426話 足漕ぎ外輪船とメンタル弱々
──バシャバシャバシャ! バシャバシャバシャ!
「~~っ!♪」
「~、~、~♪♪」
鉄製の外輪船──船体の左右に大きな水車を付けた足漕ぎボート──が力強く河面を叩いている。
暑いくらいの快晴だが、飛び跳ねる水飛沫のおかげでなかなか涼やか。日除けの薄鉄屋根も有るしね。
私は身体強化全開で足のペダルをなんとか回しているが、隣で同じく足を動かしているアエモスさんは楽しげな雰囲気に満ちていた。
疲労を紛らわす為に歌っているアニソン(ハ○レンの「瞬○センチメンタル」→「リ○イト」→「メ○ッサ」辺りを適当ループ)にも、完璧な音程・リズムでハーモニーを奏でてくれている。意味の通じない単語が多いだろう異世界の歌を完全コピーとか、流石は風のエルフだ。
おかげで良いテンションを維持したまま進んで来れた。なかなかの移動速度である。
「──テイラ様、見えて、きましたよ。あちらが、エンアスグリィサ、です。」
「おお~! あれが!」
河のかなり先、右手の岸辺に街の一角らしき構造物が見えてきていた。
ついに来ました、目的の街! エンアスグリィサ! 発音しづらいネーミングだね!気にならないけど!
ここが有する畑の1つが、推定異世界白米たる「糊麦」の生産場所なのだ!!
ここに来るまでまあ色々と有った…。がまあ、些細なことだと水に流そう。
『卑屈娘が起こした出来事ばかりだしね。』ぽよよよん~…
船の舳先に陣取るアクアさんが嫌味な念話を送ってきた。この河から立ち上る水魔力が「美味しい」?とかで、昼間なのに自主的に外に出ているのである。
大きな河で、他の船の往来から離れてて人目には付かないのもポイントっぽい。
「異議有り、失礼眼鏡さんが原因のことのが多くない?」
戦闘力の測定だって魔物をけしかけられたり、対面即座に因縁を付けてきた冒険者パーティーとバトったり、立ち寄った町の水エルフと諍いになったり…。
『その冒険者達を1人で叩きのめしたのも水エルフを心酔させたのも、君だったと思うけどね?』魔物はいつものことだろう…?
魔法攻撃主体の戦闘なら私の呪鉄は初見殺しなだけだし、その水エルフさんが崇めたのは高位水精霊の方だろうに。
あと、全自動魔物避け機なシリュウさんと一緒のことが多かったから、歩けば魔物と遭遇しまくりとか久々で疲れるんすよ…。
「」すぃー…
斜め後方を見れば、浮遊椅子で水面を滑る様に移動するフラットさんが居る。
呪鉄と魔獣鉄のハイブリッド工法なこの船に「沈むところを観察してやる。」と搭乗を拒否した薄情者だ。
精霊を道具みたいに扱うから自然信仰派のエルフからは忌み嫌われ、強引なフィールドワークで狩り場や採集場所を荒らされた冒険者から軽く恨まれている問題児である。
いやまあ、実はあの見た目で30代後半らしいけど…。高魔力持ちの老化抑制効果め…。
「20代前半にしか見えない俺様系イケメン有能研究者眼鏡とか物語の主人公様なんだか…。」
(テイラ様の、語彙力は、独特で、不思議な音感で、面白い、です、ね。)
『ほら、風の子に負担が集まってるよ。足を動かして。』
ここまで来たら別にもう、緩やかな流れに任せてもいいんじゃないかな…?
──────────
『──愛し子様がこちらを見ているよ、手を振ってあげたらどうだい?』
「お前がしろ。」ポン、フォン…
『はは、この姿では無理だよ。』
椅子を自動操作モードにし、立ち上げた仮想ウィンドウの情報を熟読しているフラットがぞんざいに言葉を返す。
「エルフにも成れるだろうが。10代の小娘に心折られた泉エルフ?」
『…ぅぐ…。』
翼で胸を押さえて苦しんでいるのは水で出来た小鳥型の使い魔。中身は泉氏族の兄の方、ミンハトースである。
彼らが神の様に崇める激流蛇、その未知の分霊を連れた人間の少女を懐柔しようと数々の計画を立てていたにも関わらず、「妹の育成が下手くそ。(意訳)」の言葉でショックを受けたまま未だに立ち直れていない心臓ヨワヨワ族長である。
結構前から合流していたのだが、テイラとは顔を合わせない様に隠れ続けているのだ。それを毎夜アクアにからかわれ、元部下からは無関心を貫かれていた。
あまりにも嘆かわしい姿にフラットが溜め息を吐きながら顔を向ける。
「あの『非常識』はお前に悪感情など持っていないと未知分霊も風従者も言ってただろうが。さっさと陣営に取り込め。うかうかしてるとシリュウが戻ってくるぞ?」
『…、悪意、無く…、真実を突き付けられたから…、精神にキてるんじゃ…、ないか…。』
「五百年を生きたエルフがガキみたいなことを言うな。」
『母様…、父様…、不出来な息子でごめんなさい…。
私では、あの子を…、ミャーマレースを………、』ずぅ~~~ん…
演技でもなく負の感情を溢れさせる水鳥に、フラットはじっと解析の眼鏡を向ける。
もしや「非常識」の「呪怨」には精神を乱す能力が有るのか?と疑うも、精神異常を付与する「汚染」も、正気を奪う「略奪」や「深淵」も当然反応無し。そも「世界樹の欠片」と言う最高位の霊魔存在を有する泉兄がそれらに抵抗できぬ訳はなく。
(魔力耐性を貫通可能な呪鉄、その作用が精神にも及ぶ?だが鉄に触れてすらいないのにここまで錯乱しているそもそも分身体で二重三重に対抗策を施した上でこれだ、限界を測る為に突き放した態度を取っている俺には何の影響も無い、鉄に触れまくっているにも関わらずなんなら血液試料にすら直接触れているのに。
むしろ距離を取ることで呪怨が増す?あの女はエルフを標的にしている?カエルラフォーンス妹の方は夢魔女王の直系に堕ちていると聞くがそれも『非常識』の仕業?? まったく以て解析しがいのある常識はずれの塊だ。そも殺傷能力の高さと本人の気質があまりにも合っていない、『激情』の小刀で腹を刺され体内に融合した経緯から来るもの?やはり1度腹部を直接観察し──)ちらり──
「」ギィンッ…!!
目をかっ開いて振り返るテイラと視線が合った。思わず体が震える。
(観察、そう、離れて観察するに留めるとしよう…。)眼鏡を外して目を閉じる…
『ふふ…、あのくらい強い感情で拒絶されるなら、まだ良かったのにね…。』憐憫の眼差しが…、忘れられない…
そんなこんなで一行は、次なる冒険の入り口に立つのだった。
次回は26日予定です。




