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第三話 まさかの選択


「——というわけで、今回の試験課題は二人一組で行う『連結術式演習』です」


 黒いローブを身にまとった初老の教授が課題内容を告げると、教室の中が一気にどよめいた。


 王立魔術士学院は、入学するとまず基礎課程に所属する。ここで術式や治療術、剣術などの基礎的な学びを終えた者が、最終の専門課程に進むことが出来る仕組みだ。すなわちこの課題をクリアしなければ、この先の進級・卒業……延いては将来にまで大きな影響を及ぼすことになる。

 つまり二人組の相手、パートナー選びは学院生たちにとって死活問題だった。

 


「クロード様、もしよろしかったら私と組んでくださらない?」


 既定の制服に釣り合わぬ、見るからに高価な装飾品を身に着けた女子学生が声をかけてきた。

 それを見たほかの学院生たちも、遅れてなるものかと次々にクロードに詰め寄る。


「クロード様、私と組んでくだされば……!」

「私を……!」

「いえ、自分と……‼」


 学院内に並ぶ者のない天才と組めば課題など楽勝、あわよくば卒業後の強力な人脈だって……。

 そんな下心を隠そうともしない学院生たちに囲まれ、内心うんざりしていたクロードの目に、教室の端でぼんやりしている一人の女子学生の姿が映った。

 取り囲む学院生たちの喧騒とは完全に別世界にいるかのように、マナリーフの葉を撫でながらまるで課題など他人ごとのような顔をしている。


 クロードの脳裏に、先程の男子学生の会話が蘇る。


——マナリーフを休ませるって……

——外郭民ですらない……  

——あんな落ちこぼれ…… 

 

 顔色を変えぬまま、クロードの瞳がキラリと揺らめいた。

 

(ふぅん……あいつか)

 

 突然クロードが前に歩み出た。その迷いのない一歩に、群がる学院生たちの輪が言葉なくして自然と割れる。クロードは彼らの間をするりと抜け、真っすぐに彼女の方へ向かった。


 

    ◇◇◇


 

(二人組かぁ……)


 教授の『連結術式演習』の言葉に、リナリアは目の前が真っ暗になりそうな感覚に陥っていた。

 ただでさえお荷物、落ちこぼれ、しかも平民の自分と組んでくれる人なんている訳がない。

 

 試験には絶対に通らなきゃいけないのに……。

 

 授業が終わるや否や、早くもパートナー探しに動き出す級友たちを尻目に、リナリアは立ち上がる事も出来なかった。

 ふと何の気なしに視線を上げると、教室の一角に何やらひときわ騒がしい人だかりが出来ているようだった。その中心にいるのは……。


(確か、天才エリートで有名な……?)

 

 いずれにしろ、自分には関係のない世界のこと。

 騒ぎが落ち着いたら、相手が見つからず困っている人に声をかけてみよう。

 試験の為ならひょっとすると自分と組んでくれる人がいるかもしれない……。

 マナリーフの葉を撫でながらぼんやりとそんなことを考えていた。

 

 すると(ざわ)めきとともに突然人だかりが割れ、中から渦中の天才エリートが現れた。

 漆黒の髪を揺らしながら、美しい所作で迷いなく歩いてくる。

 その視線の先には——。


(え……⁈ こっちに向かって来てる⁈)


 予想外の光景にクロードを囲んでいた学院生たちが固まっていると、リナリアの前でぴたりと歩を止めたクロードがゆっくりと口を開いた。


 

「リナリア・フェイン、俺と組んでくれ」


 


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