第四話 丁重にお断りさせていただきます‼
「……へ⁈……」
突然の出来事に何が起こったのか理解できず、やっとのことで絞り出た声。
そのあまりの間抜けさに自分でも驚く。
「な……なんでわたし……⁈」
リナリアにしてみれば、目の前にいる恐ろしいほどに美しい天才が、雲の上から戯れに声をかけて来たようにしか思えなかった。
『なぜこの子が……⁈』
学院生たちもざわつきながら固唾を呑んで見守っていた。
教室内にしばし奇妙な沈黙が流れる。
……クロード・ルヴェリエとは、いったいどのような人物だったか。
混乱する頭を必死に働かせて、リナリアは記憶を手繰り寄せてみた。
リナリアが知るクロードとは……。
名門魔術士貴族のご子息様で、家柄や才能に恵まれた学院生たちの中でも抜きんでた天才エリートで……。
今回のような試験課題では、毎回成績優秀者として褒章を授与されてきた常連のはず。
現に彼の胸元にはえげつない数の褒章魔石が煌めいていた。
そんな人がどうして大切な課題で、よりによって落ちこぼれのわたしなんかと組もうなんて言いだしたのだろう⁈
ひょっとして術式の生贄か何かにでもするつもりで⁈
「む……無理です! 絶対に無理‼ お断りします‼」
リナリアは震えながらも毅然としてクロードに訴えた。
その言葉に少しだけ無表情を崩したクロードは、リナリアを不思議そうに真っすぐ見つめた。
「理由は何だ?」
「……理由、ですか?」
「君が、俺と組みたがらない理由」
この冷ややかな空気の中でそれがわからないのはあなただけでは?喉元まで出かかった言葉を必死に飲み込む。
ブラックサファイアのような青みがかった漆黒の瞳に見つめられ、リナリアは身動きも出来なかった。
目の前に立ちすくむ眉目秀麗な天才エリート、クロード・ルヴェリエは表情を変えぬまま、しかしその両の目はリナリアを鋭く捉えている。
「ですから……他にもクロード様と組みたがっている方は大勢いますし……」
「俺が、君が良いと言っている」
「わたしなんかより皆さん優秀ですし……」
「優秀さは求めてない」
「課題、合格できなくても良いんですか?わたしなんか、きっとクロード様の足を引っ張ってしまいます!」
お願い、諦めて!
すがるような思いでクロードの漆黒の瞳を見つめ返す。
視線の先の彼は何を思ったのか、ゆっくりと瞬きをして小さく息を吐いた。
「……心配してもらわなくても、君に足を引っ張られる程度の能力ではない」
「は⁈」
他の人が言ったら嫌味にしかならないであろう言葉。
しかしクロードは眉一つ動かさず、まるで魔術書を朗読するかのようにさらりと言ってのけると、
「——放課後、魔術演習室で」
リナリアの返事も待たず、颯爽とその場を立ち去ってしまった。




