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第七話 平行線の先


 人影もまばらな魔術演習室。

 授業の合間や放課後、ここでクロードと落ち合って課題に取り組むのがリナリアの日課になりつつあった。


 結局クロードが一人で術式を読み解き、一人で魔法陣を描き、その間リナリアはと言うと………基礎課程でも基礎の基礎、ひたすら魔力調整の練習をすることしかできなかった。

 ところがいざクロードが描き上げた魔法陣に二人で魔力を流し込む段になって、今度は必要な純度・量の調整がリナリアにはどうしても出来なかった。

 生まれたてのドラゴンの吐く炎だってもっと安定しているだろうという有様だ。

 冷や汗を垂らして指先をぷるぷる震えさせながら隣を見ると、クロードはそのままダンスでも踊りだしそうなくらい優雅な顔をして魔力を操っていた。

 恨めしそうな視線に気づいたクロードがちらりとリナリアを一瞥する。


「リナリア・フェイン……ふざけているヒマは無いのだが」


「ふざけてません。至極(しごく)真面目です‼」


「やるからにはやると……」


「やってます‼やってるんです‼やってこれなんです‼なんでも完璧にこなされるクロード様とは違うんですっ‼」


 規格外の自分を基準にしないで欲しい。

 ……それにしても、クロードの迷いもブレもない魔力の美しいこと。

 リナリアの指先からひょろひょろと遠慮がち流れ出ている老いたガーゴイルの溜息のようなそれとは大違いだ。


 さぞかし呆れているのだろうと居たたまれない思いでいると、眉間に微かに刻まれたシワまで美しい顔で何かを考え込んでいたクロードが呟いた。


「……何故だ?」


「何がですか?」


「何故、そんなに効率の悪いやり方をする?」


 効率⁈

 今まで考えたこともなかったが……確かにクロードの魔力を見ていると、リナリアのそれとは明らかに違うようだ。

 天才だとか凡人だとか、才能や技術レベルの話ではなく、根本的に何かが……。


 隣でクロードが小さくはっと息を呑んだ。


「対象に遠慮でもしているのか? なぜ最初から必要な魔力量を流さない?」


(遠慮⁈)


「遠慮……というか、最初から多量に流すと魔法陣がつらくないかなって」


「魔法陣が……?」


「⁇……はい」


「……………」


 あれ⁈

 基本的に言葉が少なくて表情も変わらないのはいつものことだけど……。

 この顔は……呆れてる………というか、引いてる⁈

 

 なんとなく、クロードの無表情から少しづつその感情が読み取れるようになってきた……気が、する。

 最もリナリアとしては別に嬉しくはなかったが。


「効率が悪い。最初から必要量流せ」


「嫌ですよ。クロード様だって、罰ゲームでいきなり最初から煙が出るほど強列なデコピンされたいですか?」


「全く意味が分からないが……。 俺が描いた魔法陣の受容性なら問題無い。 最初から効率よく必要な量を……」


「ダメです。 クロード様は飛び込んだ浴槽に熱湯が張られてたらどうするんですか? 大火傷しますよ。 最初は指先で温度を確かめますよね?」


「……ちょっと待て。 本当に意味が分からない」


「森に入りてはピクシーの先導に身を委ねよ、です! 己の効率に呑まれては事を仕損じるんです!」


「…………」


 相変わらず、クロードの表情は変わらない。

 ——ように見える、が……。


「クロード様……⁈」

 

 変わらぬ表情の下で目まぐるしく動く思考と思い……。

 

 どうやらリナリアには、動植物に続いてクロードの声なき声までも聞こえるようになってきたらしい。

 やはり、嬉しくはなかったが。

 

 目の前の口数の少ない孤高の天才が思いがけず身近に感じられ、リナリアの口元には知らず笑みが浮かんだ。




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