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THE GLOBAL  作者: YATA0401
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第四章 記録された未来

「こちらハウンド。」


俺は通信機を手に取り、周囲を警戒しながら報告を続ける。


「住民は敵対行動なし。ただし全員が機械的な行動を取っています。」


『了解。』


オーバーウォッチの落ち着いた声が返ってくる。


『予定通り、まずは資源回収を優先しろ。原因調査はその後だ。』


「了解。」


通信を終えると、研究回収班のリーダーであるレイ博士が前へ出た。


「では、資源の調査を開始します。」


俺たちは周囲を警戒しながら、街の外れへ向かった。


そこには緑豊かな森林が広がり、その先には露出した岩場が見えていた。


研究員が携帯型分析装置を岩に当てる。


ピッ。


数秒後、装置の画面に文字が表示された。


「これは……。」


研究員の表情が変わる。


「鉄鉱石です。」


フォックスが岩を見つめる。


「普通の鉄か?」


「いえ。」


研究員は首を振る。


「鉄鉱石に非常によく似ていますが、含まれている未知の元素によって強度が大幅に向上しています。」


別の研究員も興奮した様子で続けた。


「重量は従来の鉄より軽い。それでいて耐久性は数倍……。」


「これなら地下都市の建造物も強化できます!」


レイ博士はすぐに指示を出した。


「サンプルを回収。」


研究員たちは慎重に岩石を切り出し、専用コンテナへ収納する。


コンテナ側面の装置が青く光った。


「GE本部へ転送準備。」


「転移装置接続確認。」


「転送開始。」


コンテナが青白い光に包まれ、一瞬で姿を消した。


ファルコンが少し驚いた表情を浮かべる。


「本当に送れた……。」


研究員は笑顔で頷く。


「世界線転移装置は人員だけでなく、一定サイズまでの物資も転送できます。」


「これで本部でもすぐ分析できます。」


さらに進むと、小さな採掘施設のような場所があった。


設備は無人だった。


ポンプだけが規則正しく動き続けている。


研究員が地面へ測定器を差し込む。


数値が一気に跳ね上がった。


「石油反応!」


「しかも純度が非常に高い!」


地下から採取された黒い液体を容器へ移し、こちらもGE本部へ転送する。


「鉄鉱石……いや、鉄鉱石に似た新鉱物。」


「高純度石油。」


「どちらも人類にとって大きな成果です。」


レイ博士は安堵したように息を吐いた。


俺は周囲を見渡す。


相変わらず住民たちは感情のない表情で歩き続けていた。


誰一人として、俺たちに興味を示さない。


「……妙だ。」


シャドウが呟く。


「この規模の採掘施設なのに管理者がいない。」


「全部、自動化されてるのか。」


フォックスも辺りを見回した。


その時だった。


ファルコンが何かを拾い上げる。


「ハウンド。」


振り返ると、彼は一冊の本を持っていた。


茶色く変色した古い本。


表紙には大きく文字が書かれている。


『世界史 近現代編』


「教科書……?」


俺たちは木陰へ移動し、本を開いた。


最初のページには、この世界の歴史が記されていた。


戦争。


国家の誕生。


宇宙開発。


情報革命。


環境問題。


どれも俺たちが学んできた歴史と、ほとんど同じだった。


フォックスがページをめくる。


「ここまでは俺たちの世界と変わらないな。」


「違いはこの先だ。」


シャドウが次のページを指差す。


そこには大きな見出しがあった。


『人類補助AI計画』


研究員たちも息をのむ。


本文にはこう書かれていた。


人類は事故や病気、判断ミスを減らすため、脳内補助AIの開発に成功した。


さらにページをめくる。


AIは人間の思考を補助し、生活を豊かにした。


その次のページ。


文字の色が赤くなっていた。


AIの性能向上に伴い、多くの人々が脳内AIを埋め込むようになった。


ファルコンの表情が曇る。


「埋め込む……?」


さらに読み進める。


AIは交通事故をなくし、犯罪率を大幅に低下させた。


医療、教育、行政、軍事。


あらゆる分野でAIが判断を代行した。


フォックスが呟く。


「便利そうだけど……。」


その次のページを開いた瞬間。


全員が言葉を失った。


そこには一枚の写真が載っていた。


街を歩く人々。


誰もが無表情。


一定の間隔。


同じ歩幅。


同じ姿勢。


まるで、今俺たちが見ている光景そのものだった。


その下には、短い文章が記されていた。


AIは人類の判断を最適化した。


人々は感情による無駄な行動を減らし、社会は完全な効率を実現した。


さらに最後のページには、こう締めくくられていた。


人類は争いをなくした。


人類は失敗をなくした。


そして――


人類は、自ら考えることをやめた。


静寂が流れる。


誰も口を開かなかった。


俺はゆっくりと顔を上げる。


目の前では、一人の少女が花壇の横を歩いていた。


転びそうになっても表情一つ変えない。


立て直し、歩き続ける。


笑わない。


泣かない。


怒らない。


ただ、最適化された行動だけを繰り返す。


俺は通信機を握りしめた。


「こちらハウンド。」


『オーバーウォッチだ。』


「この世界の歴史が分かりました。」


俺は教科書を見つめながら報告する。


「環境汚染は克服されています。」


「ですが、その代償として……人類は脳内AIによって思考を補助されるようになりました。」


一度息を吸う。


「補助はやがて支配へ変わり、人々は感情や自発的な判断を失っています。」


通信の向こうで、オーバーウォッチは静かに言った。


『……つまり、この理想の世界は。』


「はい。」


俺は目の前を歩く人々を見つめる。


「地球は救われました。」


「ですが、人間らしさは失われていました。」


オーバーウォッチはしばらく黙っていた。


やがて、低い声で答える。


『……調査を継続しろ。』


『GEが目指す未来は、こんな世界ではない。』


「了解。」


通信を切ると、風が森を揺らした。


美しい空。


澄んだ空気。


豊かな自然。


誰もが夢見た理想の地球。


だが、その理想の中で、人類だけが"人類"ではなくなっていた。


第四章 終

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