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第六話 わたしにしか出来ないこと


 本当にこれで良いのだろうか?

 クロードにはああ答えたが、やはりどう考えても自分では力不足だ。

 

 ……とは言え、私のパートナーになってくれそうな人が他にいる訳でもないし。

 

 クロードとのやり取り、学院生たちの冷ややかな空気を思い出し、またもや気が滅入ってくる。

 重い足で中庭をとぼとぼと歩いていると


「どうしたんですか?」


 不意に後ろから、聞き覚えのある柔らかく落ち着いた声に呼び止められた。


「グランシエル教授!」


 振り返ってその姿を見た瞬間、泣きたくなるような衝動に駆られ、リナリアは慌てて笑みを作った。

 


   ◇◇◇



「なるほど。今回の課題をクロード・ルヴェリエ君と組むことになりそうだと……⁈」


「そうなんです。 クロード様、いろんな方から声をかけられていたのに、なんでわたしなんかと……」


 中庭のベンチに二人で腰を下ろすと、リナリアはグランシエル教授に今日の出来事を伝えた。

 

 ルシアン・グランシエル。

 王立魔術士学院の教授である彼は、その穏やかな人柄と類まれな魔術の技術で学院生たちから慕われ、教授陣の間でも人望を集めていた。

 今も隣で神々しいほど柔和な微笑みを浮かべながら、リナリアの話に熱心に耳を傾けてくれている。

 

「しかも、いる意味が無くてもいいなんて……」


 ふむ…と少し考え込むような仕草をしたグランシエル教授は、リナリアの目を真っすぐに見つめると諭すように言った。


「ルヴェリエ君は多くを語らない人ですからね。必ずしも言葉通りの意味ではないのでしょうが……」


 その言葉に釈然としない顔をしていると、グランシエル教授は包み込むような笑みを一層濃くした。

 彼のゆったりとした動きを追うように、美しい銀の髪が揺れる。


「あなたたち二人、案外良い組み合わせかもしれませんよ」


 どこが⁈思わず非難めいた目をしたリナリアに全く動じることなく、グランシエル教授はクスリと笑う。


「信じてください。 あなたのことを一番よく知っているのは、多分私だと思いますしね」


 ウインクでもしそうなくらい悪戯っぽい顔でそう言う彼に、リナリアは内心ハラハラしながら囁く声に怒気を込めた。


「変な言い方しないでください!誰かに聞かれたらどうするんですか‼︎」


 グランシエル教授は慌てるそぶりも反省する様子も見せず、リナリアを面白そうににこにこしながら見つめている。


「大丈夫。誰もいません」


 そっと近づいてきたかと思うと、流れるような仕草でリナリアの頭を優しく撫でながら呟いた。


「心配せずとも、リリにしか出来ないことがありますよ」


 わたしにしか、出来ないこと?


 グランシエル教授が『さて』と息を吐いてゆっくりと立ち上る。


「それと……『わたしなんか』はやめましょうね。『養父』として悲しくなります」


 口元の笑みはそのままに、少し寂し気にそう告げると静かに去っていった。




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