429話 村の苦境と変な奴
まずは信頼を勝ち取ることこそが肝要! と言うことで、実験村の悩みの種「なんか変な夢魔」を退治するミッションを開始しようと思う。
糊麦の田んぼの向こうに見えていた大きな池。その縁を回り込む様に反対側を目指す私とアエモスさん、そして後ろを歩くフラットさん。この3人ならば大抵のことは対処可能だろう。なんとかなるなる。
ちなみに、御者のおじさんは勝手が分かるからと作業手伝いに駆り出されたのでここには居ない。適材適所である。
よく晴れた夏の日射しが燦々と降り注ぐ中、警戒しながら池の側に生える林を抜けると──
「~~~!♪」
「「「フゥウウウウ↑↑↑!!」」」
「「「わあぁあああああ!!!」」」
そこは「音楽ライブ会場」でした…。
「いや、なんでだ。」ビシッ…!
素で虚空に腕を叩きつける私。
「聞いて、いた、通り、ですね…。」
「…、」無言で眼鏡ピカピカ解析…
木々の無い広場に、1つの旋律と複数の野太い歓声が響いていた。
歌っているのは、宙に浮く中性的な…、いやどっちだ? 本当に女か男か判別できない。ともかく、1人の年若いキラキラ赤い髪の人物。10代後半? 下手すると20歳いってるかも。
観客達が見上げる中、歌詞の無いメロディを「らんら~♪♪」って感じで口遊む様に歌い上げている。
その歌を聞いて興奮しきりなのが、20人強の男達。事前情報通りならば先ほどの女性達の夫連中である。あと服装の違いからして冒険者のパーティも複数参加している模様。こっちには女のメンバーも数人居る様に見える。
皆、浮遊赤髪に夢中な様子で、拳を突き上げたりリズミカルに足踏みしたり体を揺らしている。紛うことなき音楽フェスの真っ最中だ。
「いや、本当に訳分からん…。」
あの怪力おばさんが簡単に教えてくれたところによると、ある日あの赤髪が現れ、田んぼで作業していた男達を魅了?し連れ去った。そして日がな一日歌を聴かせ続けているそう。
日が暮れると奴はどこかへ飛び去り、男達も戻ってくる。実に楽しそうに歌の良さを語り、そのまま眠りに就く。そして明くる日、仕事をほったらかして歌を聴く為に再びこうして集まるのだ。
「家族が声を掛けても、会話はできるが歌を聴く行為だけは頑なに譲らず。ただ飯をかっ食らって日々遊び呆ける…。
ある意味深刻だけど、確かに危機感は感じない光景だな…。」
妻達が赤髪を追い払うこともできたのだが、観客と化した彼らが烈火の如く怒り狂い、話にならず作業もできず。そしてあの赤髪がそのうち戻ってきて元通りの流れに。
街に知らせを送って冒険者達が派遣されたりもしたが、一時的に追い払うだけか、魅了されて観客の仲間入りをしてしまうかのどちらかで役に立たず。
本来のリーダーたる一般水エルフさんが居るのだが、その彼も一緒に観客化している為に正式な通達とか依頼ができず、おばさん方はほとほと困り果てている…ってことらしい。
まあ、食べ物じゃなく重要度が低い作物な上、品種改良中で強い魔法なんかが御法度だから街もおざなりな対応になってしまうのだろう。
「しっかし…、あの赤髪…。何か、変な気が…。」
気持ち良さそうに歌っている奴の…、何かが気になる。身体強化で視力を上げ、詳細に観察してみた。
ずっと空中に浮いているが、魔法の光は見えない。服装はなんか男女兼用の古い民族衣裳って感じで、浮いた印象。と言うか、体の輪郭が変にボヤけて見える様な…?
「あ、違う…? あいつ、瞬きしてなくない…??」
ここまで観察して瞼が1度も下りていない気がする。やっぱりそうだ。
宇宙人の擬態か? いや、瞳術を掛け続けるのに凝視してるとか…?
「どう思います? アエモスさん──」
「すば、らし、い、響き、かと、おも、いま、す…!」ズンチャ…♪ ズンチャ…♪♪
「!?」
アエモスさんがホワ~ッ!とした表情になってリズミカルに体を揺すってる…!! まさか、魅了されかけ!?
「フラットさん! アエモスさんが──!」
「…火のエルフ…、存在…否定…、響く、響く、遠い思い出…、闇魔力、火魔力、共に感知できず…、讃美歌、旋律、心が洗われ、光に包まれる…、」ぶつぶつぶつ…
「こっちもかい!?」
確実に様子がおかしい! 分析の言葉に詩が混ざってる…!? 解析光でピカピカする眼鏡を乗せた頭が、かくりかくりと揺れはじめていた。目が虚ろ気味だ。
『──精神干渉を確認。精神干渉を確認。未知の魔法式です。抵抗、不能。異常回復、──失敗。
緊急防壁展開。緊急防壁展開──。』コォオッ…!
フラットさんの(多分)眼鏡から機械音声が流れた。同時に強い光が放たれ、彼の顔の前に「輝く盾」が出現する。
「!!」
あ、赤髪がこっち見た!
と思った瞬間にはピューッと空の向こうに飛んでいく。逃げられたっぽい、けど今は──、
「ごめんなさい、アエモスさん!」──バヂンッ!
「ひきゃっ!!?」
鉄ハリセンで叩いて治す! 呪怨でも魔法でも解除できるはず。
可愛らしい悲鳴が漏れ、涙目で頭を抱えているが多分大丈夫だろう。
「そして、こっちも──!!」
「待て。無事だ、止めろ。」ビシッ…
手を前に突き出し、私に制止の言葉を掛けるフラットさん。光の盾は消失し、振り払う様に頭を左右にブンブンしている。
「そうですか…──でも念のため振り下ろしォ!」バヂン!!
「うぐっ!?!?」
良い機会だからついでに叩いておけば、潤んだ瞳で鋭く睨みけられる。良し良し、意思の光が宿ってるね、大丈夫そう。
「耳が死んでるのか…!?」話を聞け…!
「はっはっはっ、聴力が普通から無事なのかも──」
「お前らぁ!! 何しやがったぁ~~!!!」
見れば観客だった男達がズンズンとこちらに向かってきていた。全員憤怒の形相。せっかくのライブを邪魔されて怒り心頭のご様子。
「漫才コントの練習です!」ハリセン片手に適当発言!
「よくも歌の邪魔を~!」
「仕置きが必要みてぇだな…!」
「ガキどもが…!」
「もっともっとあの歌をー…!!」
ふっ、どうやら鉄ハリセン待ちらしい。ここからは、叩いて叩いておらおらおらぁ!の時間の様だ。全員、そこに直れ! 穀潰しども! ぶん伸してやらぁ!!
次回は17日予定です。




