第二章 最初の任務 ― W-001 ―
GE本部、ブリーフィングルーム。
円形の部屋の中央には巨大な立体ホログラムが映し出され、壁一面には世界各地の地下都市や研究施設の状況が表示されていた。
俺たち特殊部隊Aチームは、それぞれ席に着く。
数秒後、自動ドアが開いた。
「お待たせ。」
軽い口調で部屋へ入ってきた男。
GE全特殊部隊司令官――オーバーウォッチだった。
「あれ? 今日は全員いるな。誰か寝坊したかと思った。」
フォックスが笑う。
「司令官、それは俺たちを何だと思ってるんです?」
「フォックスは五回くらい寝坊しそうだからな。」
「ひどっ!」
部屋に笑いが起きる。
ファルコンも少しだけ笑い、シャドウは腕を組んだまま口元だけ緩めていた。
俺はため息をつく。
「司令官、今日は随分機嫌がいいですね。」
「任務前くらい笑っておかないとな。いつも難しい顔をしていたら部下が疲れるだろ?」
それがオーバーウォッチだった。
戦闘中は誰よりも冷静で的確な判断を下す。
しかし戦いが終われば、隊員たちと冗談を言い合う陽気な司令官。
だからこそ、誰もが彼を信頼していた。
「さて。」
オーバーウォッチの声色が変わる。
部屋の空気が一瞬で引き締まった。
「仕事だ。」
中央のホログラムに、一つの球体が映し出される。
それは地球だった。
そして、その周囲に無数の光点が現れる。
「これが世界線。」
フォックスが口笛を吹く。
「思ってたより多いな。」
「観測できているだけでも数百万以上ある。」
オーバーウォッチは光点の一つを拡大した。
そこには、
W-001
という文字が浮かび上がる。
「GEが最初に正式調査を行う世界線だ。」
俺は画面を見つめる。
「情報は?」
「現在判明している内容は少ない。」
画面が切り替わる。
そこには青い空。
広い海。
緑豊かな森。
俺たちの世界では失われた景色だった。
ファルコンが思わず息をのむ。
「……綺麗だ。」
「同じ地球とは思えない。」
シャドウも静かに呟いた。
オーバーウォッチは説明を続ける。
「W-001では環境汚染が起こらなかった可能性が高い。地球環境は極めて良好だ。」
「じゃあ、その技術を持ち帰れば……。」
俺が言うと、オーバーウォッチは頷く。
「それが今回の目的だ。」
新たなホログラムが表示される。
そこにはGE研究部所属の隊員たちが映っていた。
「今回、お前たちAチームは研究回収班を護衛する。」
「護衛対象は六名。」
「彼らは環境維持技術や新エネルギー、未知の資源を回収する。」
「お前たちはその護衛に専念しろ。」
フォックスが腕を組む。
「敵は?」
「不明。」
「不明?」
「向こうの文明レベルも軍事力も分かっていない。」
部屋が静まり返る。
オーバーウォッチは続けた。
「だからこそ慎重に行動する。」
「無意味な戦闘は禁止。」
「現地住民との不要な接触も避けろ。」
「もし交戦する場合は、研究回収班の安全を最優先にしろ。」
「了解。」
四人同時に返事をする。
オーバーウォッチは少し笑った。
「ちなみに。」
嫌な予感がした。
「向こうで変な生き物を見つけても連れて帰るなよ?」
フォックスがニヤリと笑う。
「犬くらいなら……。」
「ダメ。」
「猫。」
「ダメ。」
「ドラゴン。」
「もっとダメ。」
部屋に笑いが広がる。
「残念。」
「残念じゃない。」
オーバーウォッチは笑いながら頭を振った。
「GEは動物園じゃないからな。」
緊張していたファルコンも思わず吹き出した。
だが次の瞬間、司令官の表情が真剣になる。
「……だが、一つだけ覚えておけ。」
部屋の照明が少し落ちる。
ホログラムには、世界線転移装置の映像が映し出された。
巨大なリング状の装置。
その中心では青白いエネルギーが渦を巻いている。
「世界線は未知だ。」
「何が起こるか誰にも分からない。」
「だから絶対に一人で行動するな。」
オーバーウォッチは俺たち一人ひとりを見る。
「必ず全員で帰って来い。」
その一言には、司令官としてではなく、仲間としての願いが込められていた。
俺は静かに頷く。
「了解です。」
フォックスも拳を握る。
「全員で帰ります。」
ファルコンは緊張した表情ながらも力強く答えた。
「必ず。」
シャドウは短く言う。
「約束する。」
オーバーウォッチは満足そうに笑った。
「よし。それじゃあ準備開始。」
「出発は三時間後。」
「目的地――」
ホログラムに大きく表示される。
WORLD LINE W-001
それが、人類史上初となる世界線調査任務の始まりだった。
そして俺たちはまだ知らない。
この世界線での出会いが、人類の未来だけでなく、すべての世界線を巻き込む大きな運命の始まりになることを。
第二章 終




