表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

425/429

425話 一方その頃、竜狩りに向かったお爺さんは

 ──ゴオオオオオオ…ッ!!!!



 季節は夏にも関わらず、氷点下を下回る暴風が吹き荒れている。

 荒涼(こうりょう)とした海岸線に疎らに生える木々は枯れて()てつき、小動物の影は無く。およそ生命の伊吹が感じられない光景が広がっていた。



「ガアアアアアアアッ!!!!」


 そんな中、とてつもない魔力を纏った咆哮(ほうこう)が轟く。

 上空を飛ぶ青白い巨影からだ。大きく広げた1対の飛翼に、長い尾。声を発した頭部には4本の角。

 死の大地に君臨する絶対王者の(ごと)し存在は現在、苛立(いらだ)っていた。不遜にも己を見上げる矮小(わいしょう)な「人間(ムシ)」が居るからである。



「…。」


 下手な存在が聞けばそれだけで気絶しかねない魔咆哮を、微動だにせず受け流す黒髪の少年が1人。

 只人(ただひと)であれば数分で凍死する空間に、赤い革服を(なび)かせ堂々と立っている。



「…。よりによって、氷竜(アイスドラゴン)とはな…。」はぁ…


 あまりに絶体絶命の場面で、(うれ)いの溜め息を溢す少年。彼はもちろんただの子どもではなく、特級冒険者「竜喰い(ドラゴンイーター)」のシリュウである。


 その呟きは己に死を運ぶ氷竜(しにがみ)を嘆く言葉にも聞こえる。しかし、内情は



(氷竜(あれ)の肉は大して美味くねぇんだよなぁ…。しかも飛竜みてぇに空を飛びやがって対処が面倒だし…。)


 と全く別の意味での悲壮感が(にじ)むものだった。


 ここは大陸中央の最北部。貨幣鋳造と鉱山都市群「ミネラ・フェッリ」のさらに北側、「嵐の海」に接する魔境(まきょう)領域(りょういき)である。

 シリュウは、クソハゲこと轟雷亀(ごうらいき)の化身に代わって竜退治にやってきていたのだった。



(これならさっき仕留めた風の竜(飛竜)どもの方が食い甲斐(がい)が有るか。)


 氷竜から放たれた魔法の吹雪を涼しげな表情で──実際に彼にとってはとても涼しい──受け続ける異常少年は、そんな呑気なことを考えていた。


 その様子に怒りを(つの)らせた氷竜は魔法を中断、恐ろしい量の体内魔力を勢いよく練り上げ始める。途端に、周囲の気温が急降下。水蒸気が瞬間的に凍り、青き魔力光をキラキラと反射するダイヤモンドダストが現れた。



(…。来る、か。)


 必殺の一撃の予感に、ごそごそと懐を探るシリュウ。その手には拳大の褐色魔鉄(硬化魔鉄)塊が握られた。



「──ゴウォアッ!!」──ジュアアアアッッ…!!


 白く(まばゆ)い光が氷竜の(アギト)より放たれた。

 周囲の熱エネルギーを強制的に搾取・凝縮(ぎょうしゅく)し己の魔力と混ぜ合わせた灼熱光線(ビーム)である。


 回避動作をすることなく黒髪少年は魔鉄を軽く投げ上げ拳を前に振り抜いた。そこに直撃する熱線。



(…。暑苦しい…。)ゴオオオオ…!!


 金属ですら溶ける極大の熱を浴びながらシリュウは、有機生命とは思えないふざけた感想を抱く。

 熱線は継続して放たれ続けるが、その肉体はおろか黒の角兜(つのかぶと)や服の類いすら欠片も損傷している様子は無い。



 ──ビュンッ ビシッッ!!

「ゴアアアアアアッッ!?」


 熱線を吐いていた氷竜が突然、悲痛な絶叫を上げた。左翼の付け根付近にシリュウの火魔法で超加速された褐色魔鉄(かっしょくまてつ)の弾丸が直撃したのだ。

 その先端には少量の呪鉄(じゅてつ)が接合されており、魔力耐性を突破しながら衝撃で潰れ変形。勢いそのままに強靭な竜の肉体を(えぐ)り貫き、その(はがね)の如し骨すら砕き折っていた。

 通常有り得ない損傷と痛みに、魔力操作が乱れグラリと傾く竜の巨体。飛行の魔法能力が維持できず上空より墜落を始める。



「さて、これで(さば)けるな。」すたすた…


 死の熱線を受けていたとは思えない気軽さで落下地点へと歩きはじめるシリュウ。地上に落ちればこっちのもの、後は煮るなり焼くなり好きにできる。



「待てよ? テイラの奴が言ってたな。確か『ルイベ』…だったか。」


 ──ドゴンッ!!!!


 川魚の身をその寄生虫ごと凍らせて安全に頂く北国独特の調理法、ルイベ。

 生や焼きで食べてもいまいちな氷竜の身を、逆に凍らせてみたら美味しくなるのでは? ととんでもないことを(ひらめ)いたシリュウ。巨体の激突音にすら無頓着(むとんちゃく)に思考を加速させる。



「いや、待て。どうやって耐性をぶち抜いて竜肉を凍らせる…? 放置で(自然に)は無理だ。土エルフどもに専用の魔導具でも(つく)──」

「「──ゴアアアアアア!!!」」


 後方で飛竜の解体をしているはずの土エルフ達が何か有効な手段は有していないかと思案していると、海の向こうから複数の咆哮が(とどろ)いた。



「氷竜…。北の縄張りで何か有ったか?」


 追加でやって来た新たな氷竜達。どうやら複数の個体が陸地側に飛来していたらしい。勢力争いに負けたか、何らかの天変地異から逃げてきたか。


 今のところ気配は無いが〈呪怨(のろい)〉の可能性も考えられる。この北の海の(はる)かな底には、呪具(じゅぐ)もどきを量産し続ける『〈激情(げきじょう)〉の魔王』が植わって(・・・・)いるのだから。


 まあ、単に暇潰しにエルフを襲いに来ただけと言うことも考えられる訳だが。

 それらは脇に置いておいて。



「こいつらにやらせてみるか。」ニヤリ…!


 奴らの吹雪の魔法なら氷竜(同朋)の肉を凍らせることも可能かもしれない。

 シリュウは闇魔石製の解体用短刀を取り出し、口角を吊り上げるのだった。



次回は19日予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ