424話 エルフの町の絶望と希望
「………あぁああぁぁ~~~………。」はあぁ~~…
よたよた歩く、きらびやかな町中の大通り。吐き出された溜め息が空気を汚そうと拡散するも、瞬時に浄化されている様な錯覚さえ起きる。
白魚が泳いでいそうな清流のごとき水路。清潔で落ち着いた色合いの光沢を放つ、木造らしい建物群。山羊魔物に引かれるやたら頑丈そうな荷馬車。私の鉄靴すら包み込む不思議な反発力の石畳。
降水の一切を防ぎきる巨大な防御膜に、曇天を打ち消す様に明るく照らす魔導街灯…。笑顔で活気溢れる通行人に、物理的に煌めく青や橙色を中心とした髪を持つ高魔種族達が時折混ざる…。
全くもって魔導都市。森の中で木の上に住む地球のエルフのイメージからは欠け離れた感じは有るが、剣と魔法のファンタジー世界としては素晴らしい町であろう。
この規模で周辺一帯の他都市の中では下の方だと言うから驚きだ。
ふふ…、それに比べて私はなんと矮小なことか…。
「…もう…、町出よっかな…。」雨天の旅路、速攻再開~…
「来たばかりだろうが世迷い事を抜かすな。」
「…すみません…。」
前を歩くフラットさんが軽く振り返りながら野次を飛ばしてきた。相変わらず眼鏡越しの視線が鋭いぜ…。
「陰気が過ぎる。宿に戻って寝ろ。」
「…そう、します…。」
「テイラ様。もう、少し、屋台など、楽しみましょう? 私が、供を、しますから。」
「あ、そっか…。私1人じゃ、何もできないですもんね…。」記憶力もミジンコ…
宿に戻ることも、部屋を開けることも、照明のオンオフすらもできないからね…(泣) 役立たず、ここに極まれり…。
──────────
今私達3人が居るのは、会談の有ったエクセンタースからそこそこ南に下った小規模の町である。
浮遊椅子に引かれた荷車の旅の途中、近くを通りかかったので雨宿りや買い出しの為に入町したのだ。
断続的に降る雨自体は鉄屋根とか風魔法とかアクアさんのマジカルパワーな傘とかで問題はなかったが、食料は何ともし難かったからね。エルフの町に興味は有ったし。
町に入るには身分証明が必要だったけど、フラットさんとアエモスさんが一緒だったから問題は無かった。まあ、マボアで作ってもらった私の仮ギルドカードでもそこはいけたっぽいが。
ともかく町に入って、その独特の造りに感嘆していたのも束の間。
私に次々と不幸が襲ってきた。
いや、一言で言えば「魔力が無い人間には人権が無かった」ってだけなのだが…。
「『魔導具』とは、『魔力』を導く器具、のこと…。決して、超絶効果の道具じゃない…、のである…。」
つまりは、動力源に魔石なんかが嵌まっていても「起動する意思」を伝えるには微弱でも魔力が必要と言うことだ。
ここは大陸中央で、エルフがたくさん居て。共に生活する人間達も軒並み魔力持ちばかりで。そんな人達ばかりが暮らす町中には魔導具が溢れかえっていた。
道の脇に立つ魔導案内板表示。店先の自動開閉扉。ギルドの施設に備えられた給水魔導具。大量の書類を運ぶカート。素材の鑑定をするルーペ。不思議な色合いのインクを生成するペン。
本人証明は魔法板の署名とそこに籠められた魔力で識別。それに伴う魔力を介した仮想通貨的な金銭のやり取りまで…。
どこもかしこも、魔力、魔力、魔力っ!
「水エルフっぽい見た目だから存外馴染めるかもとか思ってた、過去の自分を張り倒したい…。」
こんなの始まりの町の方がまだマシだよ…。
シリュウさんは魔導具だらけの街に入るのを嫌っていたが、その気持ちが良く分かる。こんなところではまともに生活できる訳が無い…。
当然の様に魔法袋を持ち次々と品物を買い込む2人を尻目に、ただただ付いていくことしかできない私は、ひどく惨めだった…。
──────────
「ああ~…、このお魚、美味しいぃ…。」もぐもぐ…
焼き魚に掛かる、ポン酢とも全然違う酸味の効いたタレがやたら美味い。少々噛み応えが強いどっしりパンと意外と合う。
他には野菜たっぷりの鳥肉スープと、豆もやしっぽい何かと玉子の炒め物が大きな木皿でテーブルに並んでいる。あまりに味気の無い町の散策の後、料理店へと足を運んだ私達は遅めの昼ご飯と洒落込んでいた。
「料理は意外と普通で良かった…。」魔導具だらけの町と比べて…
「お前が食ってるそれは普通じゃないぞ?」
「はい…?」
対面に座るフラットさんが小バカにした様な表情でおかしなことを言ってきた。白い魔力光を纏った右手で炒り玉子を摘み上げ口に運ぶあなたの方がよっぽど奇妙なんですけどね。何故そこまでの塊をいっぺんに掴んで崩れない、物理法則を無視し過ぎだろ。
まあ、魔法手で食べている人が大多数だから、おかしいのはこの場合は私の感性だけど。
「この店の人気商品って話じゃなかったでしたっけ。結構大きな川魚っぽいですけど…、魔魚とかですか?」
「その汁の方だ。そいつは魔蟻、マジックアントの体内生成酸を抽出したものだぞ。」
「!? ってことはこれ、火魔蟻の蟻酸…!?」
なら、タレに入ってる黒い粒々も蟻の体か…!?!? 胡椒じゃないなとは思ってたけども!
驚愕していると、同じ物を食べているアエモスさんが飄々と口を開いた。
「いえ、蟻酸ですけど、使って、いるのは、水魔蟻、です。水魔法で、酸の成分だけを、抜き取り、集め、適切に加工処理した、もの、だとか。
お口に、合いません、でした、か…?」
その言葉に改めて木皿の上の焼き魚を見つめる。そして鉄箸で摘まみ上げてパクっ。
「癖の無い酸味で全然いけます。やっぱりちゃんと美味しいです。」
「それは、良かった、です。」
「…、下手物食いだな…。」
ははは、小さい子どもなんかは公園でダンゴムシとかアリとかを口にするのは割りと聞くし、記憶が無いだけで私も食べている可能性は既にある。
別に見た目そのままでなし、食用に育てられた上にきちんと味のバランスを考えられたものなら問題は無いのである。
「大陸中央には、動植物、昆虫、魔物、など様々な、種類のものが、研究され、生活に、活用されて、います。新たな、出会いも、多い、ことでしょう。」
「良いですね~。」
(やはり『シリュウの女』は食に狂ってるな…。)何を笑ってんだ…
ふふふ。これは「糊麦」とか言う接着剤系植物も、食用に転用できる可能性有りだな。楽しくなってきた~…!
次回は12日予定です。




