第五章 酸素という希望
教科書を読み終えた後も、俺たちは任務を続けた。
「資源回収を再開する。」
俺の一声で全員が動き出す。
レイ博士たちは周囲の調査を進め、特殊部隊Aチームは周辺の警戒を担当した。
数時間後。
研究回収班のコンテナには、鉄鉱石に似た未知の鉱石、高純度石油、数種類の植物サンプル、土壌、微生物などが次々と収納されていく。
「転送準備。」
「GE本部との転移回線接続。」
「転送開始。」
青白い光がコンテナを包み、一つ、また一つとGE本部へ送られていく。
そのたびに地下都市では歓声が上がっていることだろう。
人類にとって、一つひとつが未来への希望だった。
「これで主要な資源はほぼ回収完了です。」
レイ博士がタブレットを確認しながら言った。
「想定以上の成果ですね。」
フォックスが笑う。
「今回は当たりの世界線だったな。」
「まだ油断はできない。」
シャドウが短く返す。
その時だった。
ファルコンが遠くを指差した。
「……あれって何だ?」
森の奥。
木々の間から、巨大な銀色の円柱がいくつも見えていた。
近づくにつれ、その大きさが分かる。
一本だけでも建物ほどの高さがある。
「タンク……?」
俺たちは慎重に施設へ近づく。
フェンスには錆びた看板が残されていた。
『大気管理施設 第七貯蔵区画』
「大気管理?」
レイ博士が首をかしげる。
施設内は静まり返っていた。
機械だけが低い音を立てながら、今も稼働し続けている。
研究員が分析装置を取り出し、巨大なタンクへ接続する。
数秒後。
「……え?」
研究員の顔色が変わる。
「どうした?」
フォックスが尋ねる。
「信じられません……。」
研究員は画面を何度も見直した。
「このタンクの中身……。」
「酸素です。」
「酸素?」
ファルコンが聞き返す。
「純度九九・九%以上。」
「しかも……。」
研究員はタンク全体を見上げた。
「一基だけで数千トン規模あります。」
全員が思わず巨大なタンクを見上げる。
一本ではない。
二本でもない。
施設内には、同じ巨大タンクが何十本も並んでいた。
レイ博士が計算を始める。
数秒後、その手が止まる。
「全部合わせれば……。」
「何十万トン規模になります。」
フォックスが目を丸くする。
「そんな量、何に使うんだよ。」
誰も答えられなかった。
俺は通信機を取り出す。
「こちらハウンド。」
『オーバーウォッチだ。』
「新たな発見です。」
「巨大な酸素貯蔵施設を発見しました。」
通信の向こうが少し静かになる。
『……酸素?』
「はい。」
「純度は非常に高く、貯蔵量は何十万トン規模と推定されます。」
オーバーウォッチの声が少し強くなる。
『本当なら地下都市を維持できる量だ。』
「こちらでもそう判断しています。」
レイ博士が横から頷いた。
「転送は可能です。」
俺は通信を続ける。
「転送設備を起動します。」
『許可する。』
『地下施設側でも受け入れ準備を開始した。』
研究員たちは巨大な転送アンカーを設置し始めた。
通常のコンテナ転送とは違う。
超大型物資専用の設備だ。
「転送座標固定。」
「GE本部接続。」
「圧力安定。」
「転送可能です!」
レイ博士が俺を見る。
俺は頷いた。
「開始。」
次の瞬間。
巨大なタンク全体が青白い光に包まれる。
空間がわずかに歪み、数千トンもの酸素を収めたタンクがゆっくりと消えていった。
数秒後。
通信機から歓声が響く。
『成功です!』
『酸素タンク、地下都市へ到着!』
『漏れなし!』
『酸素供給システム接続開始!』
さらに別の研究員の興奮した声が聞こえる。
『地下居住区の酸素備蓄率が一二%上昇!』
『これで当面の酸素不足は大きく改善できます!』
オーバーウォッチも珍しく嬉しそうだった。
『よくやった。』
『これだけでも今回の任務は歴史に残る成果だ。』
フォックスが小さくガッツポーズをする。
「やったな!」
ファルコンも安堵したように笑う。
「地下のみんなが助かる……。」
俺も胸をなで下ろした。
だが、その時。
シャドウが施設の奥を見つめたまま言った。
「……妙だ。」
「何が?」
「酸素が多すぎる。」
その一言で全員の表情が引き締まる。
確かにそうだった。
この世界は森林に覆われ、大気も正常だ。
普通なら、これほど莫大な量の酸素を人工的に貯蔵する必要はない。
レイ博士も腕を組む。
「災害への備え……?」
「いや。」
別の研究員が首を振る。
「それにしては規模が異常です。」
「この量は国家備蓄どころではありません。」
俺は巨大なタンク群を見渡した。
まだ数十本。
いや、その奥にも同じタンクが並んでいる。
まるで、この世界が酸素を"集め続けなければならない理由"があるかのように。
「こちらハウンド。」
俺は再び通信機を開く。
「酸素の転送は成功しました。」
「ですが、新たな疑問があります。」
『聞こう。』
「この世界には、なぜこれほど大量の酸素が保管されているのか……。」
「その理由がまったく分かりません。」
通信の向こうで、オーバーウォッチは静かに答えた。
『……その答えが、この世界最大の秘密かもしれない。』
俺は巨大な酸素タンクを見つめる。
美しい自然。
澄んだ空気。
そして、必要ないはずの膨大な酸素。
W-001には、まだ誰も知らない真実が眠っていた。
第五章 終




