女性は自身が正式な立場でないから読めないと断りを入れる。
そして、探る様な視線で私を品定めしてきた。
「テイラと言います。急に押し掛けて、すみません。」
ひとまず自己紹介とお辞儀をする。
「鉄──金属の道具を作り出したりできます。魔物と戦ったりもできます。この村の困り事にもできる限り協力したいと思ってます。だから──」
「」ズイッ!
目の前に女性の太い手が伸びてきた。
「え~と…、握手、ですかね…?」
彼女の手を恐る恐る掴むと、途端に強く握り締められる。
「」ぎゅう~~~ッ…!
い、痛たたたたたたた…!? ち、力、強っ!? な、なんで…!? 手、死ぬぅ…!
「」バッ…
「ったぁ~~…!」
「テイラ、様…。」ホワッと手当て…
「思ったよりも魔力が少ないね…。本当にエルフかい…?」
「この娘は人間らしいですよ。かなり奇怪なので遠慮は要りませんが。」
「ほ~ん。」
乱暴過ぎる存在確認はどうかと思います…。必要性は分かるけど…。
ああぁ、アエモスさんの手が触れたところから温かい波が優しく包んでくれるぅ…。ありがたいぃ…。
今は超絶魔力持ち水精霊なアクアさんを出す訳にいかないからマジ助かる…。
「ま、旦那連中を連れ戻せるなら誰だっていいよ、精々頑張っとくれ。」
こうして、前途多難なお米探しが幕を開けたのだった…。
次回は10日予定です。




