第二話 クロード・ルヴェリエ
窓の隙間から流れ込む心地よい風に、思わずそのまま眠りについてしまいそうだった。
クロード・ルヴェリエは欠伸を噛み殺しながら、気だるげに漆黒の前髪を掻き上げた。
男性にしては細く長く、美しい指で。
その様子を目ざとく捉えた女子学生が息を呑み、隣の友人たちとうっとりと囁き合っている。
「見た⁈……クロード様ってば髪の先から爪の先まで素敵すぎる」
「はぁ…さすがルヴェリエの貴公子様……」
セルディニア王国中枢に仕える魔術士は王立魔術士学院を卒業するという暗黙の慣例があり、この学院は云わば国の養成機関のような役割を担っている。
クロード・ルヴェリエは、王国魔術士貴族の中でも代々王の側近くにに仕えてきた名門ルヴェリエ家の長子だった。
午後の柔らかい日差しを受けてキラリと窓に反射する光に、クロードは目を細めた。
胸元の徽章に埋め込まれた魔石の光だった。
クロードの胸元で輝いている王立魔術士学院生の証でもある徽章には、所属課程や成績を表す魔石が埋め込まれている。
入学以来、優秀者として数々の褒章を受け取ってきたクロードの徽章は、これ以上埋め込む余地がないほどの魔石で煌めいていた。
それぞれが何を評しての石だったのか、なんとなく思い出しかけたが……面倒になってやめた。
(……どうでもいい)
近くで何やら囁き合う声が耳に入り、ふと顔を向けると、クロードと目が合った女子学生がビクリと飛び上がるようにして慌てて俯いた。
それを見た隣の友人らしき女子学生も、からかうように肘でつついて笑いながら自身も耳まで赤くしている。
(なんなんだ……⁈)
不可解な様子に眉をひそめかける。が、その一瞬の心の揺らぎにさえも急速に興味が失われていくのを感じた。
(まぁ…でも…)
——どうでもいい……
クロードは心の中でそう呟いて、再び窓の外に視線を移した。
◇◇◇
「まったく……何なんだよ、アイツ」
「リナリア・フェインだっけ⁈ マナリーフを休ませるって……頭大丈夫なのか⁈」
「どうせ出来ない奴の言い訳だろ。 外郭民ですらないらしいし」
危うく眠りに落ちかけたクロードの側で、男子学生たちのイラだった声が響いた。
王都セレスティアは、王宮を囲むようにして貴族たちの邸宅が建ち並ぶ内郭と、平民たちが暮らす外郭で構成される二重外壁構造型の都だ。
——外郭民ですらない
学院生のほとんどを将来が約束された貴族の子弟、いわゆる内郭民が占める中、外郭のさらに外に住んでいる者を揶揄した言葉だ。
「外郭民ですらないってことは、あれか⁈ 学院長に才能を認められた特別枠の平民……⁈」
「いや~ないない。治癒薬の抽出もまともに出来ない落ちこぼれが」
男子学生たちの軽口はなおも続いたが……。
いずれにしても興味のない内容に、クロードが耳を閉じかけた時、前面の扉がガラリと開かれ教授が勢いよく入室してきた。




