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第五話 意味のない存在


 放課後の魔術演習室。

 周囲を見渡すと、おぼつかない手つきで魔術の練習に(いそ)しむ基礎課程らしい学院生がちらほら見受けられた。

 高等魔術が使用されることを想定し、周囲への影響を防ぐべく全体が結界で守られている魔術区の中で、この演習室はまた一段強力な結界が張られている。

 

 先程教授から告げられた今回の課題『連結術式演習』は、二人一組で学院内にある演習用の魔導窟に仕掛けられた封印を解くというものだった。

 与えられた封印術式の解法を読み解き、その術式を展開する為の魔法陣を描いて二人同時に魔力を流し、封印を解く。

 単に解く速さだけではなく、展開された術式の緻密さや魔力の質・調整力等も評価対象となるため、パートナーには資質や能力のみならず、相性も求められる。

 だからこそ……。


 先に到着していたクロードは、早くも術式の解法を探り始めているようだった。

 目を課題の資料に落としたまま、リナリアに一瞥もくれず淡々と告げる。


「俺が術式の解法を読み解く。君はそれをもとに魔法陣を描いてくれればいい」


 言いながらもクロードはものすごい勢いで、紙片に何かを書き留めている。

 ふと机の上に視線を向けると、すでに書き溜められたか紙片が山になっていた。

 天才恐るべし……。

 普通は読み解きだけでも数日はかかりそうなものを。

 溜息を吐きながら試しに山の中から一枚拾い上げてみる。


「っ⁈」


 何気なく紙片を見たリナリアは思わず気が遠くなりそうになった。

 

「……クロード・ルヴェリエ様」


「クロードで良い」


「……わかりました。 クロード様」


「俺もリナリアと呼んでも?」


「もちろん結構です……じゃなくて‼」


 うっかりクロードのペースに流されそうになり、慌てて会話を引き戻す。


「……クロード様、こんなの……無理です」


「無理……⁈」


 クロードがこともなげに積み上げている紙片に書かれた解法は、専門課程の学院生にも……それどころか、王立魔術研究所の職員にとってさえ難解であろう内容だった。

 この解法を魔法陣に描き起こせと⁈

 課題を出した教授本人でさえ、ここまでの完成度は想定していない気がする。

 当然リナリアの手に負えるものではなかった。


「やっぱり、わたしではクロード様のパートナーは………」


「では魔法陣も俺が描く」


「でもそれじゃあわたしがいる意味が……」


「それでいい」


「え⁈」


「意味が無くていい。だから君を選んだ」


 ——いる意味がなくていいから、わたしを選んだ⁈

 

 確かにクロード程の実力があれば、一人で課題をこなすことも出来るだろう。

 

 でも……。


「……クロード様、それは嫌です……意味が無くてもいいなんて、仰らないでください」


 リナリアの真摯な響きを帯びた声に、クロードが手を止め顔を上げた。


「やるからには、わたしもお役に立ちたいです」

 

 クロードの青みがかった漆黒の瞳がきらりと光る。

 

()()からには?」


「いやっ……そ、そうじゃなくてっ!」

 

「——では、パートナー承諾ということだな」

 

「えぇっ⁈」


「よろしく。 リナリア・フェイン」


 目の前にすらりと長い指を差し出されたリナリアは、反射的にその手を握り返してしまった。

 

 ……結局何だか納得のいかないまま、なし崩し的にクロードのパートナーになってしまった……ようだ。

 相変わらず何を考えているのかわからないし、周囲からの冷ややかな視線に耐えきる自信もない。何より、天才エリート相手に自分が何の役に立てるのかもわからないが……。

 

 リナリアは暗澹(あんたん)たる思いで、積み重なった紙片の山を見つめた。




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